心筋梗塞
平成30年の人口動態統計によると、心筋梗塞を含む心臓病は、がんに次いで日本人の死因の第2位。
もはや生活習慣病と並ぶ国民病となっています。
そんな心筋梗塞がとても恐ろしいのは、「突然死」の原因となってしまうことです。
近年話題になっているメタボリックシンドローム(いわゆるメタボ)は、肥満を中心に高血圧・高血糖・高脂血症が重積し、心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中)の高リスク群となります。
心筋梗塞は「夜間突然死」を起こす病気であり、死の四重奏と呼ばれる肥満・高血圧・高血糖・高脂血症を持つ方は、特に心筋梗塞になりやすいので注意が必要です。
ここででは、心筋梗塞になりやすい人、心筋梗塞になったらどうなるのか、心筋梗塞の治療方針などを説明します。
心筋梗塞とは?
心筋梗塞は、「冠動脈」と呼ばれる心臓につながる血管が突然閉塞してしまい、その結果心臓の筋肉が壊死してしまう病気です。
日本における心筋梗塞の発生頻度は調査されていませんが、アメリカでは年間100万人以上が発症しているといわれています。
心筋梗塞になったばかりの状態を「急性心筋梗塞症」(Acute Myocardial Infarction: AMI)と呼びますが、2020年現在でも急性心筋梗塞症の死亡率は30%に達し、その大半が病院へ到着する前に亡くなっています。
これも、冠動脈疾患集中治療施設(Coronary Care Unit: CCU)の発展と治療法の普及により、少しずつですが死亡率は改善傾向にあります。
しかしながら、日本では人口の高齢化、食習慣の欧米化に伴い、急性心筋梗塞症を含む冠動脈疾患が増加しています。
仮に初回の治療で助かったとしても、後遺症で心不全や不整脈を起こし、長い期間治療を受けなければならなくなります。
心筋梗塞の症状
急性心筋梗塞症では、半数近くの症例は心筋梗塞になる前に、何らかの前触れ・・・たとえば胸が痛くなる、などの症状があります。
裏を返せば、半数は突然発症してしまいます。
急性心筋梗塞症を発症した時の特徴的な症状は、左胸を中心とした激烈な痛みです。
その痛みは
- 「押しつぶされる」
- 「締め付けられる」
- 「棒をねじ込まれる」
- 「焼かれる」
などと表現されることがあります。
急性心筋梗塞症の痛みは30分から数時間続き、改善することなく徐々に悪くなっていきます。
心筋梗塞症には
- 「関連痛」
- 「放散痛」
という、胸以外にも痛みを起こすことがあります。
特に有名なのは、胃潰瘍などと同様に、みぞおちの辺りが痛むことです。
そのため、急性心筋梗塞症を胃潰瘍と診断し、適切な治療機会を逃してしまうこともあります。
その他には、肩こりのような肩の痛みや、虫歯のように奥歯が痛むことがあります。
これらは「放散痛」と呼ばれています。
しかし、高齢者や糖尿病を患っている方では、この痛みが出ないことがあります。その場合、
- 失神
- めまい
- 脱力
- なんとなく落ち着かない
など、とらえどころのない状態になることもあります。
心筋梗塞の原因
急性心筋梗塞症は多くの場合、冠動脈に存在する動脈硬化プラークに血の塊ができて詰まってしまうことにより発症します。
もともと動脈が狭かったわけではなく、動脈硬化プラークが突然破裂し、動脈を詰まらせてしまうのです。
急性心筋梗塞症を最も発症しやすいのは、「冠動脈リスクファクター」と呼ばれる危険因子を持つ方です。
この冠動脈リスクファクターには、次のものが挙げられます。
- 高血圧
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 喫煙
- 飲酒
- 運動不足
- 肥満
- 家族歴
- 男性
家族歴、性別など自分の意志では修正不可能なものと、高血圧、喫煙、肥満など自分の意思で修正できるものが含まれています。
これらのリスクファクターの個数で、危険度が違ってきます。
心筋梗塞の合併症
一度急性心筋梗塞症を発症してしまうと、心臓にはかなり重いダメージが残ります。
その結果、心機能低下、心不全、不整脈などを合併し、日常生活の強度を下げなければならなくなります。
もちろん、心筋梗塞の再発も考えなければなりません。
心筋梗塞の治療法
急性心筋梗塞症の治療方針は、発症してからの時間経過によって、以下の3期に分かれます。
①急性期(発症後数時間から1週間程度)
急性心筋梗塞症は発症してからの1~2時間が、予後を決定する大事な時間です。そのため、急性心筋梗塞症を疑う症状が出た場合は、なるべく早く病院へ運んでもらうことが重要です。
そして「再灌流療法」という、詰まってしまった冠動脈を再開通させる治療を可能な限り早く受けると、予後が改善します。
②回復期(1~4週間)
急性期治療により症状が安定したら、長期予後を考えた薬物治療が始まります。心筋梗塞の再発予防、心不全予防、突然死予防を考えた内科的治療が計画され、薬剤によるアレルギーや副作用がない場合には、少なくとも数年単位での治療が考えられます。
③治癒期(4週間以降)
この頃になると、退院して外来通院をします。
外来では薬剤による内科的治療を継続することと、冠動脈リスクファクターを限りなく減らすことが重要です。
冠動脈リスクファクターを減らすために、特に重要なのは以下の点です。
- 禁煙
- 肥満の改善
- 糖尿病のコントロール
- 高脂血症のコントロール
冠動脈リスクファクターの改善をせず、内科的治療だけを受けていても、効果はありません。
まとめ
心筋梗塞は、一度発症してしまうと、自分自身だけではなく家族にも大きな影響を与えてしまいます。
発症してから治療するのではなく、心筋梗塞を発症しないように、日頃からの健康管理には十分気をつけてください。
少しでも気になる点が見つかったら、すぐに病院を受診するようにしましょう。
■参考
*1(参考)平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況 「死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)・死因順位別」