検診

マンモグラフィの有効性と不利益とは?

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マンモグラフィのガイドライン

乳がんは早期発見によって、90パーセント以上が治癒できると言われています。
その早期発見に大きな効果をもたらしているのが、「乳がん検診」です。
日本では乳がん患者が増加し続けているにも関わらず、海外の先進国と比較しても、乳がん検診の受診率は低い国であるといっていいでしょう。
乳がん検診には主に「視触診」「超音波(エコー)」「MRI」そして「マンモグラフィ」があります。
特に乳がんの初期は自覚症状がなく、視触診のみでは見つけづらいため、早期乳がんの発見には超音波(エコー)とマンモグラフィによる画像診断が有効です。
2000年まで日本の乳がん検診は視触診のみでしたが、厚生労働省がマンモグラフィ導入の必要性を訴え、さらに次のようなガイドラインを発表しています。

【乳がん検診項目に関する提言】(厚生労働省発表)
1)検診方法
・マンモグラフィによる検診を原則とする。
・視触診については必須ではないが、実施に当たってはマンモグラフィと併用して実施することとする。
・超音波検査については、高濃度乳腺における感度およびがん発見率において、その有効性が示されており、対策型検診として導入される可能性があり、死亡率減少効果や検診の実施体制等について、引き続き検証していく必要がある。
2)検診対象者年齢
・40歳以上とする。
3)検診間隔
・2年に1度とする。

現在では乳がんの早期発見には、マンモグラフィと超音波検査の併用が有効であるというデータもあり、日本でも乳がん検診でふたつの検査を行う病院も多くなってきています。
そんななか、超音波検査やMRIは他の検査で受けたことがあったり、受診経験がなくても名前を知っている方も多いでしょう。
しかしマンモグラフィという名前は、なかなか聞き慣れない言葉かと思います。それは、マンモグラフィが乳がん検診のみで行われる検査だからです。
今回はマンモグラフィとは何かについてご説明します。

マンモグラフィとは「乳房のX線撮影」

マンモグラフィとは、ひとことで言えば「乳房のX線撮影」です。
視触診だけの検診と比較し、マンモグラフィも併用することによって、乳がんの発見率は約3倍にまで増加したと言われています。
特に乳がんのステージのうち0期とⅠ期、つまり早期乳がんで発見される確率が高くなっているのです。

まずはマンモグラフィの仕組みからご説明しましょう。
マンモグラフィは、腫瘤(シコリ)や小さな石灰化を手がかりに、早期のがんや非浸潤がんを検出する検査です。
石灰化とは、がん乳腺内にできるカルシウムの粒のことをいいます。乳がん細胞が増殖する時にその一部が死滅してカルシウムが付着したり、がん細胞の分泌物にカルシウムが沈着することで石灰化が起こります。
石灰化が乳頭に向かって線状や扇状に並んでいる、あるいは乳腺の1箇所(親指でかくれる程度の範囲)に石灰化が集中していると、乳がんの疑いがあります。
一方、石灰化が写っているからといって、必ずしも乳がんの可能性があるとは限りません。石灰化は、加齢、怪我、手術後、良性乳腺疾患などでも認められます。
また、乳腺が発達し、乳腺濃度が高い女性は、画像で全体が白っぽくなり、シコリが認識しづらくなることもあります。
もともと乳腺の密度が高い人もいますし、授乳中も乳腺濃度が高くなるため、そのようなケースでは、マンモグラフィのみだと早期がんを見落としてしまう恐れもあるため、超音波検査との併用が望ましいでしょう。

マンモグラフィでシコリや石灰化を発見する

マンモグラフィとは、乳房を2枚の板(圧迫板)に挟んで圧迫し、乳房のX線撮影を行います。
X線撮影では乳腺は白く、脂肪は黒く写ります。乳房にシコリがある場合は白っぽく写り、乳がんの石灰化も白い点で写ります。
マンモグラフィによって、このシコリや石灰化を画像で発見できるのです。しかし乳腺濃度が高い人では乳腺が白く濃く写るため、白く写るシコリや石灰化が見つけにくくなるのです。

ではマンモグラフィはどのように撮影するのでしょうか。乳房全体を写しだせるよう、上半身は裸で、片方の乳房を少し斜めの縦の角度で1枚、上下に挟んだ水平の角度で1枚撮影します。もう一方の乳房でも同じ撮影を行い、計4枚の写真を撮ることになります。
異常がありそうな場合は、その箇所を拡大して撮影することもあります。
撮影技師による写真の確認まで含め、おおよそ15分ほどの時間で全て終わります。

マンモグラフィの撮影で頭に入れておかなくてはならないのは、少し痛みを伴う検査であるということです。
撮影技師が乳房を挟む圧迫板の位置を調整しながら、できるだけ乳房を引き伸ばして撮影します。これは、X線撮影は少量であっても放射線が出るため、できるだけ少ない放射線量でシコリの影や石灰化を写すための方法です。
乳房を圧迫することにより、受診者は痛みを感じることもありますが、緊張せずリラックスした状態で受けると、痛みも軽減されるでしょう。

検査の日程を選べる場合は、月経後の乳房が柔らかい時に受けるとよいかと思います。
月経前は乳房が張るため、圧迫されると痛みをより強く感じてしまいます。
一方で、乳房が小さいと検査できない(十分に引き伸ばせるほどの大きさがない)と心配する方も中にはいますが、マンモグラフィは男性も行う検査であり、乳房の大小は検査に全く影響がありません。

マンモグラフィの画像検査の結果は……

がん治療において、画像診断で良性か悪性かを最終判断することはできず、画像を見て「両性っぽい」もしくは「悪性っぽい」という判定を行うのみです。
そのため、マンモグラフィの診断では画像により「乳がん(悪性)である確率」を5段階に分けて判定します。これは「カテゴリー診断」と呼びます。
現在は、国際的な診断基準として知られる「BI-RADS」(バイラッズ)を用いることが推奨されています。BI-RADSの診断基準は以下のとおりです。

カテゴリー 乳がんの可能性(悪性頻度) 診療方針
BI-RADS 1 所見なし(悪性頻度 0) 検診を続ける
BI-RADS 2 異常所見なし(悪性頻度 0) 検診を続ける
BI-RADS 3 おそらく良性(悪性頻度 2%以下) 精密検査
BI-RADS 4 悪性の疑いあり(悪性頻度 2%超~95%未満) 精密検査
BI-RADS 5 おそらく悪性(悪性頻度 95%以上) 精密検査

BI-RADSで「カテゴリー3」と判定された場合は、国際的に「はじめ6カ月ごとに2回、その後1年ごとに1~2回の画像による経過観察を、合計2年間から3年間行うこと」と決められています。
日本では通常検診で経過観察は行わないため、初回は精密検査として医療機関を受診し、その後の経過観察やさらなる精密検査についてどうするか相談するというスタイルになります。
「カテゴリー3」で経過観察を行っていると、乳がんである可能性は極めて低いと言えません。
ただし、100パーセント良性であるとも言えません。しっかりと再検査を受けてください。
マンモグラフィによる検査の課題
ここまでマンモグラフィによる検査の仕組みを説明してきましたが、そのマンモグラフィにも課題がないわけではありません。

・マンモグラフィによる放射線に危険性はない
・マンモグラフィ検査は40歳代以上から
・マンモグラフィによる不利益

マンモグラフィによる放射線に危険性はない

マンモグラフィは、X線撮影です。そこで少量ではありますが放射線を浴びる(被ばく)ことになります。
その放射線量はおよそ0.1~0.2mSv(ミリシーベルト)です。
環境省の発表によれば、飛行機で東京とニューヨークを1往復した際、機内で受ける放射線量が約0.2mSvということで、マンモグラフィの放射線被ばく量とほぼ変わりません。また地球上で生活している場合に受ける自然放射線量は年間で約2.4mSvと言われています。
この数字を考えるとマンモグラフィ撮影による被爆の危険性はほとんど無いと言えます。
それでも妊娠中の人や、妊娠している可能性がある人は、原則としてマンモグラフィによる検査を受けることができません。
該当する場合は乳がん検診の際、必ず事前に申し出てください。

マンモグラフィ検査は40歳代以上から

先に述べたとおり厚生労働省が示したガイドラインでは、マンモグラフィによる画像検査の対象は40歳代以上となっています。
これは、一般的にマンモグラフィは50歳以上の女性であれば有効ですが、40歳代やそれ以下の若年者の検査には限界があることが指摘されているからです。
マンモグラフィで撮影すると、若年者は乳腺が発達しているので乳房が全体的に白く見えます。対して高齢者は、乳腺が萎縮して脂肪に置き換わるため、乳房が黒っぽく写ります。
マンモグラフィでは、乳がんは白っぽく写るというのはご説明したとおりです。そこで乳房が黒っぽく写る高齢者は、白黒のコントラストがついて、白っぽく写る乳がんは発見しやすい。
しかし若年層は乳房全体が白く見えてしまうため、マンモグラフィで乳がんを見分けることが難しくなる傾向があります。

こうしたマンモグラフィの特徴から、現在ではマンモグラフィと超音波検査の併用を実施または推奨している医療機関も増えています。
超音波検査にはマンモグラフィによる検査のような、痛みを伴うことも放射線被ばくもありませんが、各々に得意分野と不得意な分野があります。
その特徴は次のとおりです。こちらも把握しておいたほうがよいでしょう。

<マンモグラフィの特徴>
得意:早期がん、非浸潤がん、石灰化、脂肪が多い乳腺組織内の腫瘤(シコリ)
不得意:豊富な乳腺の中にある腫瘤

<超音波検査の特徴>
得意:豊富な乳腺の中にある腫瘤
不得意:石灰化や脂肪の中の小さい腫瘤など

マンモグラフィによる不利益

アメリカでは2009年に米国予防医学専門委員会(USPSTF)が、マンモグラフィ検診の推奨グレードを「推奨」から「一律には推奨しない」へと改訂しました。
これは「40歳代でマンモグラフィによる乳がん検診を行っても、がん発見による利益より不利益のほうが大きい」という理由からです。
その不利益とは、主に次のようなものが挙げられています。

・経済的な面:乳がん検診、精密検査によって患者の医療費の負担が増える
・精神的な面:検査を受けるために不安となり、眠れない、食欲の減退、仕事ができなくなるなどの心理的反応が起きる。
・身体的な面:検査は痛みを伴うとともに、放射線被ばくがあり、放射線誘発性乳がんリスクが生まれる。

一方で、超音波検査のみによる有効性、つまり超音波検査によってどれだけ乳がんが早期に発見され、乳がんによる死亡率を下げるかという効果は、まだ確証が得られていないのが現状です。
マンモグラフィはすでに、乳がんによる死亡率を下げることが確かめられている検査です。
この推奨グレードの改訂に対しては、アメリカ国内でも異論があり、日本国内でも検証が行われています。
厚生労働省は2007年より、超音波検査を併用する検診と、マンモグラフィのみによる検診の比較試験(J-START)を実施しており、今後も乳がん検診についてはさらなる研究が必要とされることは間違いありません。

現状では、マンモグラフィによる検査は40歳代以上には利益が大きいと考えられ、現在でも40歳代からマンモグラフィによる検査は継続されています。
乳がんの早期発見と治癒を目指すためにも、ぜひマンモグラフィの有効性と不利益について、正しい知識を持って検査に臨んでください。

最後に、あくまでマンモグラフィ推奨が40歳以上であったり2年に1度というのは、集団検診(市の検診など)の場合の推奨です。個人で受けるドックなどの検診の場合はこの限りではありません。自分の乳腺濃度を把握して、自分にとって有益な方法で検査を継続しましょう。

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