逆流性食道炎
朝起きた時、口の中が苦く感じることはありませんか? 食後に、げっぷの回数が多く感じませんか?
そのような方はきっと「逆流性食道炎」になっています。
本来、逆流性食道炎は欧米諸国に多い病気でしたが、日本でも最近の30年間では逆流性食道炎と診断される方が増えてきています(*1)。
原因のひとつとして、生活習慣の欧米化が挙げられています。そのほか
- 食べ過ぎ
- 早食い
- アルコール
- 喫煙
- 肥満
など、生活習慣が大きくかかわっています。
ここでは、逆流性食道炎になりやすい人、逆流性食道炎になったらどうなるのか、逆流性食道炎の治療方針などを解説します。
逆流性食道炎とは?
逆流性食道炎とは、胃液(胃酸やペプシン)や十二指腸液(膵液や胆汁)を多く含む胃内容物が食道内に逆流し、食道に炎症を起こす疾患です。
GERD(gastroesophageal reflex disease:ガード)が主な病態であり、多くは
- 「胃と食道のつなぎ目が緩くなる」
- 「食道裂孔ヘルニア」(胃の入り口の一部が、胸の中に滑りだしてしまっている状態)
という解剖学的異常を伴っており、なかでも高齢者によく見られます。
胸やけや胃酸が上がってくるような感じ(呑酸)の症状が見られることで胃内視鏡検査を行うと、食道裂孔ヘルニアに加え、食道に「びらん」(赤く荒れた場所)や潰瘍が確認されることがあります。
このような「びらん」などを伴う場合、逆流性食道炎と診断されます。
この胃内視鏡検査では、「ロサンゼルス分類」と呼ばれる重症度を判定する方法により、炎症の程度を判断します。
人間ドックなどで、無症状にもかかわらず食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎が見つかる場合もあります。
一方、食道裂孔ヘルニアがあっても、必ず逆流性食道炎になるわけではありません。
逆流性食道炎の症状
胃食道逆流症(GERD)の代表的な症状は、
- 胸やけ
- 口の中まで胃酸が逆流して酸味および苦味を感じる症状(呑酸)
の2つです。
また、これらの症状に加えて、狭心症に似た前胸部痛や、のどの違和感、慢性的な空咳(からせき)が出現することがあります。
症状が重くなると、逆流性食道炎の影響で食道が細くなってしまい、食事が通らなくなる場合もあります。
上記以外にも、逆流性食道炎と診断されるのは肥満体型の方が多く、睡眠時無呼吸症候群のように睡眠障害を起こすこともあります。
逆流性食道炎の原因
もともと胃と食道の境界には、胃の内容物が食道内へ逆流しないように「下部食道括約筋」(Lower esophageal sphincter; LES)と呼ばれる逆流防止装置があります。
そのため、通常は胃酸が食道に上がることはありません。
しかし食道裂孔ヘルニアや外科的手術など、何かの原因によってこのLESが緩んでしまう、もしくは機能を喪失してしまうと、胃の内容物が食道内に逆流します。
そのほかにも
- 男性
- 肥満
- 1日2合以上の飲酒
- 喫煙
が逆流性食道炎を引き起こす条件ともいわれています。
対して高脂質食は、一般的にいわれているほど、逆流性食道炎の明らかな原因とまではいかないようです。
逆流性食道炎の合併症
胃酸が食道内へ逆流し、食道粘膜が胃酸に長期間さらされていると、食道粘膜が「バレット上皮」と呼ばれる粘膜へと変化します。
このバレット上皮が、「食道胃接合部癌」という、胃と食道のつなぎ目に出来るがんの発生母地になるといわれています。
逆流性食道炎の治療法
逆流性食道炎の治療は、胸やけや呑酸などの症状を軽減させることを目標とします。
逆流性食道炎の一番の原因は、食道に逆流してくる胃酸であるため、「プロトンポンプ・インヒビター(プロトンポンプ阻害薬/PPI)」という胃酸を抑える薬を使用します。
このPPIによる治療で効果が乏しいような場合は、投与量や薬剤を変更したり、ほかの効果をもつ別の薬剤を追加することもあります。
一度症状が改善しても、薬をやめると逆流性食道炎が再燃してしまうことも多くあるので、PPIは飲み続けなくてはなりません。
また、薬剤だけに頼るのではなく、生活習慣の改善は必須です。改善すべき生活習慣には
- 減量
- 暴飲暴食を避ける
- 就寝前の間食をしない
- 睡眠をとるときには上半身を少し上げておく
などがあります。長期にわたって生活習慣を改善することで、内服薬を飲まなくてもよくなる可能性はあります(*2)。
これらの治療を行っても症状がよくならない場合には、難治性の逆流性食道炎になっていると考えられます。
その場合は、緩んでしまった逆流防止装置を修復するための手術を行うことがあります。
ただし、手術を行っても必ずしも改善するわけではないため、手術を行うかどうかはこの疾患に詳しい外科医の診察を受けることをお勧めします。
何より大事なのは、生活習慣を改善することです。
これらの治療と合わせて、ぜひ生活習慣の改善を心掛けてください。
まとめ
逆流性食道炎も、生活習慣病の一つとして考えるべき病気です。
逆流性食道炎と診断された場合は、生活習慣の改善と、食生活の見直しから始めましょう。
もし症状が強い場合は、胃内視鏡検査を含めた精密検査と治療が必要になりますので、病院を受診するようにしてください。
■参考
*1(参考)日本消化器病学会 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015
CQ1-2 日本人のGERDの有病率は増加しているか?
*2(参考)日本消化器病学会 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015
CQ4-2 生活習慣の改善・変更はGERDの治療に有効か?