代表的な症状

機能性ディスペプシア

 

 
胃の痛みや胃のもたれ感など、みぞおちを中心とした上腹部の症状をディスペプシアと呼びます。
ディスペプシアは、普段自覚する症状も比較的多いのですが、症状の原因となる器質的疾患、例えば胃潰瘍などがないにもかかわらず、ディスペプシア症状を呈することもあります。

このように器質的疾患がないにも関わらずディスペプシア症状を呈する状態を、機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia; FD)と呼びます。

これまでは、検査で異常が見つからないため症状があっても「異常はない」と判断され、言い方は悪いですがストレス性胃炎などの病名を与えられるなど、扱い方が良かったとは言えません。

このような状態が徐々に浸透し、2013年5月に機能性ディスペプシア(FD)という保険病名がようやく誕生しました。
それに続く2014年には日本消化器病学会より、機能性ディスペプシアガイドラインが制定され、それ以来FDに対する診療体制が構築されるようになりました。

 
原因となる疾患がないにも関わらず、以下のような症状が持続する場合に、FDが疑われます。
 

  • 食後のもたれ感
  • 早期膨満感
  • 心窩部痛
  • 心窩部灼熱感

上記の4つの症状のうち1つ以上の症状を有し、その症状が6か月以上前から持続し最近3か月は症状を自覚します。

さらにその症状によって、食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome: PDS)と心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome: EPS)に分類されています。
PDSでは食後の胃もたれ感や早期満腹感を感じることが多く、またEPSではみぞおちの焼けるような痛みが出るため、両者とも食事をする事に対する嫌悪感が芽生えてしまいます。

 
胃や十二指腸に潰瘍などの器質的疾患がないにもかかわらずディスペプシア症状を呈する原因として、消化管の運動機能の異常が指摘されています。
わたしたちの胃や腸は、蠕動とよばれる尺取り虫のような動きをして食物を移動させますが、種々の理由によりこの動きが正常に働かないため、ディスペプシアの症状を呈します。

ディスペプシアは
 

  • 精神心理的要因
  • 胃酸分泌過多
  • ピロリ菌の感染
  • 遺伝子要因
  • 小児期の環境
  • 食事・生活習慣

など多くの原因が絡み合って発症すると報告されており、治療にも難渋することが多いです。

最近の研究ではストレスに対する過剰応答がディスペプシアの本質であるという考えも出されていますが、未だ原因の特定には至っていません。

 
FD自体が生命に直結するような症状を呈する事は原則としてありません。
しかし、胃の不快感などから患者さん自身の日常生活が制限されることで生活の質(QOL)が低下し、さらに労働生産性が低下することも指摘されています。

「つらい症状が一向に改善しない」
「症状があってつらいと言って、もまともに取り合ってくれない」

など精神的な負担を強いるだけでなく、十分な食事が取れないことによる集中力の低下や低栄養による活動性の低下が起こってしまいようになります。
治療や症状が長引いてしまう事によりストレスを感じ、そのせいでさらにディスペプシア症状が悪くなるという、悪循環に陥ってしまうこともあります。

したがって、FDを適切に診断し、治療を行うことがとても重要です。

 
FDを治療するためには、胃炎、胃潰瘍、腸閉塞など上腹部症状を呈する器質的疾患がないことを確認しなければなりません。
FDは「除外診断」と言って、明らかな原因がないことを理由として診断する病気であるため、慎重に検査を進める必要があります。
また、精神科的疾患や軽度のうつ病も考えなければなりません。

FDの治療は原則、薬剤による内科的治療となります。
胃酸を抑える薬剤や、消化管の運動を促進させる薬剤を使用することが多いです。
加えて、抗不安薬や抗うつ剤を用いる場合もあります。

また、FDはストレスに対する過剰応答が病態の一部と考えられており、認知行動療法や催眠療法と行った心理学的アプローチもFDの治療法として有効と言われています。

 
FDの治療目的は患者さんが満足できる症状改善が得られることです。
しかし残念ながら薬物治療だけで症状は完全に改善しないため、症状を完全に改善させるのではなく、精神的な安定を得られるように、対話によって信頼関係を構築することが重要になります。
親しみやすいかかりつけ医を見つけ、辛抱強く付き合っていきましょう。