乳がんと自己検診
生涯に乳がんを患う日本人女性は、現在、12人に1人[※1]と言われています。
乳がんで亡くなる女性は、2013年に1万3000人を超え、1980年に比べると約3倍の数に。
厚生労働省が発表した「人口動態統計 [※2] 」では、2015年の乳がんによる死亡数(女性)は13,584人(確定数)と報告されています。
※1:国立がん研究センターがん対策情報センター 「がん情報サービス」より
※2:厚生労働省人口動態統計【確定数】より2016年9月8日発表
乳がんとは?
乳がんは乳房のなかにある「乳腺」(母乳をつくるところ)にできる悪性腫瘍です。
乳腺には母乳をつくる小葉と、母乳を乳頭まで運ぶ乳管がありますが、乳がんの多くは、乳管の細胞ががん化することで起こります。
乳がんに関わらず、どんな病気でも「早期検査」「早期発見」「早期治療」が重要です。
一般的な実験上での話ですが、乳がんは1個のがん細胞から1cmになるまで約5~6年はかかりますが、1cmから2cmになるのに2年もかかりません(実際の人体では、がんの性質などにもよります)。
2cm以下の早期乳がんを発見するにはセルフチェックや2年に一度の定期検診が、何より大切といえるでしょう。
自己診断の方法
- 調べる乳房と反対側の手で、乳房とワキの下(リンパ周辺)に違和感がないかチェックします。指先で優しくマッサージするように、くまなく調べましょう。
- 乳房や乳首をしぼって分泌物がないかチェックします(妊娠・授乳期を除きます)。
自己診断は乳がんの早期発見にとても有効といえますが、シコリなのか乳腺なのか区別がつかないことも多いかと思います。しっかりとチェックするためにも定期検診を受けましょう。
現在は撮影装置の進歩や技術の向上によって、早い段階で乳がんを発見できるようになり、ステージ0での発見も増加しています。
ステージ0は非浸潤がんと呼ばれ、がんがまだ乳腺の乳管の中にとどまっている状態で
発見されたものをいいます。
乳管の中には血管やリンパ管などへ移動する通路がないので手術でがんを取ってしまえば理論的には、その後の転移や再発はありません。
実際にステージ0の乳がん5年生存率は97%と高い数値を占めています。
検査機器の発達による効果
日本で自治体による乳がん検診が始まったのは1980年代。
(1960年代、一部地域で乳がん集団検診が行われていました)
主に問診と視触診によるもので、現在ほど発見率は高くありませんでした。
一方、欧米で乳がん検診が始まったのは1940年代。
70年代からは触診とマンモグラフィを併用、乳がんの早期発見率の向上がみられました。
日本では2000年、厚生労働省からマンモグラフィを導入した乳がん検診を推進する内容の提言があり、全国の各自治体で50歳以上の女性を対象に2年に1回の検診にマンモグラフィが導入されるようになったのです(現在は40歳以上)。
乳がん検診で使用されるマンモグラフィとは?
乳がん検診を受けたことがない人でも、マンモグラフィという言葉は耳にしたことがあるでしょう。
マンモグラフィは乳房専用のレントゲン装置で、圧迫板で乳房をはさんで撮影します。
左右ともに上下から(CC)、斜め方向(MLO)の合計4枚を撮影しますが、検診では年齢によってはMLOのみの自治体もあります。
撮影するのは放射線技師で、1枚の撮影時間は片方の胸で約5分くらい。
最近では女性技師が撮影することが多いのですが、なかには男性技師もいます。
女性技師を希望する場合は、あらかじめ施設に問い合わせるとよいでしょう。
マンモグラフィは痛い?
圧迫板ではさまれるのは約10秒くらいですが、乳房を引きのばして圧力をかけて撮影しますので、痛みを感じることがあります。
書物やインターネットの口コミなどを見て「マンモグラフィに抵抗感があるので乳がん検診は受けたくない」と消極的になっている人がいらっしゃるかもしれません。
痛みには個人差もありますし、生理周期など時期的な問題、肋骨の形など様々な要因がからんできます。検査を受けられないほどの強い痛みを訴える方は少数です。
乳がんの早期発見には、定期検診がとても重要だということを理解して受けましょう。
レントゲン撮影による被ばくが心配?
マンモグラフィの被爆線量は0.1mSv/回程度で、これは自然放射線(食品や大気、大地からの放射線)の1カ月分にもなりません。
100回撮影してもCT検査1回分に満たないので、とても安全です。
安心、安全、優しい乳がん最新検査機器
- トモシンセンス(3Dマンモグラフィ)
- 超音波(エコー)
- MRI検査
- PET-CT検査
- PEM(乳房専用PET検査装置)
- ABVS(乳房超音波装置)
- Volpara(ボルパラ)
トモシンセシス(3Dマンモグラフィ)
トモシンセシス(DBT:Digital Breast Tomosynthesis)はTomography(断層)とSynthesis(統一、合成)という意味の言葉を組み合わせたもので、短時間のスキャンで複数の角度から乳房の断層像を撮影する検査機器です。
これまでのマンモグラフィに比べて画像の描出精度が高く、より正確な診断が可能になりました。
妊娠中でも受けられる超音波(エコー)
乳腺用の超音波診断装置を用いてシコリの有無、シコリが良性か悪性か調べるものです。
乳房の中にシコリがあると画面に現れますが、これは超音波が組織にあたって跳ね返ってきたのが映像化されたものです。
超音波を発信、受診するプローブを胸にあて、上下にすべらせながら反射した乳房の断層面をモニターに映します。
所要時間は両方の胸で5~10分程度で痛みを感じることはありません。
エコーは胎内にいる赤ちゃんの検査にも使用される安全なものです。
MRI検査
乳腺MRIは強い磁力を発するMRI装置を用いて、乳房内部にある病巣を画像にして診断する検査機器です。
X線と違い被ばくの心配がなく、造影剤を使って乳房全体を画像化、正常な乳腺と病変の判断することができます。
この乳腺MRIですが、診断時にがんの疑いがある、細胞診や組織診でがんと診断された場合の追加検査で使用されるケースがほとんどです。
乳房の中にがんがどのように広がっているのか、または広がっていないのか。
両方の乳房を一度に調べたところ、反対側に偶然別の乳がんが発見されるケースがありました。
欧米では遺伝性の乳がんなど、乳がんにかかりやすいと診断された女性に対して、マンモグラフィと乳房MRI検診の併用が薦められています。
PET-CT検査
PET-CT装置はPET(Positron Emisson Tomography=陽電子放出断層撮影)とCT(Computed Tomography=コンピュータ断層診断装置)が一体型となったもので、一度の撮影でPETとCTの両方の画像が得られるという特徴があります。
PET検査ではFDG(ブドウ糖に似た薬)という検査薬を注射して、がん細胞に集まったFDGから出る微量の放射線を測定して画像にします。
そしてCT検査ではX線を照射して、体を通り抜ける放射線量の違いによって臓器の形態を画像化します。
これら2つを併用することで、より明確に病変の状態を調べることができる、それがPET-CT検査です。
※乳がんばかりでなく全身のがんの有無を調べることができるというメリットがあります。
乳がんに特化した最新鋭機器PEM(乳房専用PET検査装置)
PEM(Positron Emission Mammograohy)は欧米を中心に全世界で約70施設にしか導入されていない、最新鋭の乳房専用PET検査装置(病理精密検査対応装置)です。
全身のがんを調べるPET検診を乳がん専用に開発したもので、1.5ミリとい非常に小さな病変の発見も報告されています。
また、マンモグラフィのように圧力をかけて乳房を圧迫しなくてもよいので、痛みを感じにくいというのも特徴のひとつといえるでしょう。
早期発見に有効なABVS(乳房超音波装置)
ABVS(Automated Breast Volume Scanner)は超音波を用いて乳房の病変を検診します。
胸全体にローションを塗り乳房に超音波を発生する幅の広いプローブを当て、片側3回(両側で6回)に分けて自動的にスキャン。
縦断面と横断面、体表面を平行にスライスした断面から病変がないかを細かくチェックしていきます。
若い年齢層の女性は乳腺が発達していることが多く、マンモグラフィでは白く光って分かりにくい場合があります。
また、乳がんの中でも悪性度の高いがん(進行の早いがん)は、マンモグラフィ検査よりも超音波検査の方が発見しやすく、このABVSとマンモグラフィの併用が早期発見に大変有効であると考えられています。
マンモグラフィをバックアップするVolpara(ボルパラ)
乳腺密度の高い高濃度乳腺はマンモグラフィによる診断が困難なケースが多く、若い日本人女性では高濃度乳腺が多いと言われています。
高濃度乳腺の場合、石灰化やシコリが正常な乳腺にかくれてしまうため発見しにくいという点が、マンモグラフィ検査の弱点でした。
このため、高濃度乳腺の人に対しては、乳房超音波検査の併用が勧められています。
しかし自分の乳腺が高濃度なのかどうかという判定は知らされていないことが多いのが現状です。
ボルパラはマンモグラフィ撮影時のデータを使用、乳房の3次元解析を行い、乳腺密度評価を数値化して判定するソフトウェアです。
マンモグラフィの画像をボルパラで解析することで、検査を受けた人自身が自分の乳房の状態がどうであるのかを目視、理解できるため、必要な場合はしっかりと納得したうえで追加検査を受けることができるのも大きなメリットのひとつといえるでしょう。
大切なのは「早期検査」「早期発見」「早期治療」
日本女性が乳がんを患う可能性は12人に1人といわれています。
主に30代後半から40代に多くみられますが、その他の年代でもかかる可能性はゼロではありません。
必ずというわけではありませんが、次のような方は乳がんになるリスクが高いといえます。
- 初潮年齢が早い(9歳以下で初経になる早発月経)
- 初潮年齢が遅い(15歳~16歳以上で初経になる遅発月経)
- 閉経年齢が遅い
- 出産経験がない
- 授乳経験がない
- 家族に乳がんにかかった人がいる
ただし、初期段階では触ってもシコリが確認できなかったり、これといった自覚症状がないため見過ごしてしまうことがあります。
「セルフチェックでは問題ない」「症状がないから大丈夫」と油断せず、定期検診を受けてください。
乳がんの場合、リンパ節への転移がないステージⅠの場合、10年後の生存率は93.5%。治療期間も比較的短く、経済的負担も軽くて済みます。
また、乳房の温存も十分に可能です。
40歳以上の女性のために、市区町村の検診が2年に一度実施されています。
費用は市区町村によって異なりますが、無料~3000円くらいです。
40歳未満の人は自身や配偶者が勤務している企業の定期検診や人間ドッグで、乳がん検診を受けられる場合があります。
※企業により異なりますのでご確認ください。
自己負担の場合は一般的に、次の金額が適用されます。
※受診される医療機関によって異なりますので事前にお問合せください。
マンモグラフィ検診・・・約5,000円
超音波検診(エコー)・・・約3,500円
再検査(要精査)=乳がんとは限りません
- マンモグラフィ検診の結果
- カテゴリー1:異常なし
- カテゴリー2:良性病変のみ
- カテゴリー3:がんの疑いを否定できず(がんの可能性は5%程度)
- カテゴリー4:がんの疑いあり(がんの可能性は50%)
- カテゴリー5:マンモグラフィ上はがんの確率が高度(95%以上の確率でがん)
検査の結果がカテゴリー1、2の場合、がんは見つからなかったということになります。
検査で「要精査」、精密検査が必要といわれるのはカテゴリー3~5で、3以上の場合は病院で精密検査を受けてください。
精密検査が必要=乳がんになったと決めつけて不安になったり、なかには会社を辞めてしまう人もいらっしゃいます。
しかし、実際に精密検査を受けたところ「乳がんではなかった」という結果が出るケースも少なくありません。
カテゴリー4という診断が出た人でも乳がんではない方も多くいるのです。
不安のまま過ごすのではなく、要精査の通知を受け取ったら、早めに病院を受診しましょう。