代表的な症状

ヘリコバクターピロリ菌(以下ピロリ菌)という菌の名前を聞いたことはありますか?
名前だけ聞くと何とも可愛らしく聞こえますが、このピロリ菌が胃がんの原因になることはあまり知られていません。

 

ピロリ菌は、1982年にオーストラリアのDr.マーシャルにより発見され、当初は胃炎を起こす原因であるとされていました。

 

その後の研究で、ピロリ菌に感染して胃炎を起こした胃粘膜から胃がんが発生することも分かりました。
世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、ピロリ菌が胃がんの原因であると示し、積極的に除菌をするよう勧告しています(*1)。

 

日本では、胃がん患者さんの98%がピロリ菌に感染しています(*2)。
しかし、2013年にピロリ感染による胃炎に対する除菌治療が保険適用されて以来、日本の胃がん患者数は急速に減少しました(*3)。
これにより、ピロリ菌を治療することで胃がんが予防でき、多くの命が救われています。

 

ここでは、なぜピロリ菌に感染してしまうのか、ピロリ菌に感染した場合どうなるのか、その治療法などを説明します。

 

宇都宮市でピロリ菌の治療

 

 
ピロリ菌は、もともと土壌や井戸水の中に生息する菌です。
ピロリ菌感染者の多くは80歳以上の高齢者であり、これは戦後に井戸水を使用して生活していたこと、いわゆる環境要因が問題であったといわれています。

 

しかしながら、現代社会において井戸水を使うご家庭はかなり限られています。
にもかかわらず、なぜ現代社会でピロリ菌に感染してしまうのか、その感染経路ははっきりしていません。

 

一説によると、幼少時の親からの口移しによって、経口感染するのではないかと考えられています。
そこで、ピロリ菌に感染しているかどうか検査したことのない方、すでにピロリ菌に感染して治療したことのある方は、お子さんやお孫さんへの口移しは控えましょう。

 
ピロリ菌に感染しているだけでは、特に症状はありません。
たまたま受けた胃内視鏡検査で胃の内側が荒れていたりすると、「ピロリ菌に感染しているのでは?」と疑います。

 

ピロリ菌に感染すると、時間が経つにつれて、最初は胃の粘膜に軽い炎症が起きます。これが「胃炎」という状態です。
この胃炎にもいくつかの種類があり、胃内視鏡検査の検査結果で以下のように分類されます。

 

  1. びらん性胃炎
  2. 表層性胃炎
  3. 慢性胃炎

 

胃炎では、症状が全くなく胃内視鏡検査だけで異常が指摘される状態から、食直後のみぞおちの痛み、気分の不快、胸やけ、腹部膨満感、消化不良など、多彩な症状を呈することがあります。
なかには、胃潰瘍のように強い痛みを感じる場合もあります。
慢性胃炎の状態になると胃の粘膜が萎縮し、最終的に「萎縮性胃炎」という状態に変化します。
この萎縮性胃炎となった胃粘膜から胃がんが発生するとされているので、そうなる前に治療を受ける必要があります。

 
ピロリ菌に感染すると胃炎を引き起こすだけではなく、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因にもなります。
胃の内側は、胃を守る「粘液」という消化液と、消化作用のある「胃酸」のバランスを上手く取りながら、食事の消化や殺菌を行っています。
ところがピロリ菌に感染すると、このバランスが崩れ、粘液が減ってしまいます。そうすると胃酸で自分の胃を壊し、潰瘍が出来てしまいます。

 

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の症状は、強い上腹部痛ですが、空腹時に特に強く感じることが多いです。
そのほか、胃炎と同様に、胸やけ、嘔吐、気分の不快といった症状が出ます。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍は自然に治癒する場合もありますが、治療せずに放置しておくと、胃や十二指腸に穴が開き、とても強い痛みを呈することがあります。

 
ピロリ菌に感染しているかどうかは、人間ドックや胃がん検診で調べることができます。
まず「ABC健診」と呼ばれる、胃がんの危険性を評価する検査を受けます。
これは、ピロリ菌の抗体価検査と、ペプシノゲン法を合わせ、危険性を3段階で評価する検査方法です。
この検査結果により、ピロリ菌の感染が疑われる場合、治療を前提とした検査を受けることになります。

 

現在、治療を前提としたピロリ菌感染の検査方法は、以下の2種類に分かれます。

胃内視鏡を使う場合、
 

  • 迅速ウレアーゼ試験
  • 鏡検法
  • 培養法

 

のいずれかを行います。
胃内視鏡を用いて胃の組織を採取するので、胃内視鏡以外の検査をすることはありません。

胃内視鏡検査を行わない場合は、
 

  • 血中抗体測定
  • 尿素呼気試験
  • 糞便中抗原測定

 

のいずれかを行います。
尿素呼気試験の検査方法はやや複雑ですので、検査を受ける際は注意してください。

 

ピロリ菌に感染している場合は、前述のとおり慢性胃炎や萎縮性胃炎を起こしている可能性が高いため、胃がんのチェックも含めた胃内視鏡検査を受けることが勧められます(*4)。

 
もしピロリ菌に感染していると診断された場合、多くの場合で除菌治療を勧められます。
これは先にご説明したとり、「今後の胃がん発生を予防するため」と理解してください。

 

ピロリ菌に感染した場合の治療法は、「決まった3種類の薬を1週間飲む」というものです。
最初に行う1次治療、それで効果がなかった場合に行う2次治療までは医療保険が適用されています。

 

しかし、2次治療まで行っても治癒しない場合があります。
そうした場合は3次治療を受けるという方法もありますが、特殊な治療法のため、残念ながら現在の医療保険には適用されません。
もし1次治療で治癒できずに2次治療を行う場合は、ピロリ菌の治療を専門としている消化器内科の受診をお薦めします。

 
ピロリ菌の感染自体では体に不調を感じませんが、胃炎や胃潰瘍、胃がんの発生へとつながってしまう、気を付けなければならない病気のひとつです。
もしピロリ菌に感染していると診断された場合は、除菌も含めた相談を行うため、病院を受診するよう心がけてください。

 

■参考

*1(参考) 認定NPO法人 日本胃がん予知・診断・治療研究機構 「IARCのリリース」

*2(参考)公益社団法人江東区医師会 ピロリ菌と胃がんリスク健診(ABC検診)

*3(引用)厚生労働省 H.pyloriと胃癌

*4(参考)日本消化器病学会 疾患Q&A ヘリコバクターピロリ感染胃炎に対する除菌治療に関するQ&A 内視鏡診断