代表的な症状

虚血性心疾患

 

 
私たちの絶え間なく動き続ける心臓に酸素や栄養分を届けるために、心臓の表面に冠動脈と呼ばれるとても重要な動脈があります。この冠動脈は右と左に別れ、それぞれ心臓の右側、左側を中心に酸素や栄養分を送り届けています。
 
ところが、近年話題になっている肥満を中心に高血圧・高血糖・ 高脂血症などの病気を合併するメタボリックシンドローム(いわゆるメタボ)では、この冠動脈の中にコレステロールが蓄積し、粥状(じゅくじょう)動脈硬化を引き起こします。その結果、この冠動脈を流れる血液の流れを妨げてしまうため、胸痛などを引き起こしてしまいます。このように、冠動脈が動脈硬化によって狭くなってしまうことで生じる病気を虚血性心疾患と呼びます。虚血性心疾患は以下の3つの病気に分類されます。
 

  1. 狭心症
    冠動脈の病変により、一時的に心臓の筋肉が虚血に陥った状態。症状は一過性であることが多い。
  2. 不安定狭心症
    狭心症より症状の頻度や強さが増加した状態で、心筋梗塞や突然死を招きやすい状態。
  3. 心筋梗塞
    冠動脈が完全に閉塞してしまい、心臓の筋肉の壊死が始まってしまった状態。

この中でも、心筋梗塞は一刻も早い治療が必要となる病気で注意が必要です。日本における心筋梗塞の発生頻度は調査されていませんが、アメリカでは年間100万人以上が発症していると言われています。日本でも人口の高齢化や食習慣の欧米化に伴い、急性心筋梗塞症を含む冠動脈疾患が増加しています。
 
心筋梗塞になったばかりの状態を急性心筋梗塞症(Acute Myocardial Infarction: AMI)と呼びますが、現在でも急性心筋梗塞症の死亡率は30%に達し、その大半が病院へ到着する前に亡くなっています。冠動脈疾患集中治療施設(Coronary Care Unit: CCU)の発展と治療法の普及により少しずつですが死亡率は改善傾向にありますが、初回の治療で助かったとしても後遺症で心不全や不整脈を起こし、長い期間治療を受けなければならなくなります。

 
急性心筋梗塞症では、半数近くの症例は心筋梗塞になる前に何らかの症状、例えば胸が痛くなる、などを自覚することが多いです。裏を返せば、半数の方は突然心筋梗塞を発症してしまいます。急性心筋梗塞症発症時の特徴的な症状は、左胸を中心とした激烈な痛みで、押しつぶされる、締め付けられる、棒をねじ込まれる、焼かれるなどと表現されることがあります。痛みは30分から数時間続き、改善することなく徐々に悪くなっていきます。
 
また心筋梗塞症には関連痛や放散痛といった、胸以外の場所に痛みを感じることがあります。特に有名なのは、胃の病気などと同様にみぞおち周辺が痛むことがあります。そのため、急性心筋梗塞症が胃潰瘍や胃炎と診断われ、適切な治療機会を逃してしまう事もあります。その他には、肩こりのような肩の痛みや、虫歯の様に奥歯が痛むことがあります。
 
しかし、高齢者や糖尿病を患っている方では、この痛みが出ないことがあります。その場合、失神、めまい、脱力、なんとなく落ち着かないなど、とらえどころのない状態になることもあります。

 
急性心筋梗塞症は、多くの場合冠動脈に存在する動脈硬化プラークや、そこに血の塊ができて詰まってしまう事により発症します。もともと動脈が狭かったわけではなく、動脈硬化プラークが突然破裂し、動脈を詰まらせてしまいます。
 
急性心筋梗塞症を最も発症しやすいのは、冠動脈リスクファクターと呼ばれる危険因子を持つ方です。この冠動脈リスクファクターとは、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、飲酒、運動不足、肥満、家族歴、男性などとされています。家族歴、性別など自分の意志では修正不可能なものと、高血圧、喫煙、肥満など、自分の意思で修正できるものが含まれています。これらのリスクファクターをどの程度持っているかで心筋梗塞を発症してしまう危険度が異なります。

 
一度急性心筋梗塞症を発症してしまうと、心臓にはかなり重い障害が残ります。その結果、心臓の機能低下、心不全、心室細動などの致命的な不整脈などを合併し、日常生活様式も大きく変更しなければならなくなります。もちろん、心筋梗塞の再発も考えなければなりません。

 
急性心筋梗塞症の治療方針は、発症してからの時間経過で以下の3期に分かれます。

 急性心筋梗塞症は発症してからの1~2時間が、今後の予後を決定する大事な時間です。そのため、急性心筋梗塞症を疑う症状が出た場合は、なるべく早く救急隊あるいは病院へアクセスしてもらう事が重要です。そして、再灌流療法という、詰まってしまった冠動脈を再開通させる治療を可能な限り早く受けることで予後が改善します。

急性期治療により症状が安定したら、長期予後を考えた薬物治療が始まります。心筋梗塞の再発予防、心不全予防、突然死予防を考えた内科的治療が計画され、薬剤によるアレルギーや副作用がない場合には、少なくとも数年単位での治療が必要になります。

このころになると、退院して外来通院をします。外来では薬剤による内科的治療を継続することと、冠動脈リスクファクターを限りなく減らすことが重要です。その中でも、禁煙、肥満の改善、糖尿病のコントロール、高脂血症のコントロールが特に重要です。冠動脈リスクファクターの改善をせず、内科的治療だけを受けていても、効果はありません。

 
心筋梗塞は、一度発症してしまうとみなさん自身だけではなく家族にも大きな影響を与えてしまいます。心筋梗塞を起こしやすい原因には、自分自身で気を付けて管理することで予防できるものも多く含まれています。発症してから治療するのではなく、心筋梗塞を発症しないように日頃からの健康管理には十分気を付けて下さい。