代表的な症状

セラノスティクスによるがん治療|メルボルン セラノスティクス イノベーションセンターとの治療提携について

 

この度、宇都宮セントラルクリニックは「メルボルン セラノスティクス イノベーションセンター(MTIC=Melbourne Theranostic Innovation Centre)」と治療提携を結ぶこととなりました。今後はこの提携により、日本の患者さんにもセラノスティクスの代表的治療法であるPSMA治療をオーストラリア(メルボルン)で受けていただくことが可能になります。

 

MTICのPSMA治療では、Telix社の開発した抗体医薬品(TLX591)を使用することができます。抗体医薬品(TLX591)は、従来のPSMA治療で使用されていたルテチウム177-PSMAと比較して治療期間も短く、副作用も少ないことが大きな特徴です。また、PSMA治療の対象である去勢抵抗性前立腺がん以外のがんにも一部適応となることから、今後のがん治療に大きな期待が寄せられています。

 

本記事では、PSMA治療について説明するとともに、MTICでのPSMA治療の詳細について紹介していきます。前立腺がんや去勢抵抗性前立腺がんの治療方法についてご検討中の方や、最新のがん治療についてご興味のある方はぜひ最後までご覧ください。

セラノスティクスとPSMA治療

 

セラノティクスとは、治療(Therapeutics)と診断(Diagnostics)を組み合わせた新しい医療技術です。PSMAを標的としたセラノスティクスは、前立腺がん患者の治療における有力な治療法のひとつです。

 

ここでは、セラノスティクスとPSMA治療について説明していきます。

セラノスティクスは、放射性医薬品を体内に投与することで、がんの診断・治療・治療後の有効性の評価までの3ステップをおこなうことが可能な医療メソッドです。

 

セラノスティクスでは、診断用と治療用の2種類の放射線医薬品を使用することが特徴のひとつです。放射線医薬品とは、人体に影響しないごく微量の放射線を放出する物質が含まれている薬剤で、アイソトープ、またはRI(ラジオアイソトープ)とも呼ばれています。

 

セラノスティクスの3ステップは以下のとおりです。

 

1. 「診断用」の放射線医薬品を投与し、がんの発生している部位や広がりなどを確認
2. 「治療用」の放射線医薬品を投与し、体内の至近距離からがんに対して放射線を照射
3. 「診断用」の放射性医薬品をふたたび投与し、治療の効果を判定

 

セラノスティクスは、体内からがんにアプローチする「内照射(内用療法)」のためのテクノロジーだということができます。一方、トモセラピーやガンマーナイフのように、体外から放射線を照射する治療は「外照射」と呼ばれます。

セラノスティクスの代表的な治療法のひとつに「PSMA治療」が挙げられます。

 

PSMA治療は、前立腺がんに特化した治療方法です。
前立腺がんは、ほかのがんに比べると進行が遅く、適切な治療を受けることで寛解を望めるがんです。しかし、前立腺がんのうち約10~20%は、ホルモン療法をはじめとした標準治療では転移や進行を抑えることが難しい「去勢抵抗性前立腺がん」へと移行してしまいます。
この去勢抵抗性前立腺がんに対する効果が報告され、新たながん治療法として期待されているのがPSMA治療です。

 

PSMA(Prostate Specific Membrane Antigen=前立腺特異的膜抗原)は、前立腺がんの細胞表面に存在するタンパク質です。がんの悪性度が高くなるほど強く発現するようになります。また、細胞の表面に付着する性質があることから、ほかの物質とも結びつきやすいという特性をもっています。

 

この特性を利用して、PSMAだけに付着する薬剤と、体内で放射線を放出する薬を結合させた薬剤を投与します。そして、投与された薬剤がPSMAに吸着することで、前立腺がんの細胞だけに放射線を照射することが可能になります。そのため、全身に転移した前立腺がんに効果があるだけではなく、正常な細胞への影響もほとんどありません。

PSMA治療は、ドイツで開発された後、おもに欧米を中心に世界中で広く用いられている治療法です。しかし、現時点(2025年5月現在)では、日本での承認はされていません。2024年より、日本でもルテチウム177-PSMAによるPSMA治療の治験が開始されましたが、承認までは今しばらく待たなければなりません。

 

そのため、PSMA治療を受けるためには、ドイツ・オーストラリアなど、治療を実施している国に渡航する必要があります。

Telix社(Telix Pharmaceuticals Limited.)は、セラノスティクスに使用する放射性医薬品の開発・商業化に特化したグローバルなバイオ医薬品企業で、オーストラリアのメルボルンに本社を置いています。TLX591は、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者の治療薬として研究されているTelix社の放射性抗体薬物複合体です。

 

ここでは、従来のルテチウム177-PSMAを用いたPSMA治療と、MTICで使用されるTelix社の抗体医薬品(TLX591)によるPSMA治療の概要について、その違いも含めて説明していきます。

ルテチウム177-PSMAによるPSMA治療は、6週間の間隔を空けて合計6回おこなう必要があります。そのため、治療開始から終了までに30週間(約7か月)かかることになります。

 

また、ルテチウム177-PSMAは唾液腺や涙腺にも集積するため、口喝などの唾液腺障害や目の渇き(ドライアイ)などの副作用があらわれることがあります。また、ルテチウム177-PSMAは尿中に排出されるため、膀胱にダメージを与える可能性があります。

 

ただし、標準治療に比べると、その副作用は非常に軽いといえます。

Telix社の開発中の抗体医薬品(TLX591)を使用するPSMA治療は、2週間のインターバルをおいて2回おこなわれます。そのため、治療自体をわずか2週間で終えることができます。

 

また、治療による放射線の被ばく量はルテチウム177-PSMAの約8分の1で、安全性もより高く、副作用も軽減されていることが大きなポイントです。

 

ルテチウム177-PSMAで唾液腺障害のリスクも少なく、胆汁排泄で便として体外に排出されるため、膀胱障害のリスクも少ないです。

 

以上のように、Telix社の抗体医薬品(TLX591)は、治療期間もルテチウム177-PSMAの30週間に対して2週間と圧倒的に短く、低線量による安全性や副作用の軽減にも期待できます。

PSMA治療の適応となるがん

 

PSMA治療は、前立腺がん・去勢抵抗性前立腺がんに特化した治療法だということはすでに説明してまいりました。しかし近年では、前立腺がん以外でもPSMAが陽性になるがんがあることがわかってきました。

 

非前立腺悪性腫瘍でPSMAが発現するがんは、以下のとおりです。

 

  • 原発性脳腫瘍
  • 肺がん
  • 乳がん
  • 消化管腫瘍
  • 腎細胞がん
  • 膵管腺がん
  • 唾液腺腫瘍
  • 甲状腺がん
  • 肉腫
  • 肝細胞がん

PSMA-PET検査により、以上のがんでPSMAの集積がみられた場合はPSMA治療が適応となる可能性があります。

セラノティクス(PSMA治療)に期待できること

 

セラノティクスは、診断用の放射性医薬品により病巣を特定・可視化するだけではなく、その結果をもとに治療用の放射性医薬品の投与量などを最適化することが可能なため、個別化医療の実現に寄与すると期待されています。

 

※個別化医療
一人ひとりの体質や病気の特徴に合わせて治療をおこなう医療のこと。精密医療(precision medicine)とも呼ばれる。

 

また、セラノティクスでは、放射性医薬品を静脈注射で投与することにより、がん細胞に対して至近距離からがん細胞に放射線を照射することができます。健常な細胞へのダメージを最小限に抑えるように設計されており、重篤な副作用リスクが標準治療よりも一般的に低い事から、仕事や育児などの日常生活に与える影響も標準治療より小さくなることが期待できるでしょう。

 

さらに、セラノティクスは免疫療法との親和性が高いと考えられています。
たとえば、去勢抵抗性前立腺がんの場合、セラノティクスで転移巣に対する治療(PSMA治療)と治療の効果判定をおこない、残った病変に対しては外照射による治療や免疫療法を併用していく「放射線免疫療法」がおこなわれています。放射線免疫療法も、セラノティクス同様に副作用が少ないため、QOLを維持しながら治療を継続することができます。

 

以上のように、セラノティクス(PSMA治療)には、治療効果そのもの以外にもQOLの向上という面で期待が寄せられています、

MTICでセラノティクスによる治療を受けるには

画像引用:MTIC公式サイト

 

ここからは、実際にMTIC(メルボルン/オーストラリア)で治療を受ける際の流れについて紹介していきます。

はじめに、宇都宮セントラルクリニックのセカンドオピニオン外来を受診していただきます。受診の手順は以下のとおりです。

 

1. 診察予約
病院サイトの予約フォームまたは電話で予約
>>セカンドオピニオン外来の予約フォームはこちらから

 

2. 必要書類の準備
現在の主治医に必要書類作成の依頼をします

 

  • 診療情報提供書(紹介状)
  • 画像データ(X線・CT・MRI・エコーなど)
  • 病理検査・血液検査結果など

3. セカンドオピニオン受診
医師との面談や68Ga-PSMA-PET・FDG-PET・PSA検査を実施し、現在の病状の確認をおこないます。
また、必要に応じてMTICでの治療前に追加検査を実施する場合があります。

 

4. MTICでの治療スケジュールの決定・予約
治療に必要な情報・検査が揃ったら、治療スケジュールを決定します。
※ MTICの治療予約は宇都宮セントラルクリニックが代行しておこないます。

 

オーストラリア(メルボルン)での治療にあたっては、MTICに対する患者さんの診療情報提供をはじめ、十分な連携体制をもって準備が進められます。

オーストラリア(メルボルン)での治療スケジュールが確定したら、渡航の準備をします。
渡航に必要な手続きは以下のとおりです。

 

  • パスポートの確認(有効期限までの残存期間は6か月以上)
  • 電子渡航許可(ETA)の取得
  • 航空券の手配
  • 現地宿泊先の手配(ホテル・サービスアパートメントなど)

以下は、オーストラリアでの治療スケジュールの例です。

 

1. 日本からオーストラリア(メルボルン)へ移動
フライト例:成田19:20発 → メルボルン7:45(翌日)着
羽田からのメルボルン直行便はないため、成田利用の方が便利です

 

2. 空港からMTICへ移動
治療の予約時間によっては、滞在先に寄って荷物を預けることも可能です

 

3. MTICでの治療(1回目)
約2時間の点滴をおこないます

 

4. 治療終了後はフリー
滞在先へお戻りになって休むなど、ご自由にお過ごしいただけます

 

5. 2週間後…MTICでの治療(2回目)
1回目と同様に、約2時間の点滴をおこないます

 

6. 日本へ帰国

1回目の治療から2回目の治療までは2週間ありますので、お仕事やそのほかのご予定がある場合は、1回目の治療後に一度日本へ帰国することも可能です。

MTICの特徴

 

MTICは、分子イメージングとセラノスティクスによる治療を提供する最先端の医療機関です。

 

放射線治療というと、厚い壁に覆われた窓のない室内でおこなわれるイメージがありますが、MTICではビル8Fの明るく開放的な空間で治療がおこなわれています。また、提供される医療サービスのレベルの高さだけではなく患者ファーストを徹底していることから、オーストラリア国内はもとより、インドネシアやマレーシアなど各国から多くの人が治療を求めて訪れています。

 

オーストラリアは日本との時差も少なく、欧米への移動に比べると体力的なストレスも大きく軽減されることから、MTIC はセラノスティクス(PSMA治療)を受ける医療機関の選択肢のひとつになっていくと考えられます。

セラノスティクスによるがん治療まとめ

 

本記事では、MTICとの治療提携によりオーストラリアでセラノスティクスによるがん治療が受けられるようになったことをご報告するとともに、セラノスティクスの概要や、Tilex社の抗体医薬品(TLX591)を使用したPSMA治療について詳しく紹介してまいりました。

 

日本では、現時点(2025年5月)でPSMA治療が承認されていないため、治療を受けるためにはPSMA治療をおこなっている海外の医療機関を受診する必要があります。

 

今回の治療提携により、宇都宮セントラルクリニックではPSMA治療を希望される患者さんをMTICへご紹介する体制が整いました。
前立腺がんや去勢抵抗性前立腺がん、また、PSMAが発現している非前立腺悪性腫瘍の方でオーストラリアでのPSMA治療をご希望の方は、ぜひセカンドオピニオン外来までご相談ください。

>>宇都宮セントラルクリニック セカンドオピニオン外来の詳細はこちらから