代表的な症状

「重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)」と聞くと、どのような病気を思い浮かべるでしょうか?
重症筋無力症は「自己免疫性疾患」とよばれ、自分の免疫異常によって発症してしまう病気です。
他人に感染したり、遺伝する病気ではありません。

 

そんな重症筋無力症がなぜ起こるのか、重症筋無力症ではどのような症状が出るのか、そして重症筋無力症はどう治療していくかを説明します。

 

宇都宮市の重症筋無力症の治療

 

 

私たちが腕を動かしたり、目を閉じたりする運動を行う時、神経からの指示を筋肉にある「神経筋接合部」という場所で受け、筋肉を動かします。
その際、神経筋接合部でアセチルコリンと呼ばれる物質をやり取りすることで電気刺激を筋肉へ送り、筋肉の収縮へとつながります。

 

重症筋無力症は、このアセチルコリンを受ける筋肉側の「アセチルコリンレセプター」という場所に対する自己抗体を作ってしまい、電気刺激の伝達ができなくなることによって様々な部位の筋運動が阻害される病気です。

 

2018年の疫学調査では、10万人に23.1人の割合で発症し、なかでも女性に起きやすいことが特徴とされています(*1)。

 

重症筋無力症では、筋力の低下と疲れやすさ(易疲労感)が症状として出ます。
この2つの症状は、全身の筋肉・・・特に自分で動かすことのできる筋肉(随意筋といいます)であれば、どこにでも現れます。
たとえば心臓や胃腸の筋肉は「不随筋」といって、自分の力で動かすことはできないので、重症筋無力症による症状は出ません。

 

重症筋無力症の方の約半数は、「眼瞼下垂」(まぶたが垂れ下がってしまう)と「複視」(ものが二重に見えること)といった症状から出始めるといわれています。
その一方で、発語や嚥下障害(飲み込みづらさ)などの症状が目立つ患者さんもいますし、症状が悪化すると、呼吸筋も麻痺し、呼吸がしづらくなることもあります。

 

特に、1日の活動量が多くなり始める午後にかけて、全身の筋力低下や易疲労感が強くなることが、重症筋無力症の特徴です。

 

重症筋無力症を発症する原因の約85%は、アセチルコリンレセプターに対する自己抗体が出来てしまうことです。
残り約15%は、筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)と呼ばれる特殊な体内伝達物質に対する自己抗体や、原因が解明されていない免疫反応によって起こります。

 

なぜこのような自己抗体が自身の体内で作られてしまうのかは、いまだによく分かっていません。
ただ、重症筋無力症と診断された患者さんの約75%に胸腺の異常(胸腺過形成、胸腺腫)が合併するとされています。
胸腺は人体の免疫機能を熟成させる臓器であるため、抗アセチルコリンレセプター抗体(抗AChR抗体)の発現に、何らかの形で胸腺が関与していると考えられています。

 

重症筋無力症の合併症で最も注意が必要なのは、「重症筋無力症クリーゼ」という状態です。

 

  • 感染
  • 妊娠出産
  • 精神的ストレス
  • 過労
  • 何らかの薬剤

 

などの条件が重なると重症筋無力症クリーゼという状態になり、急激に筋脱力と呼吸困難が進行します。
時には呼吸が止まってしまうこともあり、その際はすぐに病院へ搬送しなければなりません。
また、重症筋無力症の方が出産する場合には、分娩方法に注意が必要ですので、産婦人科やそのほかの専門診療科がそろっている総合病院での出産を検討してください。

 

それに加え、ステロイドや免疫抑制剤といった免疫機能を抑える薬を長期間使用しますので、これらの薬剤による副作用も心配されます。
いつ何時クリーゼとなるかは、当の本人にも分かりません。家族や友人にも重症筋無力症のことはよく理解してもらう必要があるでしょう。

 

重症筋無力症の治療法には、症状を軽くする対症療法と、根治的な免疫療法があります。

 

対症療法として使われるのは、「コリンエステラーゼ阻害薬」と呼ばれる、神経から筋肉への信号伝達を助ける薬剤です。
ただ、これはあくまでも一時的な対症療法にしかなりません。
そこで、重症筋無力症の原因である抗体の産生を抑制したり、交代を除去する免疫療法が選択されます。

 

抗体の産生を抑制するものには、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬があります。
そのほかには、抗体を取り除く透析療法や、「ガンマグロブリン」と呼ばれる抗体を大量に投与する方法などがありますが、患者さんの症状や状態に応じて、複数の治療法を組み合わせることがあります。

 

また、胸腺の異常として「胸腺腫」を合併する場合は、まず胸腺摘出術という外科手術を受ける必要があります。手術を受けた後は、一時的に症状がよくなります。

 

ただし胸腺腫がない場合、「眼の症状だけある」「アセチルコリン受容体抗体が陰性」、あるいは小児や高齢者に対して胸腺を切除する治療方法の有効性は乏しく、MuSK抗体陽性患者は胸腺を切除すると症状が悪化する可能性があるとして、推奨されていません。

 
 
重症筋無力症は国の難病指定を受けるほど、まだ解明されていることが少ない病気です。
しかし、早期発見・早期治療が行える体制は整っていますので、「力が入りにくい」「食べ物が飲み込みづらい」などの症状が出た際は、すぐに病院を受診しましょう。

 

■参考

*1(参考)難病情報センター 重症筋無力症
*2(参考)厚生労働省ホームページ 重症筋無力症