乳がんのセルフチェックをした結果、しこりに触れ、ドキッとして乳腺外科を訪れる人は多いでしょう。
乳腺外科を受診すると
- しこりに気付いたのはいつ頃か
- 気付いてから大きさに変化があったか
- 月経の周期で大きさに変化はないか
- 痛みがあるか
などの質問をされます。
月経の周期によってしこりの大きさや硬さが変わる場合は、乳がんではない可能性が高いのです。
しこりの原因①:乳腺症とは?
乳房に張りや痛みの症状があり、乳腺外科を受診したところ「乳腺症」との診断を受け、一般的には聞きなれない乳腺症という言葉を初めて耳にする人も少なくないと思います。
乳腺症は、乳腺の良性疾患の総称です。
症状としては、乳房が張ったり、痛かったり、乳房全体がゴツゴツとしこりのように感じられたりします。
乳腺症に起因するしこりは、片側、あるいは両側の乳房にふぞろいな大きさで、境界不明瞭な平らで硬いしこりとして触れることが多く、月経前に大きくなり、月経後に小さくなります。
しこりは何もしなくても痛むか、押さえると痛むことが多く、この痛みも月経周期と連動します。
また、乳腺症では乳頭から異常な分泌物が出ることがありますが、サラッとした水のような分泌物や、母乳の様な分泌物であれば問題ないケースがほとんどです。
血液の混じった分泌物の場合は、良性の疾患の一種である乳管過形成(にゅうかんかけいせい)や乳頭腫(にゅうとうしゅ)である可能性が高いのですが、乳がんである可能性も否定できませんので、乳腺外来を受診しましょう。
乳腺症は、主に卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンが関わっていますので、閉経後に卵巣機能が低下すると、症状は自然に消失することが多いです。
ただし、閉経後でもホルモンバランスの変動で症状が出ることもあります。
このような月経周期と連動するしこりや痛みはあまり心配する必要はありませんが、月経周期に関係のないしこりに気づいたら乳腺外科へご相談ください。
しこりの原因②:乳腺炎とは?
乳腺症の他に、乳房にしこりができる原因として「乳腺炎」が挙げられます。
乳腺炎とは、母乳の滞りや、細菌感染によって起こる乳房の炎症で、赤い腫れ、痛みや膿、しこりなどの症状が見られます。場合によっては高熱を伴うこともあります。
乳腺炎には、授乳期に母乳がたまり炎症を起こす「うっ滞性乳腺炎」や、乳頭から細菌が侵入して起こる「化膿性乳腺炎」などがあります。
また、授乳期以外でも、乳房の広い範囲に乳腺炎が起こるケースや、乳輪の下に膿がたまる「乳輪下膿瘍」という乳腺炎が起こることもあります。
これらの乳腺炎は、乳がんとは直接関係はありません。
ただし、痛みがないのに乳房が腫れる場合は、炎症性乳がん(※)という、炎症症状が出る乳がんである可能性がありますので、このような場合には乳腺外来を受診してください。
炎症性乳がん
しこりは認められず、皮膚が乳腺炎のように赤く腫れることを特徴とする乳がんです。
炎症性乳がんの発生頻度は全乳がんの約0.5~2%程度で比較的まれな病態です。
授乳期でないにもかかわらず乳房に発赤を認めたときには、「きっと乳腺炎だから大丈夫」と自己判断せず、炎症性乳がんの可能性がないかどうかを検査することをおすすめします。
しこりの原因③:乳腺線維腺腫とは?
乳腺線維腺腫とは乳房の良性腫瘍です。しこりに痛みはなく、コロコロとしていて、よく動きます。
マンモグラフィ検査や超音波検査などの画像検査や、針生検の結果、線維腺腫と診断された場合、特別な治療は必要ありません。
もちろん、乳がん発症とも関係性はありません。
しこりが急速に大きくなる場合は,局所麻酔下で切除することもありますが、切除が必要なケースはそれほど多くはありせん。
また、閉経後にはしぼんでしまうことが多いです。
しこりの原因④:葉状腫瘍とは?
触診所見や画像診断の所見は線維腺腫に似ているのですが、2~3ヶ月単位で比較的急速に大きくなることが多いのが特徴です。
ほとんどは良性ですが、なかには良性と悪性の中間のものや、転移を起こす可能性がやや高い悪性のものもあり、診断は病理組織検査に基づきます。
針生検だけでは乳腺線維腺腫と区別がつかないこともあるので、葉状腫瘍が疑われる場合は、より多くの組織を採取するために吸引式組織生検という組織検査を行ったり、摘出して診断することもあります。
いずれにしても、治療の原則は外科手術による腫瘍の完全摘出となります。
ただし、葉状腫瘍は腫瘍のみをくり抜いて摘出するだけでは周囲に再発を起こしやすいので、腫瘍より少し大きめの範囲を摘出します。
乳房全体を占めるほど大きな場合は、乳房切除術が必要になりますが、そのような症例は多くありません。
乳がんと違って放射線治療、ホルモン療法は無効であり、切除が基本となります。
切除直後は乳房の変形が生じる場合がありますが、腫瘍によって押し寄せられていた乳腺が次第に元どおりになることが多いようです。
乳がんのしこりと、乳がんではないしこり
乳がんのしこりと、乳がんではない良性のしこりは、その特徴が異なります。
良性のしこり
比較的、弾力性があり、コロコロと動く傾向にある。
乳がんのしこり
ゴリッとしていて、かなり硬い傾向にある。
周囲の組織に癒着するため、あまり動かない。
脇の下のリンパ節にがんが転移した場合は、乳房にシコリがなくても、脇の下にシコリが見つかる場合もありますのでご注意ください。
また、見逃して欲しくない、乳がんの可能性を示すサインは、しこりだけではありません。
皮膚のへこみ、またはキメの変化
乳房の皮膚にえくぼ(へこみ、ひきつれ)ができたり、ガサガサした硬い部分ができたり、オレンジの皮のようになったりしている。
乳首の引っ込み
乳首が陥没する、引きつれがある、向きが変わる、左右の乳首の高さが異なる。
乳首からの分泌物
血液が混じったような分泌物が片方の乳首から出てくる(他の要因でも乳頭から分泌物が出るケースはあります)。
腫れや赤み
乳房が赤っぽくなって浮腫んだように腫れている、熱っぽく感じる。
乳頭、乳輪のただれ
乳頭や乳輪部に、湿疹やただれができている、かさぶたとただれを繰り返す。
胸にしこりがあったら医療機関へ
乳がん以外でも、さまざまな原因でしこりの症状が出ることがありますが、セルフチェックだけではしこりが良性か悪性かの区別をすることは困難です。
乳がんかどうかの判断は、専門の医療機関で受けるようにしましょう。
胸の何らかの異変を感じた場合は、すぐに乳腺外来を受診することをおすすめします。