乳がんの治療には早期検診・早期発見・早期治療が重要
私たちの細胞は、分裂、分化したり増殖したりする遺伝子を持ち、正常細胞の遺伝子は23,000種類、がん遺伝子は766種類存在するといわれています。
がん遺伝子が存在しても、すぐにがんを発病するのではなく、この遺伝子に傷がつくと、細胞ががん化します。
実は毎日、私たちの体の中では大体1000~2000個のがん細胞が発生しています。
しかし、がん細胞が発生しても必ずがんが発症するわけではありません。
それはNK細胞などの免疫細胞ががんを排除しているためですが、排除しきれなかったがん細胞が生き残ってしまうと2個、4個、8個・・・と分裂して増えていきます。
一般的な検査でがんが見つかるのは約1センチの大きさになったときで、重さは1グラム、細胞数は約10億個といわれています。
乳房は乳腺組織と脂肪組織からなり、乳腺組織は母乳を作る小葉と、作られた母乳を運ぶ乳管に分かれています。
乳がんは乳腺組織から発生するもので、乳房の中で出来る場所の割合は次のとおりです。
乳房の外側の上の方 | 全体の53% |
内側の上 | 19% |
外側の下 | 14% |
内側の下 | 6% |
乳首付近 | 4% |
厚生労働省発表による 「人口動態統計」では、2016年の乳がんによる死亡数は14,013人(概数・女性)と残念ながら増加し続けています。
30代から増加し始め、40歳代後半から50歳代前半にピークを迎えますが、比較的若い世代での罹患率も増加していますし、または閉経後の罹患率も増加傾向にあります。
乳がんは1個のがん細胞から1cmになるまで5~15年くらいかかると言われていますが、1cmから2cmになるのには2年かからないともいわれています。
2cm以下の早期乳がんを発見するためには、毎月のセルフチェックと定期検診が何より重要といえるでしょう。
厚生労働省では、乳がん発症者が40~50才代の女性に多いことから、40才以上の女性に対してマンモグラフィを使った定期検診を薦めています。
早期診断と過剰診断の問題・・・過剰診断とは何か?
治療する必要がなく、そのまま放っておいても一生涯、症状が現れないがんがある、というと驚かれるかもしれません。
過剰診断とは、がんをみつける性能が良すぎて、生涯体へ影響を及ぼすことはないであろう非常に小さな腫瘍をがんと診断し、治療することをいいます。
これは生前はがんの兆候がなく、このがんが原因で死亡するものではありません。他の疾病などで死後の解剖を行ったところ初めて発見されるものも含みます。
症状がなく進行が遅く死因につながらないもので、甲状腺がんや前立腺がんに多いといわれています。しかし、いま診断されたそのがんが、治療が必要なものであるのか、治療しなくても生命に影響のないものなのかを、現時点で判断するのは難しいことが多いのが事実です。
ですから、あまりに過剰診断を気にしすぎると、早期発見早期治療の機会を逃すことにもつながりかねません。
がんと診断されると誰もが不安になります。
命を落とさないためにも、すぐにでも治療を開始するでしょう。
がんの治療は手術、放射線、抗がん剤がありますが、どれも体への負担があるものです。
何よりがんには再発の可能性がありますから、一度手術をすれば、抗がん剤治療をすれば大丈夫、というものではありません。
どうしても再発の不安を抱えることになります。
検査機器の進歩はがんの早期発見に大いに役立つものですが、精密すぎるがために過剰診断が起こらないとは言い切れません。
ただし「過剰診断されたくないのでがん検診は受けない」というのは間違いです。
もしもがんになったとき、適切な治療を行うためにも乳がん検診を受けるのは、とても重要なことです。
乳がんの過剰診断・・・ADH(異型乳管過形成)について
異型乳管過形成(いけいにゅうかんかけいせい/ADH=atypical ductal hyperplasia)とは、乳腺症の乳管過形成に異型を伴う症状をいいます。
乳管の細胞が過剰に増殖したのが「乳管過形成」で、この細胞が変異を始めると「異型乳管過形成」に、さらに細胞ががん化すると「乳管がん」となります。
一般的に、異型乳管過形成は低悪性度の非浸潤性乳管がんに類似するもので、完全にその基準を満たさない前がん状態のものをいいます。
マンモグラフィやCTなどの画像診断、組織や細胞を顕微鏡で調べる病理組織診断が行われますが、この細胞が将来がんになるかどうか判断が難しいため、6カ月ごと程度の経過観察となります。
乳がんに「過剰診断」はあるのか?
非浸潤乳がんは、乳管や腺葉の中にがん細胞が留まっているもので、これが乳管を破って外に広がった状態が浸潤がんです。
非浸潤乳がんと診断される人の数は10年の間に5倍に増加し、検診で発見される乳がん全体の19~26%を占めています。
原因としてはマンモグラフィによる検診数の増加と精度の向上により、浸潤がんになる前の早期の段階で見つかった、またはこれまで発見できていなかったがんを見つけられるようになったからではないか、と考えられています。
非浸潤乳がんは症状がなく検診で発見されることが多いのですが、ときどき乳頭分泌(乳頭から血液が出る)、シコリがある、パジェット病(乳輪に治りにくい湿疹ができる)などの症状がみられることもあります。
非浸潤がんのなかには、すぐに浸潤がんになるものと、浸潤するまでに10年~20年かかるものがあります。
たとえば進行するのに20年かかる非浸潤がんが60歳過ぎてから見つかった場合と、40代で見つかった場合とでは過剰診断かどうか、判断が異なります。しかし今みつかった非浸潤癌が浸潤するまでに何年かかるかを推定することは非常に困難です。
乳がん以外の原因で亡くなった女性を調べたところ、16%に非浸潤性乳がんが発見されたと報告されています。
つまり乳がんで命を落としたわけではないので、このような非浸潤がんは気づかずに放っておいても大丈夫なものもあるということですが、先に書いたような理由から、非浸潤がんだからといって100%安全というわけではありません。
検診を欠かさず受けてください
「マンモグラフィでの被ばくが心配」という人がいます。
日本やアメリカのガイドラインでは、厚さが42mm、脂肪と乳腺の割合が半分ずつの乳房模型を撮影したとき、1枚あたりの平均乳腺線量が3mGy以下になるように決められていますが、日本のマンモグラフィの装置では、ほとんど2mGy以下で撮影されています。
数値に表すと、実効線量は0.05~0.15mSv。
人が普通に日常生活を送っていても、自然界からある程度の放射線を浴びますが、それが年間約2.4mSvですから、自然に浴びる放射線量よりかなり少ないということがわかります。
乳がんは早期発見であれば90%以上の人が治癒します。
セルフチェックに併せて定期検診を受けましょう。