代表的な症状

大腸がん

 

 
大腸は私たちの体の右下から始まり、「の」の字を書くように肛門までつながっている長さ約1.5mの臓器です。

体の右側にある上行結腸、お臍の上あたりを横に向かう横行結腸、体の左側にある下行結腸、S状結腸が位置し、肛門に近い15cmほどの大腸を別に直腸として分類します。
これらの中で、直腸を除いた大腸の粘膜から発生したがんを、大腸がんと呼びます。

日本において大腸がんの患者さんは急激に増加しており、50年前の約10倍にまで増えています。
2018年の全国調査では、がんによる死亡原因で大腸がんは男性で第3位、女性で第2位となっています。

 
早期がんでは自覚する症状はほとんどなく、健診での便潜血検査や大腸内視鏡でたまたま指摘されることが多いです。
そのほか、腹部違和感や漠然とした腹痛といった不定愁訴や軽度の貧血を示す場合もあります。

また、大腸がんによる症状は、大腸のどの部位に発生したかにより大きく異なります。

右側の上行結腸は内腔が広く、また便は液状をしているため、かなり進行するまで自覚症状は出ません。
逆に左側の下行結腸やS状結腸は便が硬くなっており、がんで狭窄があると排便異常が起きやすいです。

 
大腸がんは、その発生機序により以下の3つが原因として考えられています。

遺伝などとは関係なく、生活習慣や食習慣などの環境要因が原因で発生します。食生活の欧米化や加齢はその有力な環境要因として考えられています。

もともとは良性腫瘍であった大腸腺腫が、がんに変化します。大腸腺腫の中にある一部の遺伝子が変異を起こすことによって、がん化すると考えられています。

遺伝的な要素が大腸がんの発生に関与している疾患を、遺伝性大腸癌と言います。
散発性大腸癌と比較し、50歳以下などの若年者に発生しやすいことが特徴です。
遺伝性大腸癌の中でも頻度が高い疾患として、リンチ症候群と家族性大腸腺腫症があります。
 

 
リンチ症候群は遺伝性非ポリポーシス性大腸癌とも呼ばれ、MSH2/MLH1という遺伝子の変異によって起こる遺伝性疾患です。
この疾患は、
 

  • 大腸がんが若年(だいたい50歳以下)で発症する
  • 大腸がんが多発する
  • ほかの臓器にもがんが発生しやすい

といった特徴をもちます。
また、遺伝性疾患なので子供にも50%の確率で遺伝します。
この疾患でないかどうかは、アムステルダム基準Ⅱやベセスダ基準といった診断基準で調べることができます。
 

 
家族性大腸腺腫症はAPCという遺伝子に変異が起こることで発症する遺伝性疾患です。
大腸の中に数百個以上のポリープが多発し、それががん化することで大腸癌を発症します。
10台のころからポリープが出来始め、40歳で約50%の方に大腸がんが発生するとされています。

 
大腸がんが悪化すると、腫瘍からの出血、がんによる狭窄に伴う腸閉塞などを起こす場合があります。
また、がんが進行すると、肝臓や肺などの臓器に遠隔転移を起こすため、転移した臓器の障害が出ることもあります。

 
大腸癌の治療は、遺伝性かどうか、がんの進行度によって決まります。
その中でも、遺伝性かどうかの違いが、治療方針に大きく影響を与えます。

非遺伝性大腸癌の場合では、がんが発生した部位の大腸と周囲のリンパ節を全て切除する外科手術が第一選択になります。
手術の結果をもって最終的な病期(ステージ)が決まりますので、その病期に応じて抗がん剤治療を追加するかどうかを選択します。

遺伝性大腸がんの場合は、一つの大腸がんを治療しても、新しい大腸がんが次々と発生してしまいます。
ですので、非遺伝性大腸癌で行うような外科手術だけではなく、今後の大腸がんの発生を予防するため、予防的にすべての大腸を切除するという選択肢もあります。

非遺伝性大腸癌と遺伝性大腸癌の両者でも、診断されたときに既に遠隔転移を起こしている場合も考えられます。
転移が複数の臓器に及んでいる場合は、抗がん剤治療を主体とした治療方針が選択されますが、転移が一つの臓器だけでとどまっているのであれば、がんが発生した大腸の部位と転移した臓器を同時、または2回以上に分けて手術を行うこともあります。

 
大腸がんは急激に増加しつつある悪性腫瘍であり、私たちの誰もがかかってしま可能性がある病気です。
がんの発生した部位や遺伝の関与の有無など、治療方針に影響を与える条件が多岐に渡るため、大腸がん治療の経験が豊富な医師が在籍する医療機関での治療が望まれます。