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当院代表佐藤俊彦のコラム ~放射線治療とアブスコパル効果~

放射線治療とアブスコパル効果

宇都宮セントラルクリニック 放射線科医 佐藤俊彦

放射線科医の初期研修をしていた時、シミュレーターのレントゲン写真に赤鉛筆でこの辺に掛けるというようなシミュレーションで、呼吸の動きもあるので4次元画像を2次元画像で照射するという思えばかなり乱暴な放射線治療で、副反応も多く、とても自分の仕事にする気にはなれませんでした。

ところが最近の放射線治療は、脳神経外科医の発明したガンマナイフは定位照射(1回の放射線照射量を最大化し、分割回数を少なくする)、病変と放射線をかけたくない重要臓器を外した照射計画が可能な強度変調療法…と進化するわけですが、それぞれの専用装置が、サイバーナイフであり、トモセラピーなわけです。したがって、日本ではサイバーナイフを脳神経外科医が、トモセラピーを放射線治療医が使うケースが多いです。しかし、肺癌や肝臓癌・膵癌のように動く臓器の照射は、動体追尾機能を有するサイバーナイフの独壇場であり、両者を整備する必要があります。日本では、サイバーナイフとトモセラピーを両方備えた放射線治療センターは2カ所しかなく、当院が3カ所目に当たります。

機器の選択のために米国のセント・メアリーズ病院に行った時に、放射線治療医の先生に「米国では、保険で肺癌の分子標的治療でサイズを小さくし、ダウングレードしたところをサイバーナイフで叩く、これが標準治療になっている」とお聞きし、これだと実感しました。

また、オプジーボを開発した京都大学の本庶先生がノーベル賞を受賞することになりました。彼の講演をお聞きしたいと思い、2015年のワシントンのimmunotherapyの学会に参加しました。立ち見席が出る盛況ぶりの講演で、免疫治療のブレイクスルーだと感じました。

本庶先生は、1992年に“PD-1”を発見するのですが、アポトーシスと関連する分子と考えます。7年の歳月をかけてその仕組みを解明するのですが、このPD-1をブロックすることで免疫機能が高まり、その後小野薬品と研究を進めることになります。しかし、小野薬品には抗体医薬の技術がなかったので、米国のメダレックス(CTLA-4:ヤーボイを研究していた)と業務提携し、彼らの抗体医薬のノウハウを使ってオプジーボを開発します。2013年にヤーボイとオプジーボの併用治験の結果を発表し、一躍脚光を浴びることになったわけです。実用化まで、22年の歳月をかけてのすばらしい新薬となったわけです。

しかも、この薬が開発されてから、MDアンダーソンでは進行大腸癌の手術はしないで、オプジーボで治す方が、生存期間が有意に延長するという発表がされています。

多発転移がある症例では、転移性腫瘍の一部に放射線をhypofractionで大線量を照射することで、そこに免疫反応が起こることがわかっています。インビボ・ワクチンとも言われていますが、放射線をがんに当てることで遺伝子変異が起こり、免疫反応が起きやすくなります。そこで免疫細胞が全身に循環していき、遠隔転移病巣を叩くというアブスコパル効果が起こることがあります。オプジーボを使うとさらにアブスコパル効果が起こりやすくなると言われています。

放射線治療とオプジーボなどのチェックポイント阻害剤を使用することが、今後の進行癌治療のトレンドになってくるように思われます。

最近薬事承認された“イミフィンジ”は、「切除不能な局所進行の非小細胞肺癌における根治的化学放射線療法後(CRT)の維持療法」に保険適応になりました。つまり、放射線治療によって免疫原性が上がっているときに、チェックポイント阻害剤を使って延命効果を得るというものです。

アストラゼネカ研究開発本部長の谷口忠明は、次のように述べています。「同時化学放射線療法(CRT)の登場以降、約20年間にわたり治療の進展が見られなかったステージⅢ 非小細胞肺がん治療において、イミフィンジ®が本邦初の抗PD-L1抗体として承認を取得したことを大変嬉しく思います。イミフィンジ®による治療が、患者さんにより高い治療効果と根治への希望をもたらすことを期待しています」。

免疫の活性化によって治癒する人がでてくるので、CRT後に免疫治療を実施すると生存率が上昇するわけです。

安全にピンポイント照射が可能なサイバーナイフ+チェックポイント阻害剤の組み合わせで、進行癌もあきらめずに治癒できる時代が来ると思われます。