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当院代表佐藤俊彦のコラム ~進行した前立腺がんで余命宣告をされたら~

進行した前立腺がんで余命宣告をされたら

 

宇都宮セントラルクリニック 放射線科医 佐藤俊彦

 

当院の放射線治療センターは、患者さんが継続して治療に通院されていますので、長期休暇中も放射線治療の担当医師が診療を続けてくれています。放射線治療は、中断するとせっかくダメージを受けたがん細胞が、息を吹き返してしまうからです。したがって、連続して治療を続ける必要があるわけです。

 

さて、前立腺がんの患者さんは人口の高齢化とともに急増しています。PSAという腫瘍マーカーとMRIの両方を実施して、健診されるのをお勧めします。それは、PSAが上昇してくるがんと、上昇しないがんがあるからです。PSAが上昇しないがんは、悪性度の高いがんであることが多いのが特徴です。したがって、悪性度の高いがんがPSA健診では見落とされてしまいます。

 

PSAが正常な悪性度の高いがんは、BRCAという遺伝子異常と関連することもわかってきました。BRCA遺伝子は、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因遺伝子ですが、常染色体優性遺伝なので、男性にも遺伝します。そして、悪性度の高い前立腺がんを引き起こします。アンジェリーナ・ジョリーが、乳房と卵巣を予防切除したのですが、イギリスの男性はこの報道を見て、前立腺の予防切除を実施しています。

 

しかし、前立腺の手術にはいくつかの副作用があります。なんといっても、尿漏れとEDが必発することです。ダビンチ手術が保険収載になりましたので、小さい術野で細かい縫合ができるようになり、これらの副作用の程度は改善していると言われていますが、必発すると考えていいと思います。

 

やはり、第一選択は放射線治療だと思います。放射線治療には、サイバーナイフ(5回照射)・トモセラピー(20回照射)重粒子や陽子線治療(20~38回照射)が採用されます。保険点数もそれぞれ適応になっており、サイバーナイフ(63万円)・トモセラピー(70万円)・重粒子線や陽子線治療(150万円)となっています。それぞれ、保険では10%および30%の自己負担になっています。(世界一安い放射線治療です。米国では、約10万ドルします。)

 

さらに、前立腺がんはリンパ節や骨転移・肺転移を引き起こしてくるのですが、このような状態になると、ホルモン治療や抗がん剤治療が開始されますが、ほとんど効果がないものがあります。というより、局所にとどまっていれば放射線や手術で治癒可能ですが、転移が起こると、これまでの標準治療では非常に難しい状況でした。それは、がん細胞はこれまで男性ホルモンが影響して増殖するのだと考えられていたのですが、自治医大の藤村教授のグループが、実は女性ホルモンも関与していることを発見したのです。女性ホルモンに関与するレセプターには3種類あり、男性ホルモンだけでなく、女性ホルモンをブロックする薬を使うことにより、がんの増殖を抑えられるのではないかという理論です。

(©公益財団法人山口内分泌疾患研究振興財団 内分泌に関する最新情報2018年4月より)

 

先生の論文では、通常の男性ホルモンを遮断(アンドロゲン遮断療法)・これにトレミフェン60mgを追加したアンドロゲン遮断療法・ラロキシフェン60mgを追加したアンドロゲン遮断療法を比較して臨床実験を実施しました。驚くことに、トレミフェンの群は100%の5年間の無増悪生存率になっています。つまり、通常のアンドロゲン遮断だけでなく、トレミフェンを服用することで、有意に骨転移を抑えることができたわけです。しかも、この薬が安いのです。保険適応は閉経後乳がんのみなので、前立腺がんには使えません。自由診療で使うしかないのですが、薬価は238.5円(※トレミフェン60mg後発品の薬価)です。

 

すばらしい研究成果だと思います。

 

これが効かない場合は、オーストラリアにいくと、Lu-PSMA療法を実施することができます。<https://www.wtv-psma.com/

  1. いろいろ試したあげく、もう薬が効かなくなった。
  2. 転移多発の去勢抵抗性前立腺がんで、いい薬も治療法もない。
  3. ステージDは治らない。
  4. 効果のはっきりいないクスリを続けたくない。
  5. 転移が何ヶ所もあって、放射線治療ができない。
  6. 抗がん剤はやりたくない、副作用に耐えられない。
  7. リンパ節にも転移していて、ゾーフィゴでは無理。
  8. 抗がん剤が効かず、​医者から「もう手がない」と言われた。
  9. 合併症があって、使える薬剤が限られる。
  10. ​痛みがつらくて、緩和ケアでしかしのげない、などなど。

 

こうなると日本の先生はお手上げで、もう何もすることがないので、モルヒネでホスピスに行きましょうと言うことになるわけです。ところが、この治療で治っている人がたくさんいますので、セカンドオピニオンでご相談ください。

これはアクチニウムというアルファ線を放出する各種を投与したものですが、ドイツで治療を実施していますね。

最初にルテシウムで治療したのですが、ベータ線では効果がなかったので、アクチニウムに変更した例です。完治しているのがわかります。

 

この治療、早く日本でもできるようになればいいのですが、安価に治療できるという意味では、前立腺がんに閉経後乳がん治療薬トレミフェンを使用するという治療法をぜひ覚えておいてください。

 

わたしは放射線治療センターをOPENし、優秀な若い先生方とお仕事をご一緒することができ非常に幸せです。医学は、疾患に対するアプローチがこれまでとはガラっと変化するタイミングなので、流れについて行けるように勉強しながら、臨床の最前線でいち早く導入し、皆様のお役に立てる医療機関に仕上げて参りたいと思います。今後とも、よろしくお願いいたします。

 

【参考①:前立腺がんに関する他のコラム】

・去勢抵抗性前立腺がんの皆様へ:https://ucc.or.jp/2019/05/11185

・去勢抵抗性前立腺がんのLu-PSMA治療に関して(続報):https://ucc.or.jp/2019/08/11481

 

【参考②:セカンドオピニオンについて】

・セカンドオピニオン外来のご案内:https://ucc.or.jp/consultation/second_opinion

・遠方の方でも受診ができるオンライン診療のご案内:https://ucc.or.jp/telemedicine/