乳がんの基

乳がんに関するウソ? ホント? ~5つの勘違いと正しい知識

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日本の6割以上の女性は、乳がん検診を受診しておらず、それが国内の乳がんによる死亡率が上昇し続けているひとつの要因ともなっています。
一方、アメリカなど他の先進国の乳がん検診の受診率は8~9割。日本とは圧倒的な差があり、それらの先進国では乳がんにかかる率は増えているにもかかわらず、乳がんによる死亡率が減少しているのです。
女性にとっておっぱいに関する話題といえば、形、サイズ、向き、ピンと張っているか垂れているか……つまり見た目に関することが多くを占めると思います。
もちろん女性にとって、おっぱいは大切なもの。見た目を綺麗に保ちたいという気持ちを否定することはできません。
対して、おっぱいの中身に意識が向いている人は、どれだけいるでしょう?
日本の女性の皆さんにはぜひ、乳がんに対する意識を高め、正しい知識を身につけてほしいと思っています。

乳がんの勘違い

乳がんに関する5つの勘違い

多くの女性にとって、乳がんに関する知識は曖昧なものが多いでしょう。
「乳がんって○○と聞いたことがある」「乳がんって、たぶん○○じゃない?」
このように、正確な知識を持っていないのと同じ、それ以上に巷では多くの「乳がんに関する勘違い」がささやかれています。
特に多い勘違いは、次の5つではないでしょうか。

  • 乳がんは治らない病気
  • マンモグラフィは痛い
  • おっぱいが小さいと乳がんになりにくい
  • 授乳中でも定期検診は行かなければならない
  • ○○を食べると乳がんになる

これらは全て誤った知識であるか、一概にはそう言えないものばかりです。
今回は乳がんに関する勘違いと、正しい知識をご紹介します。

5つの勘違いと、正しい知識

乳がんは治らない病気

日本では今も「がん=治らない病気」というイメージがあるのか、「乳がんになったら治らない」と思っている人が多いようです。
それは間違いです。
乳がんは「早期検査」「早期発見」「早期治療」によって、治ることが多い病気です。
若いときから定期検診を受け、そこで乳がんが見つかっても、早く適切な治療を受ければ、乳がんで命を落とすリスクは、確実に減らすことができます。

がんに関する「5年生存率」をご存知でしょうか?
「5年生存率」とは、がんと診断された時点から5年後に生存している人の割合をいいます。
「生存している人」には、がんが再発している人も再発していない人も含まれます。また、「生存していない人」には、がんが原因で亡くなった人だけでなく、事故や他の病気など、がん以外の原因で亡くなった人も含まれています。
そのため、「5年生存率」とは、がんと診断されてから5年後に、患者さんががんによってどのような状態になっているか、ということを完全に正確に示すものではありません。
ではなぜ「5年生存率」という指標が用いられるかというと、大半のがんは5年後に再発しなければ「完治した」といえる可能性が高くなるため、といわれています。

乳がんの場合は、ステージ0=超早期乳がんの5年生存率は97パーセント、というデータがあります。これがステージⅠだと95パーセント、ステージⅡは91パーセントですが、ステージⅢになると62パーセントと一気に下がり、ステージⅣでは32パーセントまで下がります。
それだけ乳がんは、早期に発見し、治療を受けると治ることが多い病気だといえます。

一方で、転移・再発すると乳がんを根絶することは非常に難しくなります。身体のどこか1箇所に転移したということは、他の場所にも取り除くことが難しいがんが存在している可能性が出てくるからです。
乳がんは、転移・再発すると治りません。また、乳がんは手術してから5年が経過しても転移・再発する可能性のあるがんです。10年を経過しても、同じ恐れはあります。
しかし早期に発見し、治療を受けることによって、転移・再発のリスクは下がっていきます。ぜひ「早期検査」「早期発見」「早期治療」を実践していただきたいと思います。

マンモグラフィは痛い

マンモグラフィとは、乳房専用のレントゲン装置です。
乳房を圧迫板で挟み、引き延ばして上下からと斜め方向から合計4枚を撮影します。
どうもこのマンモグラフィによる撮影について、「痛い」というイメージばかりが先行しているようです。

もちろん乳房を引き延ばして撮影するので、決して「痛くない」とはいいません。
ただ、「痛い」という先行イメージに対して、実際マンモグラフィ検査を受けてみたら、「痛みはそれほどではなかった」と思う人が意外に多いのです。
毎回痛いとも限りません。生理周期との兼ね合いや、乳房の挟み方、引き延ばす際の圧のかけ方によって変わってきますので、前回の検査で痛かったからといって、次も絶対痛いだろうと思い込まないようにしてください。
マンモグラフィは圧をかけないと上手く撮影できないので、もし痛かった場合は「しっかり圧をかけて引き延ばしているから、きれいに写っているだろうな。何かあったら見つかりやすいだろうな」といったように考えると、気持ちも楽になるでしょう。マンモグラフィー

乳がん検診にマンモグラフィが導入されて、乳がんの発見率は向上しました。それだけ有効な検査です。ただし、もしどうしてもマンモグラフィが痛いと感じてしまう場合は、乳がん検診の時期を変更してみてください。

先に「生理周期との兼ね合い」と書きましたが、マンモグラフィを受ける時期としては、生理が始まって乳房の張りが取れた頃を選ぶと比較的ラクでしょう。

生理前の乳房が張っている時期に胸を挟まれるのと比べて、痛みは軽減するかと思います。乳がん検診を受けるのは、乳房の張りがやわらぐ生理中~生理後くらいがお勧めです。

おっぱいが小さいと乳がんになりにくい

乳房の大きさと乳がんの発症率に、医学的な関連性はありません。
乳がんとは乳腺にできるがんです。つまり大小に関係なく、乳腺があれば乳がんになる可能性があるのです。そのため、女性よりも乳房が小さい男性も乳がんになります。
おっぱいの大きさではなく、乳腺組織そのものが多い場合は、乳がんの発症率が高くなる可能性が指摘されていますが、乳腺組織の量は乳房のサイズに比例しているわけではありません。

ちなみに、マンモグラフィで乳房を撮影した際、乳腺濃度は「脂肪性」「乳腺散在」「不均一高濃度」「高濃度」の4段階に分類されます。このうち「不均一高濃度」と「高濃度」のことをデンプレスト(高濃度乳腺)といいます。
デンプレストの場合は、乳がんを発症する可能性が高くなるのと同時に、がんを見つけにくいことも問題のひとつとして挙げられます。
マンモグラフィでは、がんと同じく乳腺も白く写るため、乳腺の白のなかにがんの白が隠れてしまい、見つけにくくなってしまうのです。デンプレストの方は、マンモグラフィだけでなくエコー(超音波)検査を受けるのが有効とされています。

日本では乳がん検診を受けた女性の半数がデンプレストである、という報告があります。
乳房の大きさではなく、検診で乳腺濃度などおっぱいの中身について、しっかり意識を持っておくことが重要です。

授乳中でも定期検診は行かなければならない

授乳中の検診はお勧めしていません。
ただし、血乳やシコリなど、乳がんを疑う症状が見られたり、何か気になることがあれば、迷わず病院を受診してください。
もし毎年乳がん検診を受けていて、前回の検診から1年が経ったので今年も……ということであれば、授乳が終わってから受診するほうがよいかと思います。

マンモグラフィはX線撮影なので、被ばくに不安を抱く方も多いのですが、マンモグラフィから出る放射線は微量ですし、一時的なものですから、人体や母乳への影響はほとんどありません。
それよりも授乳中、母乳でおっぱいが張った状態でマンモグラフィの圧迫板に挟まれるとういうのは、女性も心理的な部分で難しいのではないでしょうか。
また、授乳中の乳がん検診をお勧めできない最大の理由は、授乳中は乳腺濃度が濃くなっているからです。
「乳腺」とは、母乳を作るための「小葉」と、母乳を運ぶ管である「乳管」からできています。授乳中……乳房のなかに母乳が満たされて通っている状態では、必然と乳腺濃度も高くなります。
先に書いたとおり、乳腺濃度が高いと、マンモグラフィでは乳がんを発見しづらくなります。
そのため、授乳中は乳がん検診をお勧めできない、というわけです。
ただ、授乳を続けていても、子どもが1歳ぐらいになり、母乳の量も少なくなっていれば通常の検査が可能になりますので、乳がん検診を受けてください。

授乳中の乳がん検診

他にも「陥没乳首は乳がんになりやすい」という説があるそうですが、もともと陥没しているのであれば、それは乳がんの症候ではありません。
しかし以前は乳首が出ていたのに、最近になって陥没してきた……という場合は一度、乳腺科を受診してみましょう。もしかしたら乳房のなかにがんができて、がんに引っ張られたために乳首が陥没した可能性があります。
同じように、乳房に「えくぼ」のようなくぼみができた場合も、乳がんの恐れがあります。
日々のセルフチェックで、乳房にこれまでと違う部分が見られた際は、まずは乳腺科に相談しましょう。

○○を食べると乳がんになる

よく食べ物と乳がんの関係について質問を受けますが、そのなかでも多いのが
「乳製品を食べると乳がんになりやすい」
「野菜を食べていれば乳がんにならない」
この2つではないでしょうか。

まず、乳製品を食べると乳がんになりやすいと信じている人が多いようですが、医学的根拠はありません。
ひとついえるのは、人によって異なりますが、乳がんとは関係なくても、乳製品に限らず同じ食品を摂り過ぎるのは体によいわけではありません。食事は何でも、バランスよく摂ることが一番です。

野菜に関する説にも、同じことがいえます。
「野菜を食べていれば乳がんにならない」という説にも、医学的根拠はないのです。
一般論として野菜を摂取することは体によいことですが、かといって野菜だけを食べることはお勧めできません。乳がんを発症したことをキッカケに、ベジタリアンになろうとする方もいます。しかし、人の体には動物性タンパク質も必要です。
たとえば大豆は良質なタンパク質ですが、肉や魚と同じ動物性タンパク質を摂ることはできません。やはり野菜だけでなく、肉や魚を食べる必要があるでしょう。
当然ですが、動物性タンパク質を取り過ぎることも、体によくはありません。食事はバランスよく! これが基本です。

がん予防の食事

不安なことは医師にご相談ください

ここまでご紹介したものだけでなく、乳がんに関する勘違いは他にも数多くあります。
なかには、乳がんと診断された患者さんの不安につけこむようなビジネスもありますので、注意していただきたいと思います。
乳がんについて心配なことがあったり、乳がんと診断されて不安に思うことも多いかもしれませんが、そんなときは医療機関で医師や看護師にご相談ください。プロフェッショナルのスタッフが、すべての女性や患者さんをサポートします。

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