代表的な症状

直腸がん

 

 
私たちの体には、大腸と呼ばれる、食物を便にする1.5m程度の臓器があります。
その中でもより肛門に近い15cm程度の部分を直腸と呼び、その直腸の粘膜から発生したがんが直腸がんです。

厚生労働省による全国調査では、2018年にがんで亡くなった方の原因として直腸癌は第7位に位置していますが、直腸がんの患者さんが増えていることもあり、今後注意が必要ながんの一つです。

 
早期の直腸がんでは特に症状が出ることはなく、健康診断などで便潜血検査や大腸内視鏡検査でがんと診断されることが多いです。

大きくなるにつれてがんの表面から出血するため、排便した際に便に血が混じる、便器の中が赤くなる・・・などといった症状で気づく場合もあります。

肛門の近くに発生した直腸がんでは、排便と一緒に腫瘍が肛門の外まで飛び出し、まるで痔のように見えることもあります。

 
直腸がんは大腸がんの一部として考えられるために、直腸がんとなってしまう原因は、大腸がんの理由として考えられている以下の3つがの発生機序と同様とされています。

 

  1. 散発性大腸癌
  2. adenoma-carcinoma sequence
  3. 遺伝性大腸癌

その中でも直腸がんの場合は、①散発性大腸癌の要因に含まれている食生活の欧米化が、直腸がんを発生させる原因として重要視されています。

 
直腸は、上行結腸や横行結腸など他の大腸の部分と比べると細いため、直腸がんが進行すると直腸の内腔は容易に狭窄します。
そのため、便が細くなる、便が全く出ないなどの排便障害をきたします。

さらに狭窄が高度になると、便がまったく通過しなくなるため、腸閉塞の状態となってしまいます。

直腸がんがさらに進行し、腸の壁を突き破ってお腹の中まで飛び出してしまうと、骨や膀胱など他の臓器に直接浸潤して広がってしまいます。
血尿や頻尿、仙骨の痛みなどを訴えることもあります。

また直腸がんは大腸がんと同様に肝臓や肺に転移しやすく、進行すると転移してしまった臓器の障害もでてきます。

 
直腸がんの治療は、その進行度(他の臓器に転移しているかどうか)やがんが発生した部位(肛門に近いかどうか)などにより、選べる手段が変わってきます。

進行度で考えた場合

直腸の早期がんでは大腸胃内視鏡を用いた内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dessection: ESD)もしくは、外科手術によって直腸を切除する方法で治癒を目指します。

直腸がんは早期に他の臓器へ転移することが多いため、まず外科手術が可能かどうか判断するため、CTやMRIといった画像診断を行います。

遠隔転移がなく切除ができると判断された場合は、がん周囲のリンパ節も含めて直腸を切除することになります。
万が一遠隔転移があったとしても、直腸がんとその転移巣が切除できると判断された場合は、同時もしくは2回に分けて直腸と転移した臓器を切除することもあります。

最近では、直腸がんがかなり進行していたり、もともと他の臓器へ転移している場合には、術前化学療法と言って、あらかじめ抗がん剤でがんを小さくしてから手術を行うといった方法を加えることも増えてきています。
ただし、抗がん剤が効かなかった場合には手術のタイミングを逃してしまう可能性もあるため、慎重に選択しなければなりません。
 

 
早期、進行がんにかかわらず、直腸がんではできた場所で手術の方法が大きく変わります。
それは、「人工肛門」が必要になるかどうかです。

直腸は人体の中でも特に奥深い位置にあり、また弱い臓器でもあります。
そのため手術で直腸を切除して腸同士をつないだとしても、うまくくっつかない(縫合不全といいます)ことも多く、最初から腸同士をつなげず最初から人工肛門を選択する場合があります。
それは肛門に近ければ近いほど顕著です。

 
直腸がんの治療はその状態に応じて色々な選択肢があるうえに、現在研究開発中の治療方法もあります。
また、人工肛門になるかどうかは、外科医の技量に左右されると言っても過言ではありません。
複雑な治療にあたることができる消化器外科医・消化器内科医、治療経験の豊富な医療機関での治療が望まれます。