当院代表佐藤俊彦のコラム ~放射線治療センター見学会~
放射線治療センター見学会
宇都宮セントラルクリニック 放射線科医・理事 佐藤俊彦
いつも大変お世話になっております。
当院では、4月から東京大学の放射線科より軽部先生に常勤になっていただき、放射線治療体制を整備してまいりました。
これまで県内には、高度な放射線治療装置がありませんでした。
当院には、サイバーナイフとトモセラピーが導入され、米国と同じレベルでの放射線治療が可能です。サイバーナイフは、文字通り定位照射専用機で、1~5回の照射で病変部分だけを打ち抜くことが可能です。また、トモセラピーは、IGRT+IMRTを組み合わせた分割照射の装置で、20~30回程度の分割で強度変調治療を実施します。
当院の治療センターは、3つの部門で成り立っています。免疫治療・放射線治療・温熱治療を組み合わせた複合的な治療を実践しております。
一方、進行癌に対しては、免疫治療と組み合わせることで、アブスコパル効果を期待した治療を可能としております。アブスコパル効果とは、MDアンダーソン キャンサーセンターなどで実施されている放射線と免疫治療を組み合わせた治療で、Immuno-radiotherapyと言われるものです。
大腸癌の肝転移・肺転移があるケースをご紹介します(上図)。
肝転移に放射線を寡分割照射すると、in vivo vaccine効果が発揮され、免疫反応が起こり、照射していない部位の病変を攻撃することで、肺の転移巣が急激に縮小しているのがわかります。つまり、寡分割照射により、局所でのCTLが生成され、それが遠隔地で免疫反応を惹起します。
*アブスコパル効果
がん細胞に放射線を照射すると、照射されたがん細胞が死滅・そこから免疫の刺激作用があるタンパクや、がん抗原などが放出される。その物質をマクロファージや樹状細胞が吸収し、腫瘍を特異的に攻撃する細胞障害性Tリンパ球を活性化させる事で、遠隔部位の腫瘍も攻撃・治療する。ポイントは「Hypofraction」。
Hypofractionとは放射線療法の一種で、標準の放射線療法よりも多くの線量を短い期間と少ない治療回数で照射するもの。少分割照射法では、通常、個々の照射は標準(1日1回)より短い間隔で行われる。
この患者さんは、前立腺癌の患者さんですが、全身に骨転移が認められ、化学療法も抗がん剤治療も全く反応しない患者さんです。BAK療法を実施したところ、完全寛解して、腫瘍はほぼ消失しています。このように、免疫が動くことによって治る患者さんが出てくることが興味深いのと、その効果が長続きする患者さんがいるのがおもしろいところです。
このように、分子標的薬は、最初は薬が効くのですが長期予後が見込めないのに対し、免疫治療は、治る人が出てくるため長期予後を期待することができる唯一の治療法です。
病変局所では、種々の免疫細胞が総動員され炎症を引き起こします。つまり、FDG-PETで経過観察していくと、腫瘍が大きくなっているのか、炎症で大きくなっているのか、区別ができません。これをpseudo-progressionというのですが、この現象を鑑別するための検査がメチオニンPETです。当院では、8月より自由診療で提供する予定です。放射線治療でもこの現象は観察されることから、早期に鑑別してしかるべき追加治療ができるように準備していく予定です。
また、一般の先生方は原発巣のがんに効く抗がん剤を選択して投与するわけですが、投与していても転移が出てくる例を多数経験します。これは、この例のように転移巣を容易に組織生検できる部位であれば積極的に生検するべきで、生検結果は別のがんが手にしていることが判明した例です。HER2強陽性なので、ハーセプチンに治療方針を変更した例です。しかし、多くの患者さんでは生検困難な部位への転移であるために、血液を流れているCirculating tumor DNAを検査することで分子標的薬を選択するプレシジョンメディスンが米国のオバマ大統領の下発展してきました。
当院でも、Guardant360という検査を実施しています。
この結果を見ますと、AUG-21-15では、3種類の遺伝子異常が認められていますが、FDA承認の3つの分子標的薬が有効であることがわかります。これを使いますと、Feb-9-16で血清中のCirculating DNAが減少していますが、T790Mという新しい遺伝子異常のがんが出現していることがわかります。また、APR-01-16では、C797Sという遺伝子異常のがんが増えており、次第にこれらの細胞にあわせた分子標的薬の選択をしなければ再発してくるという構造になっているのがわかります。
つまり、この検査結果をみても分子標的薬は最初しか効かないことが分かり、腫瘍を縮小させるには効果がありますが、次に小さくなったところで放射線照射を実施し、正常部分へのダメージを最小限で済ませ、PD-1や免疫細胞療法を組み合わせた治療へ導入することが大事です。
この方法は、国立がんセンター東病院で治験を実施しています。
大腸癌の肝転移・肺転移・後腹膜転移の患者さんですが、実はGuardant360の結果、HER2強陽性のがんであることが判明し、乳がんの薬が効くことがわかりました。この会社のレポートはどこで治験が受けられるかもアドバイスしてくれますので、その医療機関へ紹介して、現在は無料で乳がんの治療を実施してもらっています。
いかがでしたでしょうか? 放射線治療と免疫を組み合わせることで、すばらしい治療効果を規定できる時代が来ました。
開業医だからできること・・・
1.最先端医療をいち早く導入
2.医師への啓蒙
3.患者への啓蒙
4.新しい医療VBへの投資
以上をモットーに、今後も努力していく予定です。
皆様と、毎月実施している放射線治療センターの見学会でお目にかかれますことを楽しみにしております。
【今月は7月28日(土)13:30~】