代表的な症状

「ご飯を食べた後にみぞおちの辺りが痛くなる」

「お腹が張る」

「疲れが抜けない」

 

皆さん、このような経験をしたことはありませんか?
ひょっとしたら“胃潰瘍”になってしまっているかもしれません。

 

最近の研究では、胃潰瘍は「ストレス関連疾患」と呼ばれ、職業上のストレスや睡眠不足、疲労と密接な関連を示していることが分かっています。
現代の職業病といっても過言ではありません。

 

ここでは、なぜ胃潰瘍になるのか、胃潰瘍になってしまったらどうなるのか、胃潰瘍の治療法などを説明します。

 
宇都宮市の胃潰瘍の治療

 

 

胃は、食べ物の消化をするために、胃酸を絶えず分泌しています。
胃酸の消化能力はかなり強く、通常の食事であれば数時間でドロドロに溶かしてしまいます。
その一方で、その胃酸から胃を守るために、様々な防御機構も働いています。
この消化能力と防御機構のバランスをうまくとりながら、私たちは食事をし、様々な栄養素を吸収しています。

 

ところが、この消化能力と防御機構のバランスが何らかの原因で崩れて、胃の粘膜に障害を与えるようになったものが胃潰瘍です。
胃の壁は、内側から粘膜-粘膜下層-筋層-漿膜下層-漿膜(しょうまく/一番外の壁)という5層構造になっています。
胃自体は「蠕動(ぜんどう)」という、胃の内容物を送る動きをしますので、かなり分厚い筋肉で出来ています。
そのうち、粘膜-粘膜下層まで胃酸の影響を受けて深く掘れてしまった状態を、潰瘍と呼びます。

 

胃潰瘍は中高年の男性に多い病気です。
中高年の男性は、胃酸は少ない状態ですが、胃酸に対する防御機構が崩れてしまっているため、胃潰瘍になりやすいといわれています。

 

十二指腸潰瘍と同様に、胃潰瘍の自覚症状で最も多くみられるのは、みぞおちやお臍(へそ)まわりの痛みです。
胃の粘膜も、もともと痛みを感じませんので、潰瘍が出来たとしてもすぐには分かりません。
潰瘍による痛みは、胃酸が潰瘍の場所に作用して、その部分が痙攣し始めることで生じるとされています。
また、胃潰瘍では、胃酸が分泌される食後に痛みが強く出始め、十二指腸潰瘍と違い、食事を取っても痛みが軽くなりません。

 

潰瘍がさらに深くなり筋層まで届くと、持続的に出血し始めます。
そのため、コーヒーの粉のような色の血を吐いたり(吐血)、海苔の佃煮のような真っ黒い便(下血)が出ることもあります。
胃潰瘍では、吐血のほうがよく見られます。

 

胃潰瘍の原因は、胃酸に対する防御機構の崩壊が最も大きいといわれています。
消化を促す因子、つまり攻撃因子として胃酸やペプシンと呼ばれる消化液が分泌され、防御機構は粘液や重炭酸と呼ばれる消化液が担っています。

 

胃潰瘍の場合は、胃酸などの攻撃因子はそれほど増えず、むしろ防御因子の弱体化が顕著です。
この防御因子が出なくなる原因として、精神的ストレスや非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)、アスピリンなどの薬剤が挙げられます。
そして近年では、ヘリコバクターピロリ菌の関与も証明されるようになりました。

 

日本人の胃潰瘍のうち約90%に、ヘリコバクターピロリ菌が関与しているといわれています。
ヘリコバクターピロリ菌が胃に感染すると、これを攻撃しようと全身の免疫細胞が胃に集まり、炎症を起こします。
その際に放出された種々の障害物質により、胃の粘膜がもろくなってしまいます。
そこにストレスやNSAIDsなどの原因が重なると、簡単に胃潰瘍となってしまいます。

 

このように、ピロリ菌やストレス、NSAIDsなど胃に障害を与える原因はたくさんあります。
最近ではピロリ菌とNSAIDsが胃潰瘍の原因の95%を占めるようになってきました。

 

そしてもう一つ、胃潰瘍を起こす原因として忘れてはならないのは、胃癌です。
胃癌は胃の粘膜から発生する悪性細胞ですが、これも胃潰瘍を起こします。
また、胃癌の発生にはヘリコバクターピロリ菌が強く関与していることも忘れてはいけません(*1)。

 

ヘリコバクターピロリ菌やNSAIDsが原因である胃潰瘍の治療は、H2ブロッカーやプロトンポンプインヒビター(PPI)と呼ばれる内服薬を用いた内科的治療がほとんどです。
胃潰瘍で外科手術をすることはごくまれです。

 

そして、ヘリコバクターピロリ菌の除菌も胃潰瘍の治療には重要です。
内科的治療で胃潰瘍が改善したとしても、ヘリコバクターピロリ菌が残っていると、また胃潰瘍が出来てしまいます。
胃潰瘍の診断を受ける際には、おそらく胃内視鏡検査を受けるはずですので、ヘリコバクターピロリ菌の検査も一緒に受けたほうがよいでしょう。

 

また、食習慣の改善も胃潰瘍の治療には必要です。
十二指腸潰瘍の治療と同様に、刺激物は避け、なるべく消化の良いものや、胃粘膜を保護してくれるような食事を心がけてください。

 

胃潰瘍で注意することは2点あります。
ひとつは胃潰瘍穿孔(いかいようせんこう)という、胃に穴が空いてしまう病気。そしてもうひとつが、前述した胃癌です。

 

胃潰瘍穿孔は潰瘍が漿膜まで到達してしまい、そのまま穴を空けてしまう状態です。
穴が開いてしまうと、お腹の中に胃酸や、食事の残りが飛び出てしまいます。
胃内の胃酸は十二指腸内の胃酸より濃度が高いため、かなり症状が強く出ます。
万が一、胃潰瘍穿孔を起こしてしまった場合には、緊急手術が必要となります。

 

胃癌の場合は、こちらも深い潰瘍を作りますので、胃に穴が空いてしまうことがあります。
過去に1度も胃内視鏡検査を受けたことがなく、胃潰瘍穿孔の手術を受けて初めて胃癌と診断されることもあります。
ヘリコバクターピロリ菌の感染の有無も含めて、人間ドック等での定期的な健康診断を受けるよう心掛けてください。

 

胃潰瘍には、ヘリコバクターピロリ菌やNSAIDが原因で発生した胃潰瘍と、胃癌が原因で発生する胃潰瘍の2つがあります。
特に胃癌が原因の胃潰瘍では、適切な治療を受けなければ命に直結してしまう病気です。

 

  • 食後にお腹が痛くなる
  • お腹が張る
  • ずっと気持ち悪い

 

などの症状がある場合は、隠れた病気がないか調べるために、消化器内科のある病院を受診してください。

 

■参考

*1(参考)国立がん研究センター がん情報サービス 胃がん