「お腹が空いたときに、みぞおちの辺りが痛くなる」

「気持ちが悪い」

「仕事でストレスがかかっている」

皆さん、このような場面に遭遇していませんか？
その場合は、「十二指腸潰瘍」が少しずつ出来てしまっているかもしれません。

最近の研究では、十二指腸潰瘍は「ストレス関連疾患」と呼ばれ、職業上のストレスや睡眠不足、疲労と密接な関連を示していることが分かっています。
現代の職業病といっても過言ではありません。

そこで、なぜ十二指腸潰瘍になるのか、十二指腸潰瘍になってしまったらどうなるのか、十二指腸潰瘍の治療法などを説明します。
 

十二指腸潰瘍とは？

胃酸の影響を受けて十二指腸の粘膜に潰瘍を形成するものを総称して、「十二指腸潰瘍」といいます。
胃や十二指腸のような管状の臓器は、内側から粘膜－粘膜下層－筋層－漿膜下層－漿膜（一番外の壁）という5層構造になっています。
そのうち、粘膜－粘膜下層まで胃酸の影響を受けて深く掘れてしまった状態を、潰瘍と呼びます。

十二指腸潰瘍は比較的若年者に多く発症しています。
それは、若年者は胃酸が多い状態（過酸症）のため、胃酸に対する防御機構が崩れてしまっていることが原因と考えられています。
性別では男性に多く、男女比は3対1ほどになっています。

十二指腸潰瘍の症状

十二指腸潰瘍の自覚症状で最も多くみられるのは、みぞおちやお臍（へそ）まわりの痛みです。
十二指腸の粘膜はもともと痛みを感じる部分が少ない部位ですので、潰瘍が出来たとしても、痛みをすぐに生じることはありません。
潰瘍による痛みは、胃酸が潰瘍の場所に作用して、その部分が痙攣し始めることで生じるとされています。
そのため、十二指腸潰瘍では、胃酸が多く分泌される空腹時に痛みが強く出始め、食事を取ると胃酸が中和されるので痛みが軽くなります。
特に、夜間に腹痛がある場合は、十二指腸潰瘍を疑ったほうがよいでしょう。

潰瘍がさらに深くなり筋層まで届くと、持続的に出血し始めます。
そのため、コーヒーの粉のような色の血を吐いたり（吐血）、海苔の佃煮のような真っ黒い便（下血）が出ることもあります。
こうして初めて、十二指腸潰瘍と診断されることもあります。
そのほか

• 漠然とした食後の不快感
• 気持ち悪さ
• 胸やけ

なども十二指腸潰瘍の症状として出て来ることがあります。

十二指腸潰瘍の原因

よく「潰瘍が出来た」というと、ストレスが原因だと言われることがあります。
十二指腸の粘膜表面は、自身の胃酸で消化されてしまわないように、粘液を分泌して防御するような体制を取っています。
ところが、強いストレスがかかると、この粘液の分泌能力が低下してしまいます。
そうすると、胃酸による攻撃と粘液による防御のバランスが崩れ、少しずつ胃の粘膜が障害されていくのです。
　

十二指腸潰瘍の治療法（＊1）

1960年代は、十二指腸潰瘍の治療といえば外科手術でした。
潰瘍が出来た十二指腸と、胃の一部を切除してしまうのです。
その後、1980年代に入り、「H2ブロッカー」と呼ばれる薬が開発されたことを契機に、十二指腸潰瘍の治療は薬物療法が主流となりました。
十二指腸潰瘍の原因は胃酸過多ですので、まずは胃酸の量を抑えることが重要になってきます。
近年では、より胃酸を抑える効果の高い「プロトンポンプインヒビター」（PPI）と呼ばれる薬が開発されたことにより、十二指腸潰瘍の90%が8週間以内に治るようになりました。

また、食習慣の改善も十二指腸潰瘍の治療には必要です。
胃腸の調子が悪い時には何となく食事を制限すると思いますが、十二指腸潰瘍と診断された場合、なるべく消化の良いものや、胃粘膜を保護してくれるような食事を心がけましょう。
たとえば、おかゆ、雑炊、ヨーグルト、牛乳、バナナ、豆腐、納豆などです。
一方、避けたほうがよいものは、胃酸の分泌を促すような嗜好品、唐辛子や香辛料の多いもの、脂分の多い食事などです。
たばこ、コーヒーは胃粘膜を障害するだけでなく、回復も阻害しますので、避けたほうが無難です。

十二指腸潰瘍の合併症

H2ブロッカーやPPIが開発されて以降、十二指腸潰瘍による大きな合併症は減りました。
しかし、ひとつだけ大きな合併症があります。
十二指腸穿孔（じゅうにしちょうせんこう）という病気です。
これは、潰瘍が漿膜まで到達してしまい、そのまま穴を空けてしまう状態です。
穴が空いてしまうと、お腹の中に胃酸や、食事の残りが飛び出てしまいます。
胃酸は粘液により防御されてない臓器にはとても強い障害を与えますので、耐えきれないような痛みが出ます。

万が一、十二指腸潰瘍穿孔を起こしてしまった場合には、緊急手術が必要となります。空いた穴を塞いでもらわなければいけません。
行った先の病院によっては、「手術をせずに薬だけで様子を見ましょう」と言われることもありますが、お勧めできません。
できるだけ手術で治してもらうようお願いしてください。

まとめ

十二指腸潰瘍となってしまう大きな原因は、やはりストレスです。
現代社会においてストレスをなくすことは困難でしょう。
いつ、十二指腸潰瘍になるかは分かりません。

• 空腹時の痛みが強い
• 胸やけがつらい
• ずっと気持ち悪い

などの症状がある場合は、消化器内科の病院を受診してください。

■参考

＊1（参考）日本消化器病学会ガイドライン　消化性潰瘍
CQ3-3　十二指腸潰瘍に対する非除菌治療にどのような薬剤を選択すべきか？