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オプジーボの肺癌への適応拡大

宇都宮セントラルクリニック 放射線科医 佐藤俊彦
 
昨年12月より、オプジーボという免疫チェックポイント阻害剤という薬が、保険収載されました。これにより、進行非小細胞肺癌stage-III/IVの患者さんへの治療オプションが増えたことは朗報といえると思います。
当院でも、これまで自費診療で薬剤を個人輸入して、治療に使っておりましたが、今後は悪性黒色腫・非小細胞肺癌に関しては、最寄りの基幹病院で投与を受けられるようになります。
薬剤費は、100mg/1瓶で73万円です。肺癌患者(70kg)さんでは約200mgの投与になりますので各診療料を含めると約160万円程度の費用です。2週間間隔での投与なので、月額320万円かかるわけです。
国内で、5万人の肺癌患者が対象といわれていますので、月額1600億円、年間で約2兆円の薬剤負担です。
小野薬品の株式が急騰するのも無理はありません。
今後、理論的には、すべてのがんに対して有効であると思われますので、医療保険の破綻も起こしかねない事態です。
それにしても、免疫療法でがんが治るという仮説がこれで実証できたともいえる薬剤です。
今後は、免疫細胞療法との併用のデータも出てくるものと思われます。
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これは、薬剤の使い分けを説明したグラフですが、分子標的薬は急性期には非常にいい効果を発揮します。また、遺伝子異常により、有効な分子標的薬を予測することが可能で、その効果は絶大です。しばらくしてから、免疫治療であるオプジーボは効果を発揮して、長期生存への寄与が認められています。
抗がん剤を使用している患者さんは、やがて抗がん剤が効かなくなるがん細胞が増殖してきます。そのため、より強い抗がん剤を使っていくわけですが、これらの抗がん剤は副作用がかなり強いために、薬の副作用でQOLの低下や生命予後を不良にしてきました。
ここに免疫細胞療法を加えることが正しい考え方であったのですが、劇的に効く人と効かない人がいて、その原因が免疫寛容であると説明されてきました。
この免疫寛容には、二つのメカニズムがあって、Treg細胞(免疫反応を抑制するT細胞)と免疫チェックポイント理論でした。
Tregは、少量の抗がん剤を投与して、Tregを抑制し免疫寛容を壊す目的で使われていましたが、効果が十分ではありませんでした。
オプジーボは、キラーT細胞が持つPD-1抗原に対する抗体医薬で、これをブロックすることで免疫寛容を破壊し、T細胞による肺癌への攻撃を再開させる働きがあります。
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同じように、CTLA-4をブロックするヤーボイとともに免疫反応を活発化し、2剤の併用治療も実施されています。
このようにこれまで、肺癌の治療成績はきわめて不良でしたが、これらの新しい薬により、進行癌でも延命や治癒が期待できる状況になっているわけです。
これを開発した京都大学の本庶先生は、ノーベル賞ものかもしれません。
このように再生医療のひとつである免疫細胞療法に免疫寛容を壊す治療法を組み合わせることにより、進行癌の治療に光が見えてきました。
免疫寛容を壊す方法として、オンコサーミアやトモセラピー(IMRT)などの放射線治療機器は非常に有効です。群馬大学から福島医大放射線科の教授に就任された鈴木先生は、まさに放射線治療と免疫反応の研究では第一人者で、アブスコパル効果を提唱されています。
https://cell-medicine.com/topics/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%99%8C%E5%AD%A6%E4%BC%9A2015%E3%81%A7%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%96%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%91%E3%83%AB%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84/
当院では、検診でstage-Iのがんをみつけて、内視鏡手術で治すのは原則ですが、今後は、stage-III/IVの進行癌の患者様にも、これらの複合的治療で成果を上げていけるものと思います。
現在、トモセラピーは、クリニックC4の青木先生にお願いしていい結果を出しております。
まさに、連携が必要だと思います。
 
東芝メディカルシステムズの売却先が、キャノンに決定されました。約4000億円の入札価格が、約7000億円になり、すごい競り合いだったことがわかります。富士フイルムが有力だったわけですが、さすがにここまでの価値はないと判断したんでしょうね。毎年200億円の利益があっても、回収に35年もかかる計算なので・・・実に賢明な判断だと思います。
一方で、東芝本体に残るのが、重粒子線治療部隊です。
我が国が誇る重粒子線治療器による治療は、4月より保険適応になり、これまで350万円程度かかっていた治療費が150万円になります。
医療機関の採算性はかなり悪くなるわけです。
放射線医学研究所が開発したHIMACは、世界で初めての回転ガントリーと3Dスキャニング方式を採用しています。実は、これらの知財は、東芝製なんです。
つまり、世界をリードする公費由来の知財を東芝が現在も所有しているということです。この重粒子線治療器を作っている会社が、東芝電力システム会社で、ウェスチングハウスで特損をだしているので、どこかに買収されると重粒子線治療器の日本の優位性がなくなる可能性もあるわけです。
重粒子線治療は、有効かというと、先進医療Aから、Bに格下げされたことで、その有用性がそれほど評価されていませんが、これは臨床試験の体制によるもので、やはり個々に見ると手術できない場所や腫瘍への治療方法としては、今後も有用性は評価されるべきであろうと考えます。
米国は、陽子線治療センターしかありません。これはネオンによる重粒子線治療をあきらめたからで、炭素線を採用した日本の独壇場になっています。
しかし、すぐに米国は追いついてくるものと思われます。
いまの東芝メディカルにある技術は、コモディティばかりなので、電力事業部が持つこの知財はまもれてよかったのではないかと思われます。
今月、彼らとの会議も楽しみにしています。
 
中国のメディカルツーリズムの会社を設立してから、約3ヶ月になりますが、急激に中国人のメディカル倶楽部会員様や医療相談件数が増えており、日本の医療インフラがだめになれば、今度は私たち日本人が中国の医療機関にお世話になるようになるのかな?と不安に思うこともあります。
癌研有明病院や国立がんセンターでは、中国人は日本人の診療費の300%をいただいているそうです。
なにか?新たな日中間の火種にもなるような気もしています。
 
もうすぐ、桜の季節ですね。
ぼくが好きな福島の花見山、ぜひ訪ねてみてください。
養蚕農家の副業で始まった花の栽培、いまも阿部さん一家が守り続けています。
近くには、医学生のために献体された白菊会の慰霊碑もあります。
http://www.hanamiyamakoen.jp/




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