個別化医療を目指した当院の取り組み

近年、前立腺がんの患者数は年々増加傾向にあります。2020年には約9万人/年が前立腺がんに罹患し、男性の部位別がん罹患数で見てみると第1位となっています。

前立腺がんの患者数
部位別罹患数(男性2020年)

参考:国立がん研究センター がん情報サービス(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/20_prostate.html

前立腺癌では転移の有無が治療方針に大きく関わってくるので、画像診断によるステージの決定が重要になってきます。宇都宮セントラルクリニックでは早期発見・早期治療のため、前立腺がんの検出に優れているPSMA-PETを2024年4月から導入することとなりました。

前立腺がんは他のがんと比べてゆっくりと進行していきます。進行度はステージ1~4までの4段階で評価され、ステージ1~3までは前立腺のみ留まっている状態で、転移がみられる場合はステージ4とされます。ステージ別の5年間生存率を見てみると、ステージ1~3では86~91%、ステージ4では51%となります。ステージ1~3までの生存率が高いため早期発見・早期治療を行うことで十分に治癒が見込めます。

ステージ1:89.6%
ステージ2:91.1%
ステージ3:86.4%
ステージ4:51.1%

参考:がん種別統計情報 前立腺|国立研究開発法人 国立がん研究センター(https://hbcr-survival.ganjoho.jp/graph?year=2014-2015&elapsed=5&type=c12#h-title

前立腺がん検査の腫瘍マーカーで「PSA」を聞いたことがあると思います。PSMA-PETの「PSMA」は名前がよく似ていますが「PSA」とは全く違うものになります。

PSAは「前立腺特異抗原(Prostate Specific Membrane Antigen)」の略です。前立腺から血中に放出されたタンパク質のことで、前立腺に異常があると血中に漏れ出てPSA値が高くなります。PSMAは「前立腺特異的膜抗原(Prostate Specific Membrane Antigen)」と呼ばれるタンパク質で、前立腺細胞の「膜(Membrane)」に埋め込まれた状態で存在します。前立腺がんではこのPSMAが通常の100~1000倍に発現します。

PSMAは固有のトゲ状の形をしていて、そこにぴったりと合う形をした物質をリガンドと呼びます。ちょうど鍵と鍵穴のような関係です。このリガンドに放射性物質をくっつけた薬剤を人体に投与することで、リガンドがPSMAに結合します。そのリガンドに付属した放射性物質からでた放射線を受信することでPSMAの発現箇所を画像にすることができます。

PSMA-PETはCT、MRIでは検出しにくいような小さながんも検出することが可能です。マイヤ・ラジナ博士らの論文によると、局所リンパ節転移の検出率においてMRI=41.7%、PSMA-PET=83.3%とPSMA-PETの検出率が優位というデータがあります。

参考:(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7218697/

がんの診断でよく使われるFDG-PET検査との大きな違いとして、PSMA-PET検査は、前立腺がんの診断精度の向上に特化しています。2つの検査で得られた以下の画像を比較すると、PSMA-PET検査では特に転移巣の描出がよくわかります。

PSMA-PET検査とFDG-PET検査の比較画像(転移巣の検出)

また、PSMA-PET検査は、前立腺がんの病期判定(ステージング)に役立ちます。2つの検査で得られた以下の画像比較してみると、PSMA-PET検査が前立腺がんの骨転移巣の描出能に特化していることがわかります。

PSMA-PET検査とFDG-PET検査の比較画像(骨転移に関する描出)

*1 FDG-PET検査とは がん細胞は正常細胞の3〜8倍のブドウ糖を消費します。この性質を利用し、ブドウ糖の類似物質に放射性同位元素(F-1)をつけた薬(フルオロデオキシグルコース〈FDG〉)を注射して、FDGの集積部位を画像化することで、がん細胞を発見する検査です。

PSMA-PET検査は遠隔転移までも含めた明らかな再発・転移を鮮明に描写できるため、治療方針を検討する上で非常に有用です。局所に限定されない転移の存在が明らかになると、ホルモン療法に化学療法を併用します。

さらに、骨転移が認められた場合には、骨転移治療も検討する必要があります。治療法を選択するにあたって、PSMA-PET検査を用いた転移の有無の確認は重要であり、患者さまの治療の選択肢が広がります。

従来の画像検査(MRI、CT、骨シンチ)と比較しPSMA-PETは前立腺癌の検出能がとても高い検査になります。海外の論文では前立腺癌患者に対して検査を行い、転移を見つけることができたのがPSMA-PETでは92%、CT+骨シンチでは65%という結果があり、PSMA-PETの方がより優れていることがわかります。

参考文献:Prostate-specific membrane antigen PET-CT in patients with high-risk prostate cancer before curative-intent surgery or radiotherapy (proPSMA): a prospective, randomised, multicentre study(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32209449/

PSMA-PET 92%、CT+骨シンチ 65%
CT画像、PSMA-PET画像

↑CT画像で骨硬化像といった転移所見はありませんが、PSMA-PET画像では左腸骨に転移があることがわかります。

参考文献:Accuracy of 68Ga-PSMA-11 PET/CT and multiparametric MRI for the detection of local tumor and lymph node metastases in early biochemical recurrence of prostate cancer(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32419979/

また、前立腺がん治療後のPSA上昇の患者さんにも有効です。従来では前立腺癌治療後の生化学的再発(BCR)の患者に対して、CT/骨シンチでの転移再発診断が行われてきました。しかし、前立腺特異膜抗原(PSMA)をターゲットとする「PSMA-PET」ではこれらの検査と比較して感度・特異度が高いといわれており、海外で転移診断として検査が行われてきています。

ナタリア・クンスト博士らの論文によると、BCRの患者1000人に対して
① PSMA-PET
② CT/骨シンチとPSMA-PET
③ CT/骨シンチのみ
の3通りの検査方法での検出率の違いが出されていました。結果は下記の通りとなります。

① PSMA-PETで転移診断された患者は611人
② CT/骨シンチに続いてPSMA-PETを使用して転移診断された患者は630人
③ CT/骨シンチのみを使用して転移診断された患者は297人

PSMA-PET単独の場合と比較して、CT/骨シンチ+PSMA-PETでは少し上回り、CT/骨シンチでは半分以下の検出率となっていました。

このことからBCRの転移診断においてPSMA-PETが非常に検出率の高い検査であることが伺えます。

【骨シンチ】【PSMA-PET】

上記は前立腺癌術後の方で、PSA再発の症例です。一般的な検査である骨シンチでは頸椎への転移は確認できませんが、PSMA-PETでは明瞭に確認する事ができています。

その後、再発部位に放射線治療を行い照射後1ヶ月でPSAが1.03から0.22に低下しました。

「前立腺癌治療後、PSAが徐々に上昇してきているが、他の検査では異常が見つからない」

そのような方はPSMA-PET検査の受診を一つの選択肢として考えていただいても良いかもしれません。検査により再発や転移巣が早期に見つかれば、治療の選択肢が広がる可能性があります。

他の検査では発見が難しい小さな転移再発巣を早めに発見することができます。

ステージ1~3では手術、放射線治療、ホルモン療法などの選択肢が生まれるため、早期発見することでそれぞれの患者さんに合った治療法を選択することが可能になります。

ステージ4でもオリゴ転移なら保険で放射線治療を行うことが出来ます。放射線治療を行うことでアブスコパル効果を期待することができます。

アブスコパル効果とは放射線を癌に照射し、そこから漏れ出た癌抗原により細胞傷害性Tリンパ球(癌細胞を攻撃できるリンパ球)を活性化させることで、全身に転移した腫瘍も消失させる効果のことです。

この効果の再現性には放射線照射が重要で、サイバーナイフやトモセラピーによるhypofructionationが有効とされています。(hypofructionationは1回 2Gy程度の通常分割照射と比較し、1回線量を増加させ照射回数を少なくした照射の事)

またチェックポイント阻害剤や免疫細胞療法との組み合わせも有効も言われていて、MD Anderson Cancer CenterのDr. Welshらによると、high dose/hypofructionationの放射線照射により、免疫応答誘導性細胞死(immunologic cell death:IDC)を生じ、ネオアンチゲンが放出される事で、リンパ節にある抗原提示細胞(APC)がキラーT細胞を教育し、転移巣の癌細胞を攻撃する仕組みとだと言われています。

その際に転移巣へ低線量の放射線照射を組み合わせると、制御性T細胞(T-reg)が放射線により抑制されて、強いアブスコパル効果を示すと言われています。

アブスコパル効果と予後については、転移性悪性黒色腫でイピリムマブを投与した120例のうち、 緩和的照射をした21例においてアブスコパル効果が11例に認められ、それらはアブスコパル効果が見られなかった10例に比べて、明らかに予後が良好とのデータもあります。

参考文献:Grimaldi AM et al: Abscopal effects of radiotherapy on advanced melanoma patients who progressed after ipilimumab immunotherapy. Oncoimmunology 3: e28780, 2014

初発診断の時の正確なステージ決定することがでます。より詳細なステージを決定する事で、適切な治療法を選択することができます。

海外の診断ガイドラインではPSMA-PET推奨がされており、ステージング検査においてメジャーな検査の1つになっています。

参考文献:EAU-EANM-ESTRO-ESUR-ISUP-SIOG Guidelines on Prostate Cancer-2024 Update. Part I: Screening, Diagnosis, and Local Treatment with Curative Intent(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38614820/

放射線を使う検査なので被ばくがあります。

放射性薬剤の投与による被ばくは約2.2mSv(ミリシーベルト)、加えてCT検査の被ばく量となります。この量では、急性の放射線障害が起こる可能性はありません。また、将来がんの発生の可能性もほとんどありません。

なお、保険適応外の検査なので、全額自己負担になります。

PSMA-PET検査は未診断の前立腺癌を確定するものではありません。また、前立腺癌患者の5%はこの検査は有効でないとされています。

前立腺癌以外へのPSMA-PET検査

PSMA-PETは前立腺がんの診断に主に使用されますが、前立腺がん以外でも集積が見られることがあります。以下のがん種でPSMA-PETの集積が報告されています。

1. 腎臓がん
2. 膀胱がん
3. 乳がん
4. 肺がん
5. 大腸がん
6. 甲状腺がん
7. 脳腫瘍(神経膠腫)

これらのがん種でPSMA-PETの集積が見られる理由は、PSMAが腫瘍の新生血管形成に関与しているためと考えられています。

また、PSMAは生理的集積箇所として涙腺、唾液腺、肝臓、脾臓、小腸などの正常組織にも集積することが知られています。これはPSMAがグルタミン酸の酵素としての役割を持っているためです。

ただし、PSMA-PETの前立腺がん以外のがん種での診断的価値については、さらなる研究が必要です。現時点では、前立腺がんの診断と治療モニタリングが主な適応となっています。

受付、問診、注射、待機60分、撮影20分、待機30分、会計

ご不明点・詳細はお気軽にお問い合わせください。

・検査の30分前までに受付にお越し下さい。
・検査時間は約2時間です。
・食事制限・服薬制限はございません。
・キャンセルの場合は前日までにご連絡ください。
 028-657-7306(PETセンター)

保険適用外のため、自由診療で 275,000円(税込)

お電話にて承ります。患者さまのご希望等をお伺いして、日程を調整します。

電話受付:月〜土 9時〜18時
〒321-0112 栃木県宇都宮市屋板町561-3

前立腺がんの検査から治療まで

当院では2018年に、トモセラピーとサイバーナイフを備えた放射線治療棟を開設。それぞれの放射線治療装置の特徴を活かし、患者さまの現在のがんの状態(大きさ、転移の有無)に合わせた有効な治療法をご提供しています。