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遺伝性乳がんと画像診断の重要性~第4回ピンクリボンセミナーより

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「第4回 ピンクリボンセミナー」が、2017年10月1日(日)午後1時30分より、とちぎ健康の森(宇都宮市)講堂で開催されました。
 このセミナーは、乳がん検診受診啓発活動を幅広く行っているNPO法人ピンクリボンうつのみやが、栃木県及び近県在住の方々に乳がん検診の重要性を伝えるとともに、治療等の情報を提供し役立ててもらうことを趣旨として行っており、第4回目となる今回は、専門分野が異なる3名の医師が最先端の医療情報を交えて乳がんの健診と治療について講演。参加者に乳がんの早期発見、早期治療の大切さを訴えました。

第1部「遺伝性乳癌と画像診断」講師:佐藤俊彦氏

講師:佐藤 俊彦氏
   放射線科医・NPO法人ピンクリボンうつのみや理事長
   宇都宮セントラルクリニック代表
   セントラルメディカル倶楽部顧問医

  • 第2部「標準的でないがんや痛みの治療の最前線」の記事はこちら
  • 第3部「乳がん治療における放射線治療の役割」の記事はこちら

乳腺外来棟と放射線治療センターの必要性

 私が乳腺外来棟を起ち上げたきっかけは、友人が左側の乳房に乳がんが3個同時多発し、治療法について相談を受けたことでした。県内の大学病院などさまざまな先生から「全摘手術以外、治療法はない」と言われても、彼女は全摘手術は避けたいと、本日第2部で講演していただく奥野哲治先生の血管内治療を受けました。

 その後、がんは見事に消え、5年後に右乳房にがんが発見されましたが、これも血管内治療で治まりました。この経緯を見ていて、標準治療は一定の成績が証明された治療ですが、それ以外にも選択肢はあるのではないだろうか。そう考えたのが乳腺外来棟設立のきっかけでした。

 また、最近つくづく思うのは、放射線治療の必要性です。例えば乳がんの患者さまで骨に転移があり、放射線を使わずに化学療法あるいはホルモン療法を継続している。そうすると圧迫骨折から下半身麻痺、車いすの生活になってしまう事例がけっこうあるんですね。乳がんに限らず、もっと早い時期に放射線を使うべきだというケースを時々経験し、放射線治療センターの必要性を感じて、現在、センター設立の準備をしています。

遺伝子検査で乳がんを予防できる?

 遺伝性乳がんについては、皆さんあまりなじみがないと思います。日本人女性の乳がんの生涯発生リスクは約9%、12人に一人くらいの確率です。これが、HBOC(Hereditary Breast and/or Ovarian Cancer syndrome)という遺伝性乳がんの人は約40〜90%ががんになります。自分がHBOCかどうかは、遺伝子の検査をしなければ分かりません。

 ところが遺伝子検査は自費診療なので、なかなか一般の臨床で使いにくいという問題があります。しかし、HBOCかどうかを知ることで、次に出てくるがんを予防することができるんです。リスクが高いことは致し方ないとしても、どういうがんが出てくるのかを予め予想して、画像診断等を組み合わせて、早期に診断を受けることが可能です。

ピンクリボンセミナー 遺伝子検査では、13番染色体のBRCA2、17番染色体のBRCA1という2つの遺伝子を調べます。これは男女ともに持っている遺伝子で、この遺伝子のどちらかに変異があると乳がんや卵巣がんになりやすく、HBOCと診断されます。

 乳がんや膵臓がんを発症している患者さまで、遺伝子に変異が見られる場合は、部位別のがんではなく遺伝子の異常による多発がんということになります。遺伝子を調べなければ、がんの治療法を選べないのではないかということで、今、注目されているわけです。

 HBOCは、女性だけではなく、男性のがんにも関係しています。重要なのは、BRCA1、BRCA2の異常は、子どもに50%の確率で引き継がれるという点です。

 この2つの異常をクリアしておくことは、子どものがんの予防にもつながります。BRCA1と2は、遺伝子の安定化を担う役割を持っています。直感的に考えて、この2つの遺伝子に異常があるということは、体のどこにがんが発症してもおかしくない。なぜ日本人は遺伝子検査をしないのかというのが私の疑問です。

HBCOと診断された場合の対処法は?

 HBOCが疑われる人は、まず40歳以下の乳がんの人、トリプルネガティブ乳がんの人、2個以上の原発性乳がんの人、卵巣がん、男性乳がんの人です。

 さらに、乳がんを発症した人で、血縁者に「50歳以下で乳がん発症」「卵巣がん発症」「2人以上が乳がんまたは膵がん発症」した人がいる場合も、HBOCの高リスク者となります。家系図を作って調べてみることも重要です。

 HBOCと診断された場合の対処法には、

  • 予防切除術
  • 化学予防
  • 検診

 の3つがあります。

 まず予防切除術では、乳房切除術と卵巣摘出術。これはアンジェリーナ・ジョリーの話が有名です。男性では前立腺を予防切除する人もいます。

 次の化学予防は、タモキシフェロンというがんをブロックする薬や、排卵の回数を減らす経口避妊薬等を用いてがんを予防する対策です。

 検診では、マンモグラフィ、MRI、超音波、視触診等があります。
 また、現在、BRCA異常の患者さまの病勢進行や死亡リスクを低減させる「オリパリブ」という経口薬の治験も進められています。この薬が一般化すれば、切除手術をせずにがんが効果的に予防できる時代が来るのではないかと期待しているところです。

乳がんを最も早く発見できるPEMを導入

 欧米ではHBOC遺伝子検査は保険診療となっていますが、日本では適切な遺伝子検査が行われていないため、BRCA保持者に対するさまざまな問題が出て来ています。

 世界の主要ながんセンターの同盟団体NCCNによるガイドラインでは、HBOCの検診方法として30歳以上の人すべての人に「1年に1回の頻度でMRI検査とMMG検査を受ける」ことを推奨しています。
乳がんの検診方法

 HBOCが疑われる場合は、マンモグラフィではなくMRI検査をファーストチョイスとしていただきたいと思います。

 MRIのメリットは、被曝がなくマンモグラフィよりも発見率が高いということです。うつぶせになり、乳房を3Dで撮影するため、撮り漏れがないというメリットもあります。
 ただ、乳がんにはさまざまな病変があり、どの検査方法を使っても一つの検査だけですべてを発見することはできません。複数の検査を組み合わせて診断する必要がありますので、乳腺の専門医に相談してください。

 当院では、乳がんを最も早く発見できるPEM検査を5年間から導入し、これまでは発見しにくかった病変の発見等に役立っています。乳房の切除手術をする前にPEM検査を行うというのは、非常に重要なポイントとなります。

放射線治療の効果を高める酸化ストレス

 最後に、酸化ストレスの話をしたいと思います。

 酸化ストレスとは、活性酸素量から抗酸化力を引いたものです。
 活性酸素は遺伝子異常の原因となる物質です。がんの発生や再発予防には、酸化ストレスを減少させると良いとされています。しかし、がん細胞を死滅させるためには、局所的に酸化ストレスを増加させる必要があります。

 放射線でも酸化ストレスを高めてがん細胞を抑えることができますが、高濃度ビタミンCなどの薬や漢方薬などで酸化ストレスを高めて放射線治療の効果を高めることも可能です。

 現在、県内ではBRCAの遺伝子検査は、県立がんセンターで菅野先生が行っています。これからも、セミナーなどの機会を通して皆さんと知識をシェアしながら、がんの予防や治療につなげていきたいと思います。

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