一般的に「がんになると治療費が高い」というイメージがあるかもしれません。
がん保険や生命保険に入っていたならば、どこまで保険がおりるのか確認しましょう。
特に以前は、「がんを経験すると保険には入れない」という認識があったものの、最近ではがんの治療に対する保険が増えています。
もちろん、がん経験者でも保険に入ることができます。それは乳がんも同様です。
ただし、がん経験者が入れる保険の詳細や保証内容については各保険会社によりますので、よくご検討ください。
他にも乳がんの治療や検診などにかかる費用はいくらぐらいなのか、なかなか知られていない「乳がんにまつわる費用」についてご紹介します。
乳がん治療にかかるお金
乳がん治療で社会保険や国民健康保険が適用されるものは次の通りです。
金額は目安で医療機関によって異なります。
※カッコ内は3割負担の金額。
いずれも保険診療で行われるものについては、月の限度額(収入状況などにより異なります)が決まっています。
最初に手続きをしておけば限度額を超えた分は支払う必要はありません(手術に伴う入院では最初にその手続きをする病院が多いと思います)。
- 外科手術
- 乳房再建手術
- 放射線療法
- ホルモン療法
- 抗がん剤治療
- 分子標的薬治療
外科手術(全摘術・温存術とも)
がんの周囲を含めて部分的に切除して乳房の形を残す「乳房温存手術」と、がんの広がりが大きくて乳房を部分的に残すことが困難な場合に、乳房全体を取り除く「乳房切除術」があります。
乳房切除術では大胸筋と小胸筋を残し、すべての乳房を切除します。
わきのリンパ節に対しては、転移の状況によって、全て切除する「リンパ節郭清」と、手術前にリンパ節転移が疑われない場合に行われる「センチネルリンパ節生検」があります。
費用:3~10日間の入院で、約60~70万円(20万円)
乳房再建手術
乳房再建に健康保険が適用されるのは自家組織による乳房再建のみでしたが、2013年7月から、一部のティッシュ・エキスパンダー(皮膚拡張器)とブレスト・インプラント(ラウンド型)が、2014年1月からはインプラント(アナトミカル型)が、乳がんで乳房切除術(全摘術)を行った乳房再建に限り、健康保険が適用されるようになりました。
費用:自家組織による再建180万円(30~60万円)
インプラントによる再建はティッシュ・エキスパンダー(皮膚拡張器)の挿入
60万円(10万~20万円)+インプラントの挿入90万円(30万円)
放射線療法
乳房温存手術で残した乳房に再発することを予防するための温存乳房照射、全摘していた場合でもリンパ節転移が多いなどリスクが高い場合に行われる胸壁照射があります。
費用:25回で約30万円(10万円)
このほかに再発時の治療として、痛みなどの症状改善や再発腫瘍への照射もあります。部位や回数によって費用は異なってきます。
ホルモン療法
女性ホルモン反応性の乳がんの場合、エストロゲンは乳がん再発のリスク因子となります。
閉経前でも閉経後でも使用できる抗エストロゲン薬、閉経後に使用できるアロマターゼ阻害剤がホルモン療法で使用される主な薬剤です。
費用:5年間の投与で約85~100万円(約30万円)
ホルモン療法(LH-RHアゴニスト製剤)
卵巣からエストロゲンが分泌されるのを阻害する薬で、卵巣が機能している閉経前の人に処方されます。
費用:2年間の投与で約130万円(約40万円)
抗がん剤治療
FEC
- フルオロウラシル
- エピルビシン
- シクロホスファミド
の3つの抗がん剤を組み合わせて行う治療です。
費用:4回(3週間に1回)の投与で53万円(16万円)
TC
- ドセタキセル
- シクロホスファミド
の2つの抗がん剤を組み合わせて行う療法です。
費用:4回(3週間に1回)の投与で47万円(14万円)
ドセタキセル
費用:4回(3週間に1回)の投与で47万円(14万円)
パクリタキセル
費用:12回(1週間に1回)の投与で68万円(20万円)
分子標的治療
ハーセプチンを投与します。投与量は患者さんの体重によって異なります。
費用:体重50kgの患者さんの場合 18回(3週間に1回)の投与で216万円(65万円)
いざというとき慌てないための医療保険
乳がん治療というと手術や放射線治療などが思い浮かびますが、医療そのものにかかるお金のほか、交通費、車で通院する場合はガソリン代、駐車場代などがかかります。
仕事をしている人は有給休暇が適用されることもあるでしょうが、そうでない場合は休んだ分、収入が減ることになります。
子育て中の人は託児所やベビーシッターを、介護をしている場合はホームヘルパーにサポートをお願いするための費用も必要でしょう。
治療にかかるお金以外にもさまざまな出費があることが経済的、精神的負担になっては、しっかりと治療を受けることができません。
いざというとき困らないためにも、医療保険に入っておくのは、ひとつの方法ではあります。
生命保険は中世ヨーロッパの都市で組織された同業者組合「ギルド」が始めたと
いわれています。
当初は経営が困難に陥ったときの資金援助、病気やケガで働けなくなったときや、死亡してしまった際に遺族への生活援助などが行われていました。
やがて病気やケガの治療にしっかり備える、さまざまなタイプの医療保険が登場、仕事や生活の心配をせず、安心して治療に専念できるようになったのです。
乳がんで亡くなる女性は2013年には1万3000人を超え、35年前に比べて3倍以上、国立がん研究センター「がん情報サービス」によると、2016年には9万人の日本人女性が乳がんにかかると予測されました。
現在では、乳房や子宮・卵巣にかかわる女性特有の疾病を保障する女性向けの医療保険が、多くの保険会社によって販売されています。
乳がんになった場合「手術」「放射線治療」「抗がん剤療法」が行われます。
ステージや治療内容によって金額は異なってきますが、5年の治療で最低150万円以上かかると考えられます。
乳がんになったのに保険が下りないケースとは
「保険に入っているから、と安心していたのに入院給付金しか受けられなかった。改めて契約書を読み返したら上皮内がんの場合は支払いできない、と記載されていた」という経験をした人がいます。
がん保険であっても上皮内がん(上皮内新生物)は保障の対象外、もしくは保障が小さいものがあるので要注意です。
上皮内がんとは、がんが上皮内に留まっているごく初期のがんをいいます。
適切な治療を行えば、再発や転移を防ぐことができますが、それでも手術や薬物療法は必要になるので、保険でカバーできるに越したことはありません。
「がん保険に入ったから大丈夫」と安心せず、もう一度加入している保険の契約書を確認してみましょう。
不明な点、疑問があれば会社に問い合わせて詳しく説明を受けてください。
乳がん検診にかかる費用とクーポン
厚生労働省の「新たなステージに入ったがん検診の総合支援事業」の実施要綱に基づき、がんの早期発見・早期治療とがん検診の大切さを伝えることを目的に、一定の年齢の人に対して乳がん検診が無料、または割引になるクーポン券が発行されています。
※各自治体によってクーポンで受けられる検診の項目には違いがあり、マンモグラフィまたはエコーだけ、両方受けられる、どちらか選べる自治体のほか、追加料金を支払うことで両方受けられる自治体があります。
今、手元にクーポンがある人は内容と期限を確認してください。
本来、検診は「自覚症状のない人」が受けるものであり、その費用は全額自己負担です。マンモグラフィとエコーを自己負担で受けると1~2万円かかります。
クーポンは、自費で自分が支払わなくてはならない分を、市町村などの自治体が代わって支払ってくれているので無料~数千円という安価な価格で受けられるのです。是非有効に利用しましょう。
乳がん検診のクーポン券の使い方は、次のとおりです(厚生労働省より)
直接行く
お住まいの地域で受けられる検診機関に、「がん検診無料クーポン券」を持って直接、検診に行く場合。
- 病院で受付をすませ、時間が来たら検診を受ける(検診時間は10~20分です)。
- 約〇週間後、検診の結果をお知らせします。
予約する
お住まいの地域で受けられる検診機関に予約する場合。
- 予約した日時に検診を受ける(検診時間は10~20分です)。
- 約〇週間後、検診の結果をお知らせします。
確認する
お住まいの地域以外で受けられる検診機関をご希望の場合。
- まず、あなたがお住まいの市区町村の××課にお問い合わせください。
企業の雇用面~大切なスタッフを失わないために
労働安全衛生法で「事業者は労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない」と決められています。
健康診断の実施は社員の数など会社の規模で決まるものではなく、雇用を行えば健康診断を受けさせる義務が発生します。
「うちの会社は定期検診を実施しているので大丈夫」と考える会社や事業主がほとんどですが、女性が受けるべき検査を行っていないケースは意外に多いものです。
一般的な健康診断の項目例は次の通りです。
- 既往歴及び業務歴の調査
自覚症状及び他覚症状の有無の検査
身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
胸部エックス線検査及び喀痰検査
血圧の測定
貧血検査
肝機能検査(GOT、GPT及びγ-GTP-の検査)
血中脂質検査(LDL コレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド)
血糖検査
尿検査
心電図検査
① ~⑪に乳がん、子宮がんの検査は入っていません。
乳がんは、主に30代の後半から発症率が上昇し、ピークを迎えるのは40代後半、次いで、50代、60代と続きます。
女性の社会進出が進み、たくさんの女性が企業の中で頼もしい戦力となっている今、スタッフが乳がんのために退職するのは本人ばかりでなく会社にとっても大きな損失ではないでしょうか。
大切なスタッフが健康で働くためにも会社の定期検診に乳がんや子宮がんの項目は必ず取り入れるべきです。
デンスブレストの人のためにマンモグラフィだけでなく超音波検査を併用できれば初期の乳がんの発見率も高くなります。
※デンスブレスト…高濃度乳腺。マンモグラフィで撮影した画像全体が白く写り、マンモグラフィ検査だけでは乳がんが見つかりにくい。
なかには「忙しい」「特に気になる症状はないから」といった理由で会社の健康診断を受けない人がいますが、自分の健康状態を把握しておくのはとても大切なことです。
通常、自費で人間ドッグなどにかかると7万円~10万円の費用がかかります。
ある意味会社からのギフトだと考えてみてください。
定期検診を受けて乳がんばかりでなく他の疾患がないか、しっかりチエックしましょう。