呼吸器アレルギー内科担当【沼尾先生のコラム】アニマルセラピー(動物のチカラ)
アニマルセラピー(動物のチカラ)
2022年8月
沼尾 利郎
1 セラピー犬に会える病院
私が勤務していた国立病院機構宇都宮病院では、回復期病棟で定期的にアニマルセラピーを行っていました(現在は一時休止)。「入院が長期化している患者さんに何か喜んでもらえることはないか?」と考えて取り組んだものでしたが、実際には患者さんだけでなく(むしろそれ以上に)病棟スタッフからも大変好評でした。普段は硬い表情の患者さんが笑顔で犬と触れ合う姿を見て、スタッフもまた幸せな気持ちになるのです。NPO法人とちぎアニマルセラピー協会から訓練を受けた認定セラピー犬が毎回4頭ほど病院へ来てくれ、セラピー犬と触れ合うことで患者さんたちの心が癒され不安やストレスが軽減される様子がよくわかりました。
アニマルセラピーとは人と動物との触れ合いを通じて医療・介護・教育などに活用される活動のことであり、その目的により主として動物介在活動(AAA)、動物介在医療(AAT)、動物介在教育(AAE)の3つに分けられます。AAAは情緒的な安定や生活の質向上などを目的としており、日本ではこれが主流です。AATは専門的な治療行為の一種(補助療法)として行うものであり、AAEは命の大切さなどを学ばせる教育の一環として行われます。欧米では高齢者施設や医療機関、学校、障害者施設、刑務所など様々な場所で幅広く活動しており、最近では国内でも活動の幅が広がってきました。
アニマルセラピーの様子
2 セラピーの効用
アニマルセラピーの効用には(1)生理的効果、(2)心理的効果、(3)社会的効果の3つがあります。(1)はストレスを軽減するオキシトシン(幸せホルモン)が分泌され、副交感神経が活性化されてリラックスした状態になります。(2)は抑うつ状態が改善したり、心の傷が癒されて前向きな気持ちになります。(3)は孤独な人の他者との向き合い方を改善したり、人と人との交流を円滑にします。以前から「犬と暮らすとストレスが少なくて長生きする」と言われており、「犬と暮らすことで飼い主の血圧が下がった」との研究結果も海外では報告されています。
グーグルやアマゾンなどの世界的企業では職場にペットを連れてくることを許可していますが、特にグーグルは自社を「ドッグカンパニー」と称するほど犬に対する姿勢が革新的であり、「犬はグーグルの企業文化に不可欠な要素である」として従業員にペットの健康保険を提供しています。「人づき合いは苦手だが動物は好き」という人は少なくありませんが、人間にとって動物はポジティブな反応をもたらしてくれるとても大きな存在なのですね。
セラピー犬たち
3 犬と暮らせば
私は50代後半から犬を飼い始めましたが当初は病気やケガの連続で、たかが子犬1匹のために振り回される大変な日々となりました。しかしわが家に犬が来てから単調で変化に乏しかった中年夫婦の暮らしがにぎやかになり、犬の話題で夫婦の会話も増えました。私にとって愛犬は一緒に散歩してくれる相手というだけでなく、仕事のグチや妻への不満も(黙って)聴いてくれ、時には慰めてくれます(!)。犬という存在は単なるペットというより大切な家族の一員であり、ある時には生きる支えにもなり、そして何より無条件に愛することのできる人生の同伴者とも言えます。「喜びは大げさに、怒りは短く、哀しみは静かに、楽しさは無邪気に表す」。これらは愛される犬の共通点ですが、人間にも学ぶべき点があるようです。
わが家の愛犬メイ(柴、メス、8歳)