乳がんは女性に一番多いがんで、1年間の罹患数(りかんすう=新たに乳がんにかかった人の数)は89,400人、死亡者数は13,800人(国立がん研究センター「2015年のがん統計予測」より)と増加の一途をたどっています。
大切な命を守るためにも「早期検査」「早期発見」「早期治療」の三大アーリーが重要とされていますが、多くの人が感じるのが「検診や検査を受けて“要精査”という結果が出たらどうしよう」という不安です。
もしかしたら乳がんかもしれない!
乳がんになったとしたら、
文字通り目の前が真っ暗になり、家庭は? 仕事は? 私は一体どうなるのだろう? と心配で心が押しつぶされそうになるのは無理からぬ話です。
しかし「要精査」という結果をいたずらに怖がる必要はありません。
まずは乳がん検診を受けてください!
40歳以上の女性のために、市区町村の検診が2年に一度実施されています。
乳がん検診の費用は市区町村によって異なりますが、無料~3000円くらいです。
40歳未満の人は、自身や配偶者が勤務している企業の定期検診や人間ドッグで乳がん検診を受けられる場合があります。
※企業により異なりますのでご確認ください。
40歳未満の女性は、乳がん検診は法定検診ではないため、全額自己負担が基本です。
医療機関によって異なりますが、マンモグラフィ検査と超音波検査の場合、それぞれ5,000円前後が多く、両方で10,000円前後くらいでしょう。
※事前に問い合わせておくことをお薦めします。
「乳房にシコリがある、分泌物が出る」
このような自覚症状がある場合は、検診ではなく病院を受診しましょう。
乳がんは女性の疾患なので婦人科、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
この場合は婦人科ではなく乳腺科や乳腺外来がある病院、乳腺専門のクリニックにかかってください。
「要精査」=「乳がん」ではありません!
- マンモグラフィ検診の結果
- カテゴリー1…異常なし
- カテゴリー2…良性病変(のう胞、線維腺腫など)のみ
- カテゴリー3…がんの疑いを否定できず(がんの可能性は5%程度)
- カテゴリー4…がんの疑いあり(がんの可能性は50%程度)
- カテゴリー5…マンモグラフィ上はがんの確率が高い(95%以上の確率でがん)
検査の結果がカテゴリー1または2の場合、異常無しとされます。
検診で「要精査」(精密検査が必要)と診断されるのはカテゴリー3、4、5に当てはまるケースで、カテゴリー3以上の場合は病院を受診して精密検査としてマンモグラフィや超音波検査、もしくは生検(「針生検」、「マンモトーム生検」、「外科的生検」)などを行います。
カテゴリー3で「要精査」といわれて精密検査を受けた人のうち8割以上に「乳がんではなかった」という結果が出ています。
カテゴリー4と判定され精密検査を受けた人も5割弱は良性で、乳がんではありませんでした。
検診を受けた9割弱は「要精査」であっても乳がんではないことがわかります。
「要精査」という検査結果を受け取ったなら、このブログの記事と三大アーリーを思い出してください。「要精査」だからといって必ずしも乳がんではないこと、乳がんの場合は早期の診断が大切である、ということです。
不安を抱えたまま過ごすのではなく早めに病院を受診しましょう。
乳がん検診受診者約203万人のうち、再検査が必要と診断された人は17万人強、割合にすると8.7%の人が引っかかる検査です。
この8.7%の要精検者のうち、実際に乳がんが発見されたのは6477人。
検査に引っかかった人の中で乳がんが発見されたのは3.8%でした。
これらのことから、再検査を受けに来た100人のうち、乳がんが発見されるのは3~4人という計算になります。
もし残り97%の人が要精査=乳がんだと思い込んでしまったらどうなるでしょう?
絶望して何も手につかなくなる、会社を辞めてしまう、生きる気力を失ってしまう。
それでは検診の意味がなくなってしまいます。
精密検査の結果が乳がんではなかったなら、いつまでも取り越し苦労をすることはありませんし、もし乳がんという結果が出た場合は、適正な治療法の選択、家族や職場の協力を得ることに意識を向けていくことが賢明です。
乳がん検診に引っかかりやすい体質とは?
「なぜ乳がん検診の的中率(要精査といわれた人のうち、乳がんである人の率)は低いの?」という疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
乳がん検診は、がんかもしれないものを引っかけて精密検査にまわすためのものなので、良性のしこりがあったり、乳がんではないのに必ず引っかかってしまう石灰化がマンモグラフィに写る人の場合は毎年検診で要精査にされてしまいやすくなります。
石灰化とは?
「石灰化」とは乳腺の中にカルシウムが沈着したものをいいます。
良性の石灰化の場合、母乳が通る管(乳管)の周辺や母乳をつくる腺葉の分泌液にできた沈殿物によって起こります。
一方、乳がんが原因の石灰化は、壊死したがん細胞にカルシウムが付着したもので、石灰化の形や大きさ、分布の状態などから、良性なのか、がんに伴う石灰化なのかを判断します。
もし「要精査」と言われたら、どんな検査を受けるの?
「要精査」といわれたとき慌てないために、どのような検査の流れになるのか知っておきましょう。
- マンモグラフィやエコーの再検査。
- 結果に応じて組織生検または細胞の検査が行われます。
※生検…シコリの細胞や組織の一部、もしくは全体を取り出して顕微鏡で調べ、がんかどうかの診断を行う。
細胞診
シコリの部分に細い注射針(0.7ミリ程度)を刺して細胞を採取、顕微鏡でがんかどうか調べる方法です。
痛みは採血や注射と同じ程度です。
乳頭からの分泌物があるときは分泌物を、乳頭にただれ(びらん)がある場合は、その個所をガラスの板などでこすって採取します。
組織診(針生検)
細胞診で判断がつかない場合、細胞診では細胞が採取しにくいとき、悪性の可能性が高いときに行います。
局所麻酔をしてからボールペンの芯くらいの針をシコリに刺し、糸クズくらいの組織を2センチ程度取ります。
組織診は細胞診よりも情報量が多く、診断もより確実です。
※診断がつく確率が9割以上と高いため、最近では組織診を優先させる傾向があります。
組織診を行うことで手術前にがんの性質や性格をある程度把握できるため、
- 今後の治療計画が立てやすい
- 細胞診で診断がつかず、2度検査する
という受診者への負担を減らすというメリットも大きいといえるでしょう。
摘出生検
乳房の薄い箇所、深いところは組織診では難しいケースがあります。また、組織診でもはっきり診断がつかない場合もあります。
この場合、局所麻酔をして、シコリそのものを取り出して検査することを「摘出生検」といいます。
摘出されたものががん細胞だった場合は、追加でシコリの周りとリンパ節を取る手術が必要になります。
乳がん検査にも得意・不得意がある
乳がんの検査では次のような機器が使用されます。
- マンモグラフィ
- トモシンセンス(3Dマンモグラフィ)
- 超音波(エコー)
- MRI、造影CT、PET-CT
- PEM(乳房専用PET検査装置)
- ABVS(乳房自動超音波装置)
様々な検査機器により乳がんの早期発見、早期治療は日々進歩していますが、それぞれに得意、不得意があります。
どの検査が自分に合うのか、それぞれの検査のメリットとデメリットは?
安心して検査を受けるため、あらかじめ医師に相談してみてもよいでしょう。
乳がん検査:マンモグラフィ
デンスブレストをご存じでしょうか?
高濃度乳房とも言い、マンモグラフィに白く写るのが特徴です。
米国人女性のデンスブレストの割が約40%であるのに比べて、日本人女性のデンスブレストの割合は70~80%にものぼるといわれています。
マンモグフィ撮影では乳腺もがんも白く写ります。
乳腺が白く濃く写るデンスブレストでは、雪の上に落ちた真珠を探すようなもので、判別が困難になります。
マンモグラフィ撮影を受けた際には自分がデンスブレストかどうか医師に尋ねるようにしましょう。
もしデンスブレストである場合は、超音波検査も併せて受けてください。
「マンモグラフィは痛い」という話を耳にすることがありますが、生理前や妊娠の可能性がある場合、また授乳中は乳腺が発達しているため痛みを感じやすいようです。
どうしても痛みに弱い、不安がある人は超音波検査がお薦めです。
乳がん検査:超音波(エコー)
超音波診断装置を用いてシコリの有無、シコリが良性か悪性か調べます。
超音波を発信、受信するプローブを胸にあて、上下にすべらせながら反射した乳房の断層面をモニターに映し出すもので、所要時間は両方の胸で5~10分程度。
痛みを感じることはありません。
また、マンモグラフィは乳腺組織が多い場合、全体的に白く映るため、シコリが見つけにくい場合がありますが、超音波(エコー)は正常な乳腺組織とシコリの判別がしやすく、わずか数ミリのシコリを発見することができます。
ただし、マンモグラフィに比べて微細石灰化の検出が困難なこと、乳房が大きい人の場合、深部の組織まで超音波が届かない場合があります。
乳がん検査:造影CT
造影CT検査では、あらかじめ造影剤を注射しますが、人によって造影剤に含まれるヨウ素にアレルギー反応を起こす場合があります。
そのためヨウ素アレルギーがある人は、造影CT検査を受けることができません。
アレルギー歴がある、気管支喘息がある、造影剤による副作用歴(過去に造影剤を使用して具合が悪くなった、じんましんが出た)、腎機能障害などがある人は、検査を受ける前に医師に相談してください。
乳がん検査:MRI
乳腺MRIは強い磁力を発するMRI装置を用いて乳房内部にある病巣を画像にして診断する検査機器です。
X線と違い被ばくの心配がなく、造影剤を使って乳房全体を画像化、正常な乳腺と病変の判断をすることができます。
検査中の痛みが全くなく横になったままで検査ができますが、ドームの中で検査を受けるため閉所恐怖症の方ではストレスを感じるかもしれません。
また、極めて小さな磁気にも反応するため、次のような人はMRI検査を受けることができません。
- ペースメーカーを使用している
- 人工内耳等の医療に関する機器が体内に挿入されている
- 脳動脈クリップを使用している
- 妊娠中、またはその可能性が高い
- 入れ墨、タトゥーを入れている
など。
昔は触診や目視でしか診断できなかった乳がんですが、現在では乳がん検査方法の選択肢が広がり
「あのとき別の乳がん検診を受けておいてよかった」という声も続々と上がっています。
乳がんに限らず、多くの疾病は早期発見、早期治療であれば十分に完治が可能です。
そのためにも定期的に検診を受けるようにしましょう。