代表的な症状

日本人の多くが悩まされている花粉症。その中でも多いのが「スギ花粉症」です。
スギ花粉症の季節になると、くしゃみ・鼻水が止まらず、日常生活にも大きな影響を及ぼします。
そんなスギ花粉症の原因や治療方法など説明します。

 

宇都宮市でスギ花粉症のワクチン接種

 

 

もはや国民病といってもよい花粉症は、アレルギー性疾患と呼ばれる病気の中のひとつです。

 

私たちの体は「抗原」と呼ばれる異物が侵入すると、その異物を体外へ追い出すため、涙を流したり鼻水を出したりと、様々な対応をします。
それが「アレルギー反応」と呼ばれる症状です。

 

日本アレルギー協会会長の奥田稔が行った住民台帳を基準にした疫学調査では、スギ花粉症について全国平均では15.6%。
地域別の有病率では東北13.7%、北関東21.0%、南関東23.6%、東海28.7%、北陸17.4%、甲信越19.1%、近畿17.4%、四国16.9%、中国16.4%、九州12.8%となっています。
北海道、沖縄はごく少ない有病率であったとされています(*1)。

 

最近の調査によると、スギ花粉症の有病率は全国で20%を超えているともいわれています。
少なくともスギ花粉症はアレルギー性鼻炎全体と共に増加していることは明らかで、注意しなければなりません。

 

また、発症時期の低年齢化も進んでおり、アレルギー性鼻炎以外のアレルギー疾患との合併も気をつけなければいけないでしょう。

 

スギ花粉に代表されるアレルギー性鼻炎では、発作性反復性のくしゃみ、水っぽい鼻汁、鼻づまりが主な症状として出ます。
特に大量の花粉にさらされた場合は、

 

  • 目やのどの痒み
  • アトピー性皮膚炎
  • 発熱
  • 頭痛

 

など鼻以外の場所にも様々な症状が出ることがあります。
また、抗アレルギー薬の内服による眠気やだるさなども併せて起こることがあり、見分けることもなかなか難しいです。

 

スギ花粉が飛散している間は、自然に良くなることはありません。
特に小児で花粉症を発症した場合は、多くの小児が改善することなく成長していきます。

 

スギ花粉症の原因は、何といってもスギの花粉が飛び始めることにあります。
花粉症に悩まされている方は皆さん、肌感覚でスギ花粉が飛んでいるのを感じることが多いのではないでしょうか。

 

いわゆる花粉症を引き起こす花粉は、全国に60種類以上あるといわれていますが、大別すると「樹木花粉」と「草本花粉」になります。
前者はスギ、ヒノキ、シラカバなどが、後者としてはカモガヤ、ヨモギ、ブタクサなどがあります。

 

特に、日本特有とされるスギ花粉症は患者の増加、症状の強さから大きな問題になっています。
スギは沖縄と北海道を除いた日本列島全土に植生しており、またスギ花粉は飛散数が多い上に飛散距離が長く、長期にわたり症状を呈するという特徴があります。

 

スギ花粉によるアレルギー性鼻炎だけだと、特に重篤な状態になることはありません。
学童期であれば、鼻水や鼻づまりによる集中力の低下が原因で学力の低下を来たしたり、成人であれば仕事高率の低下など、病気以外の面に影響を及ぼすことがあります。
そんなスギ花粉症にまつえわる医療関連費用や労働効率の低下による社会的コストは、約3000億円(年間)を超えるとも試算されています。

 

スギ花粉症に代表されるアレルギー性鼻炎の治療法は、

 

  1. 抗アレルギー薬の内服
  2. アレルゲン免疫療法

 

この2つに分かれます。
ここでは、まだ保険診療として認められて日は浅いですが、大きな効果が得られる可能性があるアレルゲン免疫療法に関して解説します。

 

まず現在、光源として保険適用されているのは、スギとダニに対するアレルゲン免疫療法のみです。
それ以外の抗原に関しては、まだ認められていません。

 

アレルゲン免疫療法(減感作療法)は従来の薬物療法とは大きく異なり、そのアレルギー症状を起こす特定の抗原に対する、唯一の原因特異的治療法です。

 

このアレルゲン免疫療法は、皮下注射や舌下投与などの方法により、少量の抗原を徐々に増量しながら体内へ摂りこませ、特定の抗原に対する過敏性を徐々に改善させる方法です。
日本の『鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版』でも、その有効性が認められています。

 

その一方で、注意しなければならないことが2つあります。
1つめは、「5歳以上からでなければアレルゲン免疫療法が受けられない」ということ。
もう1つは「副作用」です。

 

年齢に関しては、治療法として年齢制限がかかっているのではなく、薬剤を開発する時の臨床試験の対象が5歳以上であったことによります。

 

また、アレルゲン免疫療法の最大の問題点は、全身性の副作用を示す可能性があることです。
この治療法ではアレルギーの原因を投与するので、アナフィラキシーショックなど重篤な副作用が起こる可能性があります。
そのため、アレルゲン免疫療法を行う医療機関だけではなく、家庭でもアナフィラキシーショックに対する治療法などを理解してもらうことがとても大切です。

 

アレルギー性鼻炎は多くの方がかかる病気であり、その治療法も多岐にわたります。
特にアレルゲン免疫療法は長期間にわたる、根気のいる治療法です。
この治療法に熟知した信頼できるかかりつけ医を見つけ、二人三脚で治療を行いましょう。

 

■参考
*1(引用)厚生労働省ホームページ アレルギー性鼻炎 花粉症

 

 

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  1. アレルギー疾患の患者数は過去30年以上にわたり世界的規模で増加しており、日本では特にアレルギー性鼻炎/スギ花粉症が増えています。スギ・ヒノキ花粉の飛散量は1987年から2007年の20年間で約3倍に増加しており、今後も花粉によるアレルギー性鼻炎は増加し続ける可能性があります。
  2.  

  3. 複数の調査より“乳幼児から高齢者まで国民の2人に1人は何らかのアレルギー疾患に罹患している“との報告がなされ、「アレルギーは21世紀の国民病」と言えます。
  4.  

  5. 舌下免疫療法は従来の薬物療法とは異なり、アレルギー疾患における唯一の根治療法としてその有効性や安全性のデータが集積されてきました。

 

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【文献】

  1. スギ花粉症におけるアレルゲン免疫療法の手引き(アレルギー学会) 2018年改訂
  2. 鼻アレルギー診療ガイドライン(耳鼻咽喉科学会) 2016年改訂
  3. 喘息予防・管理ガイドライン(アレルギー学会) 2021年改訂
  4. 花粉症対策の全体像(花粉症に関する関係閣僚会議) 2023年5月

 

 

舌下免疫療法はアレルギーの原因となっているアレルゲン(抗原)を少量から徐々に量を増やし舌の下(舌下)に繰り返し投与することにより、体をアレルゲンに慣らし症状をやわらげる治療法です。即効性はありませんが根本的な体質改善(長期寛解・治癒)が期待されており、治療終了後も一定期間効果が持続します。
 

  • くしゃみ、鼻汁、鼻閉、咳などの症状がひどい(重い)人
  • 薬をたくさん使用する人、薬の副作用で困っている人、妊娠中・授乳中などで薬が使用できない人
  • 症状が年々ひどく(重く)なっている人
  • 受験、就活、結婚式、卒業式など大切なイベントを控えている人 など

 

  1. 問診と血液検査でアレルギーの原因(アレルゲン)を確かめます。
  2. スギ花粉またはダニから抽出した薬剤を舌の下(裏)に1分間保持してから飲み込みます(初回は医師の前で服用)。服用後5分間はうがいや飲食を控えます。
  3. 2回目以降は自宅で1日1回服用(舌下)します。
  4. 治療期間は3~5年間ですが、確実な効果を出すためには最低3年は治療が必要です。治療終了後も効果が一定期間持続するため、5年以上は継続しません。

 

  • 80%以上の人に有効
  • 2~3年より4~5年続けた方が有効率は増します
  • 鼻症状、眼症状、咳や喘息増悪などの下気道症状が全体的に改善します
  • 薬剤の使用量が減ります(薬剤費が軽減できます)

 

  • 口の中の腫れ、かゆみ、口内炎、ノドのかゆみ・違和感などが治療開始1~2週間に出現することがありますが、4週目以降は体が薬に慣れて出にくくなります。
  • アナフィラキシーなどの強いアレルギー反応を起こす可能性がありますが、実際には極めてまれです。

 

  • 妊娠中または授乳中の人は新しく治療開始はできません(妊娠前に治療開始して後から妊娠した場合は治療中断の必要はありません/授乳中も治療継続できます)
  • 重症の喘息がある人(喘息の発作が頻回にある人)
  • 重い心臓病のある人
  • がん治療中の人、ステロイドなど免疫抑制薬を使用している人 など

 

  • 5歳以上であれば可能です
  • 適応年齢の上限はありませんが、65歳以上の人は一般的に治療効果が減弱します

 

スギ舌下免疫療法はスギ花粉が飛散する時期は開始できないので、6~12月に開始します(ダニ舌下免疫療法は1年中いつでも治療開始できます)
 

3割負担の場合、初診料はアレルギー検査などで4000~5000円、2回目以降は診察料と薬剤量を合わせて3000円/月ほどになります
 

治療開始後の数回は副作用の有無を確認するため2~4週間ごとの通院が必要ですが、安全な服用が確認できれば2~3か月ごとの通院も可能です
 

舌下免疫療法は即効性のある治療法ではないので、効果が出るには数ヶ月かかります(個人差あり)。ダニ舌下免疫療法の場合は半年~1年後に効果判定し、高濃度製剤に変更する場合もあります。
 

治療開始直後の場合は最初からやり直す方が安全ですが、治療開始から十分に時間が経過して維持量になっている場合は、たまに(週1、2回)忘れる程度であれば問題ありません
 

歯科治療(抜歯、インプラントなど)やひどい口内炎の場合は傷口から薬の吸収率が上がってしまうため、一時的な休薬(治療中断)が必要となります。中止期間は個々のケースで異なりますが、痛みや出血等がなければ一般的に3日~1週間ほどの休薬後に再開が可能です。
 

併用できますが、同時に開始することはできません。一般的には最初の薬を開始して数ヶ月経過してからもう1つの薬を開始します。スギとダニのアレルギー症状の強さは個人により異なるので、どちらを先に行うかは医師と相談して下さい。
 

舌下免疫療法と抗アレルギー薬の併用は問題ありませんが、ステロイドや免疫抑制薬などは舌下免疫の効果を弱める可能性があるため、可能な限り短期間の使用が望ましいです(ステロイドの点鼻や点眼との併用は問題ありません)。舌下免疫療法の開始直後は口の中のかゆみや腫れが出ることがあるため、抗アレルギー薬を使用することがあります。
 

スギ舌下免疫療法の薬(シダキュア)とダニ舌下免疫療法の薬(ミティキュア)はともにアンチ・ドーピング使用可能薬です(日本スポーツ協会ホームページ掲載)。アスリートにとってアレルギー性鼻炎やスギ花粉症はパフォーマンスに大きく影響する病気であり、薬の副作用やアンチ・ドーピングも心配ですが、舌下免疫療法はその心配がなく安心して治療できます。
 
スギ花粉症の患者数(有病率)

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