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呼吸器アレルギー内科担当【沼尾先生のコラム】良い睡眠は良い結果をもたらす

良い睡眠は良い結果をもたらす

2023年4月

沼尾 利郎

1 春はなぜ眠い?

春は睡魔に襲われる季節です。しっかり寝たつもりなのに、どうして春は眠くなるのでしょうか? その理由にはいくつかありますが、1つ目として「環境の変化」があります。春には卒業、入学、入社、転勤など慣れない環境や状況の変化がストレスとなり、快適な眠りを妨げる要因となります。2つ目は「自律神経の乱れ」です。この時期は温度・気圧・日照時間の変化などにより、活動モードの交感神経と休息モードの副交感神経のバランスが乱れやすくなり、不眠になったり抑うつ気分になります。

3つ目は「花粉症や大気汚染の影響」が挙げられます。毎年春にはスギ花粉や黄砂が大量に飛散するため鼻汁・鼻閉・くしゃみなどで眠りが邪魔されたり、薬の副作用で日中の眠気が起こります。4つ目は「ホルモンや睡眠リズムの乱れ」によるものです。夜の時間が短くなる春はメラトニン(睡眠ホルモン)の分泌が減少するため、体内時計や睡眠リズムが乱れて睡眠の質が低下し不眠になりやすいのです。

このように体の内部と外部で多種多様な変化が起こるため、春はいくら寝ても(寝たつもりでも)眠気が続いたり不眠になるのですね。

 

 

2 睡眠負債という考え方

眠いと言えば、かつて話題となった言葉に「睡眠負債」というものがあります(2017年の流行語大賞)。これは日々の睡眠不足が借金(負債)のように蓄積されていく状態のことであり、睡眠負債がたまると注意力や集中力の低下、頭痛、倦怠感、不安や抑うつなど心身に悪影響が現れます。また睡眠負債により糖尿病や高血圧などの生活習慣病にかかりやすくなったり、がんや認知症などの発症リスクが高まることが報告されています。

一方、睡眠には脳の休息と機能回復の役割があるため、睡眠負債は交通事故などのヒューマンエラーや仕事のパフォーマンス低下(労働生産性の低下)などにより社会に多大な影響を及ぼします。2018年の調査で日本は睡眠時間の短さがOECD加盟国中の第1位(世界最大の睡眠負債国)でしたので、「眠らない」あるいは「眠れない」ことによる経済的な社会損失は相当な金額になっている可能性があります。

それでは、たまった負債(借金)はどうすれば返せるのでしょうか? 睡眠不足の蓄積を一度に取り戻すことはできません。すなわち“週末の寝だめ”は効果がないだけでなく睡眠のリズムも乱れてしまうので、1日30分以内の仮眠(昼寝)をこまめにとることが体内時計を維持するのに有効と言われています。

 

 

 3 あの人の言葉

このように睡眠と健康は相互に関係しており、睡眠には表のように重要な役割があります(内村直尚教授/日本睡眠学会理事長)。

 

 

睡眠不足や睡眠の質(熟睡感など)低下による健康への悪影響を防ぐためにも、快眠・良眠のポイント(下記)を知り自分流にアレンジすることが肝要です。

 

(1) 週末も就寝・起床時刻を一定にする(体内時計のリズムを乱さない)

(2) 睡眠時間にこだわりすぎない(睡眠は量と質のどちらも大事)

(3) 朝に太陽の光を浴びる(体内時計にスイッチを入れる)

(4) 適度な運動をする(午後の有酸素運動が効果的)

(5) 寝る前にリラックスタイムを持つ(音楽、読書、半身浴、アロマなど)

(6) 快適な寝室・寝具にする(枕、照明、温度、湿度などを整える)

(7) 午後に短時間の仮眠をとる(30分以内の昼寝が効果的)

 

人生の1/3は睡眠時間であり、睡眠は食事や運動と同じように健康を支える大切な柱の1つとして私たちを守っています。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で大活躍した“あの人”の言葉からも分かるように、結果を出す人は日々の生活習慣を大事にしています。別の言い方をすれば「良い睡眠は裏切らない」ということですね。

 

『大切にしているのは毎日の睡眠です』   (大谷翔平)

 

 

 

【参考資料】

1 睡眠と健康長寿の関係:健康長寿ネット

2 睡眠と健康:e-ヘルスネット(厚生労働省)

3 快適な睡眠が健康を守る:血管健康くらぶ