当院のご案内
クリニックからのお知らせ

当院代表佐藤俊彦のコラム ~去勢抵抗性前立腺癌の皆様へ~

去勢抵抗性前立腺癌の皆様へ

宇都宮セントラルクリニック 放射線診断医 佐藤俊彦

 

前立腺がんは、男性ホルモンによって引き起こされると言われています。したがって、基本的には男性ホルモンに対するブロッカーを使い、手術や放射線治療で治療を行います。PSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーを目印として病変のコントロールをしていきます。治療に反応があれば、PSAは正常化していきます。しかし、これらの治療に抵抗して遠隔転移を起こしてくる腫瘍があり、これを去勢抵抗性前立腺がんと定義しています。

 

こうなると抗がん剤を用いるわけですが、ドセタキセルは比較的副作用が少なくて有効な薬と評価されています。しかし、これも効かなくなると、新規の抗がん剤であるカバジタキセル(ジェブタナ)、新規のホルモン治療剤として、エンザルタミド(イクスタンジ)とアビラテロン(ザイティガ)をトライしますが、これも効かないとなると標準治療では他に方法がないため、緩和医療を勧められます。

 

自由診療となりますが、治療には3つの選択肢があります。

  1. トレミフェンによる治療
  2. 免疫細胞療法
  3. Lu(ルテチウム)-PSMA治療

 

1.トレミフェンによる治療

前立腺がんの組織を再度組織生検すると、そこに女性ホルモンレセプターが証明されることがあります。この場合、標準的なホルモン治療では女性ホルモンを服用させることがあるのですが、かえって腫瘍の増殖を促進させることになってしまうため、逆効果になります。こういった場合に、ブロッカーのトレミフェンを使います。

2.免疫細胞療法

免疫細胞療法には確立された方法はありませんが、私の経験ではBAK療法でCR(がんの徴候が消えている状態)になった患者さんを経験しています。原理的には、CAR-T細胞療法のようなシステムを構築することも可能であると思います。免疫チェックポイント阻害剤では、イピリブマブとニボルマブの併用で、良好な結果をMDアンダーソンが報告しています。

3.Lu-PSMA治療

Lu-PSMA治療は、前立腺がんの膜表面にPSMAというタンパクが存在するので、抗体医薬でそこにベーター線を出すルテチウム(Lu)を標識して、組織内照射を実施するものです。副作用は、PSMAを少量含んでいる唾液腺・涙腺・小腸・腎臓・骨髄にわずかな障害が起こりますが、重篤なものはありません。治療の適応は、PSMA-PETで事前に確認して、治療後もがんに集まっているかを確認することが可能です。当院では、Würzburg(ブュルツブルク)大学病院の福島先生との提携でこの治療をご紹介できる体制を構築しました。まずは、私のセカンドオピニオン外来を受診していただくか、遠方の方はオンライン診療を使って受診して下さい。詳しいご説明をさせて頂き、適応があれば福島先生をご紹介致します。先生は、月に1度継続してドイツに行かれておりますので、患者様にはその日程に合わせて治療を受けて頂くことができますし、秋からは日本人留学生も滞在される予定です。このように、日本人の先生に対応して頂くことができ、安心して治療を受けることが可能です。

これはルテシウムによる治療ですが、PSAのレベルがコントロールされていることがわかります。

 

いい治療ですし、日本人の先生方がサポートしてくれますので、諦めずにぜひトライして下さい。

 

前立腺がんの治療法の一つにRI内用療法があります。

この療法はがん細胞がもっているPSMAというタンパクに対して、特異抗体を準備します。そこにGa(ガリウム)を標識してPETを撮影することで、まずはがん細胞にPSMAが存在することを確認します。したがって、Ga-PSMAで陽性であることを確認して、Lu-PSMAを投与し、組織内からβ線照射を開始します。

前立腺がんの中には、この物質が存在しない細胞(神経内分泌腫瘍:NET)に変化するものも報告されており、DOTATATE(キレートの一種)を用いたPETを実施することで診断も可能です。

 

上の画像は治療前(下段)と治療後(上段)の比較です。たった1回のLu-PSMA投与で腫瘍サイズが縮小していることがわかります。これにより、以下のグラフのように腫瘍崩壊症候群が発生し、一過性にPSAの急上昇をもたらしましたが、その後急速にPSAが低下しました。実際患者側にも腫瘍崩壊症候群による体調不良がありましたが、すぐに回復されています。

この度、2回目のLu-PSMAを実施しましたが、1度目の副作用より軽微のようです。

注意を払う注目点は、両側の耳下腺に集積していることです。つまり、唾液腺も放射線照射されてしまうので、治療中の冷却が必須です。

そして、このあとの治療としては、Immuno-Radiation therapy(免疫放射線療法)が重要になります。

https://www.cancerit.jp/62230.html

前立腺がんは、免疫治療が効かない”冷たいがん”として有名ですが、これにニボルマブとイピリブマブを併用することで有効と報告されています。

こちらの前立腺がんも当院のケースですが、去勢抵抗性になり、抗がん剤を実施していましたが効果がない患者さんにBAK療法を実施したケースです。PET画像では、CR(完全奏効)になっていることがわかります。

したがって、去勢抵抗性前立腺がんに対して放射線内照射のあとに何らかの免疫治療が有効であると考えます。

 

当院では、ブルツブルグ大学の福島先生と共同で、これらの患者さんのアウトバウンドのご支援をしております。スケジュールの例は以下の通りです。1クールが3~4回で、治療と治療の間に基本的には約8週間の休みがあります。

遠方の方で相談されたい場合には、当院の遠隔医療システムを使えば、全国からお問い合わせが可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

https://ucc.or.jp/telemedicine/

 

今後、去勢抵抗性前立腺がんに関しては、患者さんの急増が予測されています。しかし、国内では、診断目的のGa-PSMA検査や治療目的のLu-PSMAの体制が未整備の状況です。

前立腺がんの患者さんは、比較的全身状態がいい患者さんが多いので、渡航に関しても、十分に耐えられる患者さんが多くいらっしゃり、私たちはこのシステムを積極的に押し進めるつもりです。

近い将来に、日本でもこの治療はポピュラーになってくると思いますが、まずは、患者さんと一緒に勉強していこうと考えております。

暑い毎日が続きますが、ますますのご健勝を御祈念いたします。

今後とも、当院へのご支援のほど、よろしくお願いします。

========================================================
◇当院はセカンドオピニオン外来も行っております。詳しくは下記URLをご覧ください。
(詳しくは当院のHPよりご確認下さい。)