代表的な症状

「髄膜炎(ずいまくえん)」と聞くと、どのような病気を思い浮かべるでしょうか。
言葉の響きや、文字だけを見ると、何となく怖いイメージを持ちませんか?
髄膜炎とは、医療技術の進んだ現在でさえ治療が遅れると後遺症を残したり、命を落とす可能性がある危険な病気です。
特に免疫力が未熟な幼児期の発症が多いことも問題視されています。

 

髄膜炎には、髄膜炎を起こす病原体に応じていくつか種類があり、どれも治療にはかなり難渋しますが、予防接種によって発症を予防できるものもあります。

 

この髄膜炎がなぜ起こるのか、髄膜炎にはどのような症状が出るのか、そしてどう髄膜炎を予防していけばいいのか説明します。
 

栃木県宇都宮市で髄膜炎の治療
 

 

髄膜炎を起こす「髄膜」は、どこにあるかご存じですか?
髄膜は頭蓋骨と脳の間に存在し、脳が頭蓋骨に直接当たらないように保護してくれており、脊髄も同様に髄膜によって保護されています。
また、髄膜と脳・脊髄の間は髄液という液体で満たされており、同様に脳と脊髄を保護する役目があります。
髄膜や脊髄は体内で最も清潔な場所で、細菌はおろか免疫細胞ですら侵入することができない場所になっています。

 

このとてもきれいな無菌状態の髄膜および髄液に病原体が入り込み、炎症を生じさせてしまう病気が、髄膜炎です。

 

髄膜炎を発症する病原体は多くの場合、鼻やのどについているウイルスや細菌です。
通常は病原体が何かの拍子に血液中へ入り込んだとしても、自己免疫によって大事に至らずに済みます。
しかし、何らかの原因で病原体が脳脊髄腔に侵入すると、中枢神経を包む髄膜へ到達し、髄膜炎を起こします。

 

髄膜炎の初期症状は通常のかぜと同じですが、髄膜に侵入した病原体の種類によって、その後の経過が異なります。
最も危険なのは細菌性髄膜炎で、発症してから数時間程度で意識障害を起こしたり、命にかかわる状態になります。
結核性髄膜炎や真菌性髄膜炎は、そもそも発症する人が少ないうえに、症状も数日かけてゆっくり進みますが、治療が遅れると髄膜炎に脳炎も併発してしまうため、意識障害や麻痺などの後遺症が残る場合があります。

 

髄膜炎の原因は、髄膜炎を起こす病原体によって変わります。

細菌性髄膜炎は、成人と小児でその原因菌が違います。
成人では肺炎球菌、髄膜炎筋などが原因となり、小児ではインフルエンザ菌が多くなります。
そのほか、脳外科や耳鼻咽喉科の手術後は、脳脊髄腔が外の空気と触れてしまうため、他の様々な菌が髄膜炎の原因となる場合があります。

何らかのウイルスに感染し、その炎症が髄膜までひろがってしまうとウイルス性髄膜炎を発症します。
多くは、小児の「かぜ」の原因となるコクサッキーA、B群やエンテロウイルスなどのウイルスが原因となります。
そのため、ウイルス性髄膜炎は小児に多く発症し、夏の時期に多いといわれています。

もともと結核を発病している方に多く起こるため、現在の日本ではほとんど確認されていません。

高齢者、がんを患っている方、免疫抑制剤を服用中の方など、免疫機能が低下している場合に真菌(カビ)が体内へ入り込み、髄膜炎を起こすことがあります。
これもかなり特殊な例のため、ほとんどお目にかかることはありません。

 

髄膜炎の死亡率は約10%程度とされています。また、4人に1人は何らかの後遺症が認められ、髄膜炎の後遺症のなかには痙攣、てんかん発作、意識障害などがあります(*1)。

 

髄膜炎を治療するためには、髄膜炎を起こしている原因を調べなければなりません。
髄膜炎の原因を調べるために必ず行う検査に、「腰椎穿刺(ようついせんし)」と呼ばれるものがあります。
まず背骨の間から脊髄まで針を通し、脊髄液を回収します。この脊髄液の中の様々な成分を調べることによって、どのタイプの髄膜炎かを調べることができます。
発症した年齢に応じてかかりやすい病原体の種類がある程度わかっているため、詳しい検査結果が出て病原体が特定されるのを待たずに、経験的に治療を始めることが多いです。
これを「エンピリックセラピー」といいます。

 

細菌性、結核性、真菌性髄膜炎の場合であれば、原因となっている病原体に応じて抗生物質、抗結核薬、抗真菌薬を投与することで回復が望めます。
しかし、ウイルス性髄膜炎の場合は、特定のウイルスに対する抗ウイルス薬しかありません。
通常は対症療法といって、熱を下げたり、痛みを取ったりしながら、自身の免疫力で回復するのを待つしかありません。

 

成人や小児の髄膜炎を引き起こす肺炎球菌やインフルエンザ菌に対しては、予防接種をうけて発症を抑えるという方法があります。
肺炎球菌は髄膜炎だけではなく重症肺炎の原因にもなりますので、65歳以上になったら予防接種をうけるよう心掛けてください。
インフルエンザ菌は「Hibワクチン」という名前で接種されています。
生後2カ月以降に接種を開始し、2~3カ月おきに3回受けることが推奨されています(*2)。

 

髄膜炎は一度発症してしまうと命にかかわるかもしれない、重大な病気です。
早期発見・早期治療も重要ですが、予防接種で防ぐこともできる病気でもありますので、正しい知識をもって健康を守りましょう。
心配なことがあれば、お近くの小児科で相談されることをお薦めします。

 

■参考

*1(参考)杉本恒明、他:内科学 朝倉書店:2026-2029
*2(参考)厚生労働省ホームページ Hib感染症