非結核性抗酸菌症
非結核性抗酸菌症とは
非結核性抗酸菌症(NTM症)は、抗酸菌が肺に感染することで慢性呼吸器感染症を引き起こす病気です。
近代以降もっとも蔓延した感染症である結核は、戦後相次ぐ抗結核薬の開発、公衆衛生対策の充実により日本での発症者数は激減しています。
一方で、結核の類似菌である非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)に起因した非結核性抗酸菌症(NTM症)は、1990 年代以降罹患率が急速に上昇し、現在では結核に並ぶ勢いで患者さんが増えています。
結核菌や非結核性抗酸菌は「抗酸菌」と呼ばれる種類の菌として分類されます。結核を引き起こす結核菌(Mycobacterium tuberculosis)だけを定型抗酸菌と呼び、それ以外の抗酸菌と呼ばれる種類の菌を総称して非定型抗酸菌(Non tuberculous mycobacteria :NTM)と呼びます。
感染してしまった抗酸菌の種類により、以下のような2通りの病気として分類されます。
①結核性抗酸菌症(定型抗酸菌:いわゆる肺結核)
②非結核性抗酸菌症(非定型抗酸菌症)
今回は、こちらの非結核性抗酸菌症について説明をしていきます。
結核性抗酸菌症(肺結核)との違いは?
肺結核症は、我々の生活する社会や経済に大きな影響を与える病気の一つです。2014年の世界保健機関(WHO)の調査では、全世界で900万人が結核に感染し、150万人が死亡していると報告されています。
結核の症状は、疲れやすい、微熱が続く、食欲がない、咳が続くなど、これといった特徴はありません。そのため、症状が軽く病院を受診されない方も多いのが実情です。
結核は人から人へ空気感染するため、結核予防法や感染症法といった法律で感染者を国の定める結核病棟へ入院させることができます。それ程、感染力が強く注意すべき病気ということです。ちなみに、新型コロナウイルス感染症もこの感染症法では結核と同じ扱いをされています。
その一方で非結核性抗酸菌は人から人へと直接感染することは少なく、主に自然環境(水系、土壌など)で広く生息し、感染は環境から生じる点が特徴的です。また健康な方に抗酸菌が感染したとしても症状が出るまで重症化することはないため、どの程度の方が感染しているかもまだはっきりしていません。
その経過や予後は症例ごとに大きく異なり、無治療でも自然軽快する例やほとんど進行せずに 5 年から 10 年経過する場合もある一方で、最大限の治療をしても数年のうちに病変が進行し死に至ってしまうこともあります。
非結核性抗酸菌症の症状
非結核性抗酸菌症に感染しただけではほとんど無症状のことが多く、最初は風邪が長引く程度と感じる場合がほとんどです。健康診断などでレントゲン写真を撮影した際、偶然見つかることも多いです。
その後年月を経て徐々に慢性的な咳や痰を訴えるようになり、症状が進行すると粘っこい痰が絡むようにもなります。過去に結核を患ったことがあったり、肺気腫で治療を受けているような方では、結核の疑いで精査した結果として非結核性抗酸菌症と診断されることもあります。
非結核性抗酸菌症の原因
非結核性抗菌症の原因ははっきりとはわかっていませんが、土の周りや水回りでNTM菌を取り込んで発症することが多いと言われています。
NTMという菌は自然界や環境(土壌や水資源内)に常に存在する菌で、現在約170種類ほど存在すると言われています。通常は私たちに感染したり何らかの症状を引き起こすことはありませんが、もともと呼吸器系の疾患を持っていたり免疫抑制剤などを使用して免疫機能が落ちている場合は、気道を通って私たちの肺に感染することがあります。
現在の日本においてヒトに感染するとされているNTM菌は約10種類と言われています。NTMは結核と異なり人から人へと感染することはありませんので(結核は人から人へ空気感染をします)、医学の世界においてもあまり重要視されていません。そのため具体的にどの程度の方に非結核性抗酸菌症が発症しているかは不明な点が多いのが現状です。
非結核性抗酸菌症が悪化すると
通常は特に症状を表さないまま経過しますが、その経過には個人差もあります。感染したNTMの種類や感染された私たちの状態によっても左右されることも考えられますが、まだ明確な答えはわかっていません。
重症化した場合は喀血(咳とともに血液が吐き出されること)や呼吸不全による息切れ、呼吸困難を認めることもあります。また、呼吸が苦しい状態が続くことで体重が減少することもあります。一般的に、結核の既往があるなど肺に空洞がある方が発症すると進行が速いとされており、約10年程度で亡くなってしまうこともあります。
また、もともと肺気腫や肺結核のため肺の状態が悪かったり、抗がん剤治療などで免疫機能が低下しているような方が非結核性抗酸菌症にかかりやすいため、肺気腫の悪化や免疫機能のさらなる低下による症状に注意する必要があります。
非結核性抗酸菌症の治療方法
非結核性抗酸菌症の治療法は、薬物療法と外科的治療の2つになります。
①薬物療法
結核の治療に準じて、抗結核薬を用いた治療法となります。ワクチンなどの予防方法はありません。菌の種類に合わせて複数の薬剤を合わせて用いますが、抗酸菌は薬剤がかなり効きにくい種類の菌ですので、治療は数か月から数年に及ぶことがあります。一度治癒しても、体の状態によってはまた再発することもありますので、長期間の観察も必要になります。
②外科的治療
肺に大きな空洞を形成して喀血など重篤な症状を呈する場合には、病変部位を外科手術で切除することもあります。外科手術だけで完全に治すことは難しいため、手術後も抗結核薬を長期間内服する必要があります。
どちらの治療法を行うにしても、どの種類の菌が原因になっているかについて正確な診断を行うことが重要になります。
まとめ
非結核性抗酸菌症は免疫機能の落ちやすい方、例えばがんの治療などを受けている方に発症することが多いですが、体力のある方でも発症する可能性はゼロではありません。感染した後の治療を考えるよりも、感染しないように日々の健康に気を付けることが大切です。その意味でも、普段の健康管理を行ってくれる信頼できるかかりつけ医を見つけましょう。