肺高血圧症
肺高血圧症とは
人間の心臓には、右心房、右心室、左心房、左心室と呼ばれる4つの部屋があります。全身から右心房に回収された血液は右心室を通って酸素交換を行う肺へと送り出され、十分な酸素が含んだ血液になります。その血液は左心房から左心室へと戻され、全身へ送り出されます。私たちはこの血液の流れがなければ生きていくことはできません。
ところが、右心室と左心房の間にある「肺」の圧力が何らかの原因で高くなり、この血液の流れがうまくいかない状態になる場合があります。この肺にかかる圧力が何らかの原因で高くなる病気を肺高血圧症と呼びます。
肺にかかる圧力が高くなる場所は、以下の3つが考えられています。
- 右心房から肺へと血液を送る肺動脈の圧が高い
- 肺自体の病気で圧力が高くなる
- 左心房や左心室の病気で肺から血液が心臓に送り返せず、肺の圧力が高くなる
これらの中では、①の肺動脈にかかる圧力が高くなってしまう原因が大多数を占めるため、肺高血圧症は肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary Arterial Hypertention; PAH)を表していることがほとんどです。
PAHを起こしてしまう原因は様々で、またその診断方法もとても難しく、現代の医療でも完治する事はいまだ難しい病気の一つです。それゆえ、国の難病にも指定されています。平成28年度の医療受給者証保持者数によると、全国で2999名の患者がおり、現在も増え続けています。これは様々な治療法の開発により、生命予後が改善されていることを裏付けています。
肺高血圧症の症状
PAHの症状では、動いた時の呼吸困難感、疲れやすさ、動悸、失神などの症状が出ることがあります。PAHが軽度の場合、これらの症状はあまり自覚することがありませんが、その一方で症状を自覚するようになった時にはすでにPAHが重症化していることがあります。
肺高血圧症の原因
PAHを発症する原因は、以下のようなものがあるとされています。
分類1:肺動脈性肺高血圧症(PAH)を引き起こす原因
- 原因が全く分からない特発性PAH
- 遺伝性PAH
- 薬物誘発性PAH
- 関節リウマチなどの膠原病に伴うPAH
- 感染症(HIVなど)に伴うPAH
- 肝臓に関係する門脈圧の上昇に伴うPAH
- 先天性心疾患に伴うPAH
- その他
と、分類されています。この中でも①特発性と②遺伝性の肺動脈性肺高血圧症の患者で全体の6割程度を占めていることが、治療を難しくしている原因です。
分類2:心疾患に伴う肺高血圧症
心筋梗塞や心臓の弁に異常があったりして、左心不全になっていることが原因です。
分類3:肺の病気やそれに伴う低酸素が原因の肺高血圧症
慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎など、肺自体の病気が原因です。
分類4:慢性血栓塞栓性肺高血圧症
肺動脈に血の塊が詰まってしまい、血管が閉塞してしまうことが原因です。
分類5:複合的な原因による肺高血圧症
様々な病気が複数組み合わさって発症することが原因です。
肺高血圧症と一言にいっても、実際には分類5のように様々な病気が同時に存在することがあります。発症原因が解明されていない病気も多く、「難病」に指定されています。
肺高血圧症が悪化すると
肺動脈性肺高血圧症の自覚症状としては、労作時の呼吸困難、息切れ、易疲労感、動悸、胸痛、失神、咳嗽、腹部膨満感などがみられます。いずれも軽度の肺高血圧では出現しにくく、症状が出現したときには、既に高度の肺高血圧が認められることが多いです。
また、重症な肺高血圧性肺動脈症の場合には、労作中に突然死してしまう危険性があります。さらに進行してしまった例では、首の血管が腫れる、肝腫大、下腿浮腫、腹水など、心不全の兆候がみられるようになります。その他、肺動脈性肺高血圧症の原因となっている疾患に伴う様々な身体所見がみられるようになります。
肺高血圧症の治療方法
肺動脈性肺高血圧症の治療法は、①支持療法②血管拡張療法③肺移植の3通りに分けられます。
①支持療法
- 抗凝固療法
症状の進行に、肺動脈の中に小さな血の塊ができてしまうことが関与しているため、その進行を抑えるために行います。- 酸素療法
体内に十分な酸素を取り込めない場合は、酸素マスクなどで酸素を吸います。- 右心不全対策
水分や塩分摂取の制限を中心として、体にストレスを与えないようにします。
②血管拡張療法
様々な薬剤を用いて肺動脈を拡張させ、血液の循環を良くします。
③肺移植
日本で実施されている肺移植の適応となる病気の中では最も多い疾患です。日本では脳死移植行うためのドナーが少なく実施が難しいため、多くの場合は生体肺移植が行われていますが、近年は脳死肺移植の件数も徐々に増えています。肺移植を受けられる条件は以下のようにとても厳しいこと、移植希望者の数に対して提供臓器が不足していることが問題とされています。
肺移植を受けるための条件
- 内科的治療に効果がなく、肺移植以外の治療法がない
- 両方の肺を移植する場合は55歳未満、片方の肺だけであれば60歳未満
- 移植の必要性を十分に理解できるほど精神的に安定しており、かつ十分な協力体制がある
- 肺の病気以外に重大な合併症がなく、手術に耐えられる
まとめ
肺高血圧症は原因が特定できないことも多いですが、例えばCOPDのように予防できる原因も中にはあります。生活習慣の見直しや普段の健康状態の確認など、かかりつけ医とよく相談してみてはいかがでしょうか。