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【セントラル・ドクター・インタビュー】循環器内科 瀬尾弘司先生「メタボリックシンドローム 第2回 食事療法について」

メタボリックシンドローム、あるいは予備軍と診断された人が大いにお悩みになるのが「食事」でしょう。

 

「食べて良いもの悪いものが、なんとなく分かっているけれど大丈夫かな…」と不安の方も多いのではないでしょうか?

 

そこでこの記事では、宇都宮セントラルクリニック・循環器内科の瀬尾弘司先生に、メタボリックシンドロームを予防・改善するための食事療法について詳しくお話を伺いました。

 

メタボリックシンドロームを改善、予防するための「食事療法の原則」から「総摂取カロリーの計算方法」、「摂っていい脂質・悪い脂質の違い」、「欧米で効果があるとされる食事療法」まで、詳しくご紹介いただきました。

 

メタボリックシンドロームにお悩みの方、予備軍の方も、最後までお読みいただくと今後の食生活の改善方法がわかります。ぜひ、ご自身の健康増進にお役立てください。

 

宇都宮セントラルクリニック 循環器内科 瀬尾弘司 先生

 

宇都宮セントラルクリニック
循環器内科 瀬尾 弘司

 

——本日は、よろしくお願いいたします。

 

瀬尾弘司先生(以下、瀬尾) はい、よろしくお願いします。

 

今回は、メタボリックシンドロームの予防・改善で大切な「食事治療」についてお話しします。

 

皆さんがご存じの通り、メタボリックシンドロームの予防・改善において大切なのは、食生活の見直しです。「ついつい食べ過ぎてしまう」「飲み過ぎてしまう」をくり返していると、内臓脂肪が溜まっていき、メタボリックシンドロームを引き起こしてしまいます。

 

すでにメタボリックシンドローム、あるいは予備軍と診断されている方の中には、かかりつけのお医者さんから幾度となく指導されて、「またか…」と感じられる方もいらっしゃるでしょう。

 

ですが、繰り返し生活習慣の改善を指導するのには意味があります。
メタボリックシンドロームは命にかかわる重篤な病気の引き金となるからです。

 

【メタボリックシンドロームの仕組み】

メタボリックシンドロームの仕組み

出典:メタボリックシンドロームの仕組み図(宇都宮セントラルクリニック作成)

 

ご覧のように、メタボリックシンドロームの主な原因は「肥満」です。遺伝的素因や加齢も考えられますが、多くの人の原因は生活習慣・過食に起因する肥満なのです。

 

肥満により、体の中に内臓脂肪が蓄積させることで、インスリン抵抗性が惹起(じゃっき)されて、その結果、「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」などが発生し、動脈硬化が引き起こされるわけです。

 

動脈硬化とは、血管の弾力性が失われて固くなってしまう状態です。血管内部にプラークと呼ばれる隆起や、血栓が生じて血管が詰まりやすくなります。

 

血管が詰まった臓器によっては、心筋梗塞、狭心症、脳卒中という生命を危ぶまれる重篤な病気を引き起こす恐れがあります。

 

重篤な病気を発症した場合、「薬物療法で血液の通りをよくする」「ステント治療や手術によるバイパス術」などの処置がありますが、これらの処置は体への侵襲が強いばかりか予後の生活に大きな制限がかってしまいます。

 

現在、残念ながら動脈硬化そのものを治療する方法はありません。
そのため動脈硬化を防ぐ最良の方法は、日頃から口にする食事に気を配ること、「食事療法」が何よりも大切になるのです。

 

メタボリックシンドロームの仕組みについては、下記記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
セントラル・ドクター・インタビュー:メタボリックシンドローム第1回「その仕組みと予防について」

 

■メタボリックシンドロームの食事療法について

 

瀬尾 メタボリックシンドロームの食事療法に取り組む際の原則は以下の2点です。

 

・1日の総エネルギー摂取量がエネルギー(カロリー)消費量を超えないようにする
・それを長期間継続して、体脂肪量を減少させる

 

メタボリックシンドロームの食事療法では、ご自身の「1日の総エネルギー摂取量」の把握や、普段から口にする食品に対する理解を深めることが重要になります。

 

ここからは、メタボリックシンドロームの食事療法に大切なポイントを6つにわけて、それぞれ詳しく解説していきましょう。

 

食事療法ポイント① 1日の総エネルギー摂取量を把握する

 

1日にどれくらいのカロリーを摂取すべきかという数値「1日の総エネルギー摂取量」は、以下の数式で求めることができます。ぜひ、計算してみてください。

 

【1日の総エネルギー摂取量を求める計算式】

 

総エネルギー摂取量(kcal/日)=標準体重((身長m)2×22)kg × 身体活動量kcal/kg(※)

 

※身体活動量の数値は、労作の程度に合わせて3種類あります。

 

・軽い労作 25〜30kcal/kg
1日の大部分が座位。またはデスクワーク

 

・普通の労作 30〜35kcal/kg
座位、デスクワークが中心だが、立ち仕事含む。通勤や家事。軽い運動

 

・重い労作 35kcal/kg以上
1日の大部分が力仕事。活発な運動週間

 

数式で求められた1日の総エネルギー摂取量の数値を超えないように、食事を摂ることを心がけましょう。

 

食事療法ポイント② 摂って「良い脂質」と「悪い脂質」を決める脂肪酸の種類を把握する

 

脂肪酸とは、脂質の主成分です。私たちの体の細胞を作るために必要な成分なので、食事を通じてバランス良く摂る必要があります。

 

その一方で、摂りすぎるとよくない脂肪酸も存在します。摂りすぎると血液中のLDLコレステロールが増えて動脈硬化を引き起こす原因となります。

 

脂肪酸の中には、体内で合成できないものがあり、食事から摂取することが必須になります。食事では、体に良い脂肪酸を多く摂り、体に良くないとされる脂肪酸を控えるという自己判断が必要になります。

 

脂肪酸の種類と、摂るべき脂肪酸と控えるべき脂肪酸を以下の表にまとめました。メタボリックシンドローム、または予備軍と診断された方は、これからの食生活の参考になさってください。

 

【脂質の主成分である脂肪酸の分類とその特徴】

出典:メタボリックシンドロームの仕組み図(宇都宮セントラルクリニック作成)

 

・脂質エネルギー比率を20~25%、飽和脂肪酸エネルギー比率を4.5%以上7%未満、コレステロール摂取量を200mg/日未満に抑える

 

この数値は動脈硬化学会が、動脈硬化症疾患の予防の観点で推奨しているものです。

出典:動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版」

 

・ω9(オメガ9)系の脂肪酸を増やす

ω9の主成分のオレイン酸は、体内の血中コレステロールを正常に保つ作用があります。酸化しにくい特性で血管を健康に保つ働きがあります。

 

・n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取を増やす

健康食品などでお馴染みの質のよい脂肪酸です。血管の炎症抑制作用や中性脂肪低下作用、脳細胞の活性化といった効果が期待できます。

 

・工業由来のトランス脂肪酸の摂取を控える

トランス脂肪酸は善玉コレステロールを減らし、悪玉コレステロールを増やすため、摂りすぎると健康を阻害するリスクが高まるとされています。

 

食事療法ポイント③ 炭水化物エネルギー比を50~60%とし、食物繊維の摂取を増やす

 

炭水化物の1日の摂取基準は男女ともに総エネルギー摂取量の50〜60%が推奨されています。

 

炭水化物はブドウ糖や加藤単糖から構成されているものの総称です。体内に吸収される「糖質」と、消化吸収されない「食物繊維」の2種類があります。

 

摂りすぎた炭水化物はブドウ糖となって肝臓へ送られます。肝臓でグリコーゲンとして貯蔵されますが、余剰分は中性脂肪と変わり、内臓脂肪・皮下脂肪として蓄積されるので摂りすぎには注意が必要。炭水化物が太ると言われる理由ですね。

 

一方の食物繊維は糖の吸収を穏やかにする作用があります。食後の血糖値の上昇を抑えてくれるので、糖尿病予防に期待ができます。また血中の脂質の上昇を抑える働きがあり、動脈硬化を防いでくれるので、日頃から積極的に摂りたい成分です。

 

食事療法ポイント④ 食塩の摂取は6g/日未満を目標にする

 

塩分を摂り過ぎると、血圧が上がります。血液中のナトリウム濃度の上昇によって、浸透圧を一定に保とうと血液量が増えると、血管の壁にかかる負担が大きくなるためです。

高血圧状態が続くと血管は常に張った状態で、徐々に厚くなって動脈硬化を引き起こします。

 

食塩を摂りすぎたいようにするために、食料品の買い物では食品表示の「食塩相当量」の数値を確認するように心がけましょう。

 

ちなみに食品表示が、ナトリウム(mg)の表記の場合は

ナトリウム(mg)×2.54÷1000=食塩相当量(g)

で、食塩相当量を求めることができます。上記の数式をスマートフォンなどにメモしておいて、買い物の時にお役立てください。

 

食事療法ポイント⑤ アルコールの摂取を25g/日以下に抑える

 

長期にわたる大量の飲酒は、メタボリックシンドロームはもちろん、さまざまな健康リスクを高めます。節度ある適度な飲酒量は1日平均25g以下とされています。

 

・高血圧の場合
飲酒量が多かったり、長時間飲み続けると高血圧になる恐れがあります。一緒に食べるおつまみの塩分量の多さも血圧を上げる原因のひとつです。

 

・高脂血症の場合
アルコールは肝臓の中性脂肪の合成を増加させます。過度の飲酒は肥満や高血圧の原因になります。

 

・糖尿病の場合
適量の飲酒は糖尿病の発生を抑えるとされています。しかしながら、過度の飲酒はインスリン抵抗性の原因となって制御の難しい糖尿病になるため、節度ある適度な飲酒量を守ることが大切です。

 

食事療法のポイント⑥ カロリーを摂りがちな食品に気を付ける

 

糖質や脂質を多く含む食品やアルコール類はカロリーが高いので摂りすぎに注意しましょう。

 

・菓子類
お菓子は見た目以上に高カロリーな食品です。甘い物・しょっぱいもの・洋菓子・和菓子に関係なく、食べる量や頻度を見直してみましょう。

(例)
せんべい1枚(約80kcal)、どら焼き1個(約250)、シュークリーム1個(約200kcal)

 

・果物
健康に良いとされる果物は、果糖が多いため摂りすぎは体重増加を招きます。
1日の摂取量の目安は、片手のひらに乗る程度の量です。バナナ1本、りんごなら1/2個程度です。

 

・アルコール
アルコールは1gあたり7kcalあります。飲み過ぎると摂取エネルギーも増加します。
1日の適量は、アルコール量20g未満です。適量を目安に飲みましょう。
(1日の適量)
ビール500ml(約200kcal)、日本酒1合(約200kcal)、焼酎0.5合(約130kcal)

 

・牛乳や乳製品
牛乳や乳製品はカルシウムが豊富で毎日摂りたい食品ですが、脂肪が多いため摂りすぎは禁物。体重増加の原因になるので注意しましょう。
1日の適量は牛乳とヨーグルトを合わせて200ml(g)です。

 

■「食事でのコレステロール摂取制限は必要ない」という報道に誤解をしないように

 

瀬尾 2015年2月に米国農務省・保健福祉省が、食事でのコレステロール摂取制限は必要ないと発表しました。これを受けて国内でも厚生労働省が「日本人の食事摂取基準2015年版」でコレステロール摂取の上限値を削除しました。

 

なぜこのようなことが起きたかというと、摂取したコレステロールが血液中のコレステロール値に与える影響は、個人差が大きいので正確な数字が出せないためです。

 

制限がなくなったからといって、コレステロールはどれだけ摂っても大丈夫ということではないので誤解しないでください。

 

健康体な方やLDLコレステロール値が低い方は、現在の食事内容でコレステロールを制限する必要はありません。

 

LDLコレステロール値が高い人は、これまでどおり食事でのコレステロール摂取制限が必要であり、同時に飽和脂肪酸についても必要です。

 

■メタボリックシンドロームを予防に効果が期待できる食事

 

瀬尾 メタボリックシンドロームを予防するためのバランスのよい食事を説明する上でおすすめしたいのが、厚生労働省e-へスルネットの「食事バランスガイド」です。

 

1日の食事バランスを「コマ(駒)」に例えた図表に、1日で摂った食事の合計数を書き込むことで、バランスのよい食事が摂れたのか図でわかるというものです。

 

食事バランスガイド

 

食事バランスガイド 簡易版

出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「食事バランスガイド」

 

1日の摂取カロリーを毎日計算するのは大変なので、ストレスになる場合もあります。食事バランスガイドなら簡単に記録できるので、まずは食事バランスガイドで記録を付ける習慣を身に付けるといいかもしれません。

 

■おすすめするメタボリックシンドロームを改善する食事スタイル

 

瀬尾 先進国で共通の問題となっている肥満やメタボリックシンドローム。各国でメタリックシンドロームを改善するメニューが誕生しています。ここでは、明日からでも実践できる2つの食事スタイルをご紹介します。

 

食事スタイル① 欧米で推奨されている「レイト・ザ・プレート」

「レイト・ザ・プレート」は、料理皿を3分割して、それぞれの空間に「炭水化物」「タンパク質(肉・魚)」「非でんぷん質の野菜」を盛り付けるというものです。

この方法を使えば、食材の分量を計ることなく、健康的にバランスが整った食事を盛り付けるだけでできるという、なんともアメリカらしい合理性を感じる食事スタイルです。糖尿病の食事治療やダイエットに用いられています。

レイト・ザ・プレート

 

食事スタイル② 生活習慣病のリスクを下げる「地中海式食事スタイル」

 

地中海式食事スタイル

出典:Oldways「Mediterranean diet」

 

【食べる頻度/食品】

 

月に数回/牛肉や豚肉、お菓子やケーキなどのデザート

週に数回/鶏肉、卵、チーズ、ヨーグルト

毎週少なくとも2回/魚、シーフード

毎日の毎回の食事/野菜、果物、全粒粉、オリーブオイル、豆、ナッツ類、マメ科植物および種子、ハーブやスパイス

毎日/運動、誰かと一緒に食事をする

適度に飲む/ワイン

毎日飲む/水

 

地中海式食事スタイルの特徴は

 

・果物や野菜を豊富に摂る
・魚を乳製品・肉よりも多く摂る
・オリーブオイル、ナッツ、全粒粉など未精製の穀物を摂る
・食事と一緒に適量の赤ワインを飲む

 

というものです。

 

1985年に米国ミネソタ州大学の博士が、7ヵ国(日本、アリから、フィンランド、オランダ、イタリア、ユーゴスラビア、ギリシャ)で行った疫学研究で、地中海沿岸の国では、血中コレステロール値が低く、動脈硬化、狭心症などが少ないと発表。一気に地中海式食事スタイルが世界的に注目を集めることになりました。

 

日本食よりもダイエットの観点で優れている点があるのなら、日常の食事に取り入れてみるのもいいかもしれません。

 

■日々、健康的な食事をしてメタボリックシンドロームを改善しましょう。

 

瀬尾 今回はメタボリックシンドロームの改善・予防のための食事療法についてご説明しました。

 

メタリックシンドロームは、別名「生活習慣病」の名称どおり、日頃の生活習慣が原因となります。

 

食べ過ぎ、飲み過ぎといった習慣がメタボリックシンドロームを引き起こしてしまうことが分かっていても、生活習慣を変えるというのはなかなか難しいものです。

 

そんなときは、健康診断・人間ドックを受診し、きちんとご自身の体の状態を調べてもらうことをおすすめします。

 

ご自身の体の状態を把握できれば、自ずとこれから改善すべき生活習慣が分かってきます。

どのようなものを口にするべきなのか、どのように過ごすべきなのか計画を立てることができます。おひとりで悩まず、お医者さんと相談しながらメタボリックシンドロームの改善・予防に取り組むのが健康への一番の近道です。

 

なお、宇都宮セントラルクリニックでは、メタボリックシンドロームの二次予防として「生活習慣病予防検診」「人間ドック(生活習慣病コース)」を提供しています。

 

宇都宮セントラルクリニックでは、メタボリックシンドロームの早期発見に有効な検査機器が充実しています。メタボリックシンドロームの原因となる内臓脂肪を測定する検査もお受けいただけます。

 

メタボリックシンドロームの予防として、ご自身の生活改善とあわせて、正確な検診と診断をご検討ください。

 

■宇都宮セントラルクリニック

宇都宮セントラルクリニックの人間ドックは、「がん」「脳疾患」「心疾患」の三大疾病を総合的に診断するコースから、内臓脂肪など気になる部分を重点的に診断するコースなど、多様なコースをご用意しております。また、近い将来に65歳以上の約7人に1人がかかるといわれる「認知症」について調べることができるコースもご用意させていただいております。

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【この記事の監修医師】

宇都宮セントラルクリニック 循環器内科 瀬尾 弘司

宇都宮セントラルクリニック
循環器内科 瀬尾 弘司

平成2年に獨協医科大学を卒業後、同病院の現在の心臓・血管内科教室に入局し内科学全般および循環器研修に携わる。
平成9年からは栃木県保健衛生事業団にて循環器領域の予防医学を担当すると同時に、宇都宮セントラルクリニックにおいて冠動脈を中心とした循環器領域の画像診断やセントラルメディカルクラブ(CMC)の顧問医として従事。

所属学会等
日本循環器学会認定循環器 専門医
日本内科学会 認定内科医
日本老年医学会認定 専門医
日本温泉気候物理医学会 温泉療法医
日本医師会認定 産業医