代表的な症状

肺がん

 

 
酸素交換をする肺胞や気管支などの細胞から発生する悪性腫瘍のことを原発性肺がんと呼びます。人間の肺は左右に1つずつあり、そのうちのあらゆる部位から発生する可能性があります。
 
肺がんによる死亡者数は2015年頃より年々増加しており、男性が女性の2.5倍程度多くなっています。これは喫煙習慣の有無が大きく影響しているといわれています。また、肺がんとなった方の死亡率は健康な方と比べると5倍程度高く、50歳代後半から高齢になるにつれて高くなります。
 
最近の調査では、全体的な喫煙人口が減少しているにも関わらず、喫煙者の若年化や性比率の影響から、若い女性の肺がん患者さんも増えています。(*1)

 
肺がんの種類は大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分けられます。さらに細分化すると組織型の違いから4通りに分類されます。
 
そのため、それぞれ組織型の違いによって現れる症状が異なってきます。とはいえ、初期の肺がんでは自覚できるほどの強い症状が出ず、例えば長く続く軽い咳や、倦怠感いった風邪を疑わせる症状から肺がんと診断されたり、また健康診断や人間ドックのレントゲンや胸部CTといった画像診断で偶然見つかることもあります。

 

①扁平上皮癌
非小細胞肺がんの代表例である扁平上皮肺がんでは、太い気管や重要な血管近くにがんが発生しやすいため、気管や血管が腫瘍で閉塞してしまうことに伴う症状がでます。
 
②肺腺癌
肺の末梢の方に出来やすく、肺の小さな血管から出血して喀血(咳とともに血液がはきだされること)をすることもあります。
 
③大細胞がん
肺腺癌と同様に肺の末梢の方に出来やすく、肺の小さな血管から出血して喀血をすることもあります。
 
④小細胞肺がん
肺の中であればどこにでも発生することがあり、中枢で気管支を閉塞させることも、喀血してしまうこともあります。
 
なお、この中では肺腺癌が約6割を占めております。これらの種類に応じた治療方針を立てることが重要です。

 
肺がんの発症を促進する原因として最も多いのは喫煙です。非喫煙者に対する喫煙者の肺がんリスクは、日本人男性で4.4倍、女性で2.8倍と高くなっています。(*2)
 
喫煙の影響を調べる方法として、50歳以上で喫煙指数を調べることがあります。「1日の喫煙本数」×「喫煙年数」の数値が600以上の場合、肺がんに対して高いリスクを持つとして、胸部レントゲンなどの精密検査が勧められます。また、欧米においても肺がんの約90%が喫煙を原因として発症しているといわれており、非喫煙者に比べ喫煙者が肺がんに罹患する確率は20倍以上とされています。
 
別の観点では、女性において非喫煙者の肺がん患者さんが増えていることも報告されています。受動喫煙のあるグループは、受動喫煙のないグループと比較して肺がん発生リスクが約1.3倍程度高いとされています。(*3)さらに、女性に発生した肺がんのうち、約37%は夫からの受動喫煙がなかったら発症しなかったとも推計されています。
 
喫煙以外では、職業柄有害物質を吸引してしまったがために、肺がんを発症してしまうこともあります。石綿、シリカ、ヒ素、クロム、コールタール、ディーゼル排気ガスなどの有害物質も肺がんの発生リスクを高めるといわれています。特に、石綿被害に伴う肺がんの発生は増加傾向にあります。
 

 
肺は血管に囲まれ、リンパ管も豊富に発達しているため、血液の流れやリンパ管を伝わって肺内部を始め肝臓、副腎、腎臓、脳、骨など全身の臓器に転移します。肺小細胞がんと呼ばれる種類の肺がんは進行が早く、診断された時点で脳や骨に転移していることが少なくありません。がんが進行すると、転移した臓器特有の症状も出てきます。

 
肺がんはいまだに治りにくいがんの一つです。その理由として、以下の4つが考えられています。
 
①特有の症状がなく、自覚症状に乏しい
 
②他の臓器へ転移しやすい
 
③効果の高い治療法が少ない
 
④肺がん治療の専門医が少ない
 
また、前述した4種類のどれにあたるで、治療方針も変わってきます。非小細胞肺がんと言われる扁平上皮がん、肺腺がん、大細胞がんは抗がん剤や放射線治療からの好意的な反応が期待できないため、可能な限り外科手術が選択されます。非小細胞肺がんはレントゲンや胸部CTに写りやすいので、定期検診で発見されることも少なくありません。喫煙者の方は喀痰検査を受けた結果、痰の中にがん細胞が含まれていることで発覚することがあります。
 
一方で、小細胞肺がんは抗がん剤治療や放射線治療から得られる反応は良いものの、進行が著しく早いため、早期発見がとても重要です。そのため、肺がんの治療にはCT、MRI、PETなどの画像診断がとても重要になります。
 
また、近年では肺がんに発現している様々な異常遺伝子をターゲットにした分子標的治療薬、免疫療法として免疫チェックポイント阻害薬など、新しい薬物療法が開発されています。これらに精通した専門医の元で治療を受けたほうがよいでしょう。

 
肺がんだけに限らず、がんは早期発見・早期治療がとても重要です。どのような種類の肺がんなのか、ステージはいくつなのか、などの条件を加味して治療方針が選択されます。無論、一番大切なのは早期発見に努めることです。日頃からかかりつけ医と良いコミュニケーションをとり、健康診断など積極的な検査を受けましょう。
 

*1 出典:がん情報サービス「喫煙率」
*2 出典:国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ「喫煙と肺がんリスク」
*3 出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「受動喫煙 – 他人の喫煙の影響」