術後のケア

乳がん治療には周囲のサポートが必要です~家族・企業は患者のためにできることは?

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乳がんを発症率が最も高いのは、40代以降の女性です。それは、女性にとっては子育てをしている時期。しかもまだ子どもが小さかったり、中学や高校を受験する時期にさしかかるくらいの年代です。
そんななか、妻もしくは母の役割を背負った女性が、急に乳がんを発症したために入院し、長期間の治療を余儀なくされた場合、家庭に与える影響の大きさは計り知れません。
しかし、乳がんを発症して最もつらいのは、他の誰でもなく患者さん=奥さま、お母さんです。乳がんを治療していくためには、家族のサポートも重要になることを、ぜひ知っておいていただきたいと思います。

家族の写真

ある日突然、奥さまが乳がんになったら、家庭は……

もし奥さまやお母さんが乳がんになったら、旦那さまやお子さんたちの生活はどのように変わるでしょうか。
奥さまが急に入院や治療で家からいなくなった場合、旦那さまがお子さんの面倒を見ることになるかと思います。しかし、ご主人も子育てのためになかなか仕事を休むことはできないかもしれません。
妻が出産を迎える際に、夫も一緒に育休(育児休暇)を取るというケースは、最近よくニュースでも報じられていますが、奥さまの入院や治療となると、そうもいかないのが現状です。
すると旦那さまは仕事と家事、子育てで大忙しとなり、息つく暇もなくなるでしょう。
このようなケースでよく聞くのは、奥さまがいないために家のなかが荒れ果てた状態になる、ということです。

乳がんの治療には時間がかかります。最初の手術と入院が1週間ほどで終わったとしても、その後の治療期間のほうが長いのです。たとえばホルモン治療は一般的に5年かかり、最近では10年続けるものもあります。
反対に、家族への影響を意識しすぎるがあまり、女性の患者さんの不安が増すことも少なくありません。
もともと治療に長い期間を要する乳がん。もしその乳がんが再発したら、さらにもしも乳がんで命を落としてしまったら……家族の生活や精神的な不安は募るばかりです。

一方、乳がんの治療を行っている奥さまに対し、旦那さまの理解が得られないというケースも聞きます。
妻が治療で大変なのに、夫が家事や育児を手伝ってくれない。
あるいは、入院や手術のときは優しかったのに、手術後の治療に入ると夫の妻への配慮がなくなってしまう。
なかには夫が「いつになったら治るの?」「しっかりしてくれよ」といった言葉を投げかけるといったこともあるようです。
そんなご主人の態度や言葉がストレスになっていると、医師に訴える患者さんもいます。

ただ、乳がんの治療に対し、なかなか周囲の理解が得られない要因はあります。その要因として、主に次のようなものが挙げられます。

  • 「手術」と「治療」の違い
  • 抗がん剤治療とホルモン治療の副作用の違い

「手術」と「治療」の違い

基本的に手術は入院を伴い、目に見える傷(手術痕を含む)があるので、患者さんがどんな状態にあるか、周囲の人も理解しやすいと思います。
対して治療は多くの場合、入院を伴わず外来で行います。また目に見えない副作用があるので、周囲も治療の大変さをなかなか理解できないようです。

抗がん剤治療とホルモン治療の副作用の違い

副作用に関していうと、最も治療のつらさを周囲が理解しにくいのは、ホルモン治療ではないでしょうか。
たとえば抗がん剤治療は、吐いたり、髪が抜け落ちるなど、目に見える副作用が多いことで知られています。その状態を見ると、家族や周囲もどんな状態なのかすぐにわかり、患者さんに対し気を遣ってくれるようになるかもしれません。
しかしホルモン治療の場合は、副作用として更年期障害が強くなったような症状が出ます。たとえばホットフラッシュ(のぼせ、ほてり、など)、イライラ、鬱っぽい症状などがそれです。
このような副作用は、見た目でそのつらさがわかるものではないことが、周囲がすぐには理解しづらい環境を生んでしまっているように思います。

乳がんになって初めて家族のありがたさがわかる

奥さまやお母さんが乳がんになったことで家族に与える影響は、悪いことばかりではありません。多くの乳がん患者さんから、このような声を聞きます。

「乳がんになって初めて、家族のありがたさがわかった」
「家族が応援してくれているから、私も頑張れる」

たとえば、元プロレスラーでタレントの北斗晶さんや、歌舞伎役者・市川海老蔵さんの奥さま・小林麻央さんなど、乳がん発症や治療の経過を公表されている有名人の方がいらっしゃいます。
そうした方々は、ブログでご家族のサポートを紹介したり、感謝の気持ちが綴られたりしています。
北斗晶さんの場合は、旦那さまの佐々木健介さんが病室を訪れてくれたときのこと、芸能界・プロレス業界の方々からの応援があったようです。
小林麻央さんは、姉の小林麻耶さんが自身のお子さんたちと一緒にいてくれたり、サポートしてくれる姿をブログで紹介しています。
多くの場合、そんな家族の存在が、患者さんの励みになります。
「小さい子どもを残して死ぬわけにいかないから、私はがんと戦います」とおっしゃる患者さんもいます。

お母さん

また、乳がん発症をきっかけに、家族への感謝の気持ちを持つのは、何も女性の患者さんだけではありません。
旦那さんやお子さんたちも、自ら育児や家事をするようになって初めて、普段は当たり前のように思っていた妻や母の役割が、どれだけ大きいものかということに気づくのです。

家族のなかでは、ご両親の存在も大切です。夫や子どもには言いづらい悩みや不安も、自身の親なら話すことができることもありますし、特にお母さんは同じ女性として、乳がんにかかった娘の気持ちを、しっかり理解してくれるでしょう。
また、ご自身が入院や治療で家を空けるとき、ご両親がお子さんの面倒を見てくれることもあります。
このようなことから、自身の乳がん発症について、まず母親に相談する患者さんも少なくありません。

乳がんの治療は、とてもつらいものです。しかし、決して治らない病気ではありません。そのためには、大切な奥さまやお母さんをサポートする、家族の存在がとても大切なのです。

ご家族に乳がん検診を勧めてください!

乳がんに関する家族のサポートは、何も奥さまが乳がんを発症した後だけ必要なのではありません。普段から夫が妻に対してできることはたくさんあります。
そのひとつが、ご主人から奥さまに乳がん検診の受診を勧めることです。

妻が乳がんを発症した場合、夫が妻をサポートし、家事や育児を担当するのは大変なことです。乳がんは「早期検査」「早期発見」「早期治療」によって治ることが多い病気ですが、反対に発見が遅くなると、治療も難しくなってきます。
そのために、妻が定期的に乳がん検診を受けてくれること、受けるように勧めることは、旦那さまにとっても大切なことなのです。

特に、家庭では奥さまが家計を任されていることが、ほとんどだと思います。
奥さまは家計のことを心配するがあまり、自分のための支出を抑えてしまう傾向があります。すると、自分のための乳がん検診にお金を出すことを、躊躇してしまうかもしれません。
そこで、夫から妻へのプレゼントとして、乳がん検診を勧めてみてはいかがでしょうか。
ご主人から勧められると、きっと奥さまも検診を受けやすくなるはずです。
夫が自分の健康を考えてくれている、私のことを大切に思ってくれていることがわかって、嬉しくない妻はいないでしょう。
普段の日常のなかで、突然プレゼントとして勧めることが苦手であれば、奥さまの誕生日や結婚記念日といった、特別な日に贈ってもよいでしょう。
必ず覚えている記念日であれば、定期的に通いやすくなります。
夫婦で一緒に、乳がん検診が含まれている人間ドックを受診するのもよいでしょう。

乳がん検診と聞くと不安になり、行きづらいと思う女性は多いものです。
だからこそ旦那さまはぜひ、奥さまがポジティブな気持ちで検診へ行けるよう、サポートしてあげてほしいと思います。

女性社員が検診を受けるような企業活動を!

ここまで、奥さまが乳がんを発症した場合にできる、家族のサポートについてご説明してきました。
もうひとつ、家庭だけではなく企業も女性社員の乳がん検診のサポートをしていただきたいと思っています。

近年、女性の社会進出が進み、さらに企業のなかで女性社員が重要なポジションに就くことも多くなりました。そのため、女性の乳がんは家庭だけでなく、会社にとっても考えなければならない問題となっています。
もし重要なポジションに就いている女性が乳がんを発症し、会社を退職することは、患者さん本人だけでなく、企業にとっても大きな損失となるからです。

キャリアウーマン

日本ではまだまだ産休や育休に対して、寛容ではない企業が多いのが実情です。それは、乳がんを発症した女性が、治療のために休暇を取ることに対しても同様でしょう。
そこで企業側には、ぜひ次のことを行っていただきたいと考えています。

  • 女性社員に乳がん検診を受けさせる
  • 社員の乳がん治療期間の対応

女性社員に乳がん検診を受けさせる

まず企業にお願いしたいのは、「ちゃんと女性社員に乳がん検診を受けさせる」ということです。
現在は、企業検診(企業が義務づけられている、社員の健康診断)の項目に、乳がん検診が含まれていない、あるいは含まれていても触診のみ、というケースが多いようです。マンモグラフィまたはエコーのみ、もしくはマンモグラフィのみ、というパターンもあります。

そもそも企業検診に乳がん検診が含まれていなければ、社員の乳がんを発見することはできません。
また、触診だけで乳がんを見つける方法は、現代医学ではそれほど根拠がないものとされています。触診による検診は乳がんの死亡率減少効果がないといわれ、医療のガイドラインにも「触診単独の乳がん検診は勧められない」と記されているのです(もちろん触診によって乳がんが発見される場合もあるので、一概には言えません)。

企業検診で、その内容が「マンモグラフィかエコーのどちらか」となっている場合は、自費によるオプションで、もうひとつの検査を行うこともできます。ただし自費検査は高額なので、なかなか自分でその費用を支払おうと考える人は、多くありません。
さらに、50歳前後の方はデンスブレスト(高濃度乳腺)であることが多く、マンモグラフィとエコーを併用して検診したほうが効果的です。
企業側には、まずは社員を守るためにも健康診断に乳がん検診を加えていただきたいと思います。そして、検査項目が「マンモグラフィとエコーを併用できる」ものになることを願います。

社員の乳がん治療期間の対応

女性社員が乳がんを発症した場合の、企業側のケアも大切です。先ほども書きましたが、大切な戦力となっている女性社員が、乳がん治療のために退職することは、会社にとっても損失です。
そこで企業側は、治療期間中の仕事を他の社員に割り振ったり、その期間限定で代わりの人材を補給するなどし、乳がんを発症した治療を終えて復帰できる環境を作っていただきたいと思います。
たとえば抗がん剤治療は、投与してからクールごとの治療方針を立てます
会社はまずその治療予定を確認したうえで、上記のようなケアを行うと、社員も治療に専念することができるのではないでしょうか。
患者さんとしても、そのようなシステムが整っていれば、安心して会社と今後のスケジュールについて話し合い、自分が担当する部分、他の人に割り振りたい部分など業務内容を整理できるはずです。

日本人女性の6割は乳がん検診を受診しておらず、乳がんによる死亡率が高まっています。
そんな現状を改善するためには、女性の意識を変えていくとともに、家族や企業、周囲のサポートが必要であることを知っていただければ幸いです。

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