まだ若いから定期検診を受けなくても大丈夫、は間違い
乳がん検診クーポンは40歳以上
乳がん検診の受診を促進するピンクリボン運動の効果もあり、乳がん検診の存在は広く知られるようになりましたが、若い女性の多くが「検診は40代になってからで大丈夫」と考えているようです。
また、自治体によって異なりますが40歳以上の女性には検診クーポンが送付されるものの、対象年齢以下の女性が検診を受けるには自らの意思で、自費で受診しなければなりません。
対象年齢が40歳以上とされているのは、この年代が乳がんを発症する確率が高いためです。
40歳未満の女性の乳がん検診受診について、“乳がんにかかりやすい年代”と“自費”という二つの要素が、大きな壁になっているのは間違いありません。
日本では乳がんが増加しており、国立がん研究センター「がん情報サービス」によると2016年には9万人の日本人女性が乳がんにかかると予測されました。
乳がんで亡くなる女性は2013年には1万3000人を超え、35年前と比べて3倍以上。
厚生労働省が発表した 「人口動態統計」では、2016年の乳がんによる死亡数は14,013人(概数・女性)と増加し続けています。
女性の30歳から64歳では、乳がんが死亡原因のトップとなっていますが、20代~30代もゼロではありません。
女性の乳がんの死亡数(厚生労働省人口動態統計より)
年 | 死亡数 |
1980年 | 4,141人 |
1985年 | 4,922人 |
1990年 | 5,848人 |
1995年 | 7,763人 |
2000年 | 9,171人 |
2005年 | 10,721人 |
2010年 | 12,455人 |
2015年 | 13,584人 |
2016年 | 14,013人 |
若年性乳がんとは?
20代~30代前半で発症する乳がんを「若年性乳がん」といいます。
乳がん全体の中では、約2%と少ない割合ではありますが年々増加傾向にあります。
若年性乳がんの場合、遺伝が影響していると考えられるものも多いのですが、「BRCA1」もしくは「BRCA2」という遺伝子に先天性に変異があると、乳がんにかかりやすくなります。
若年性乳がんの場合、発見されたときの腫瘍の大きさが平均2.9cmと、35歳以上の場合(平均2.5cm)と比べて大きめです。
ステージⅡ以降での発見が多く、リンパ節などへの転移の割合も高いというのも若年性乳がんの特徴です。
検診で発見されるケースは少なく(検診を受けている割合が低い世代であることも関連します)、自分で触って気がつくのがほとんどです。
入浴中、体を洗っているときやブラジャーを着けるとき、ベッドやソファでうつ伏せになったときに違和感やシコリがあることから病院へ行ってみたところ、乳がんと診断されたというケースが多いようです。
自費で検診を受けるのを金銭的負担と考えるか、大切な命を守るための自己投資と考えるか。
早期発見であれば心身や金銭的負担も軽くて済みます。
若いうちから定期検診を受ける、月に一度はセルフチェックを行うことが大切といえるでしょう。
40歳以上の女性は定期検診クーポンの活用を
乳がん検診クーポンは自治体の集団検診を受診するか、提携病院で検診を受けた場合に、割引価格、もしくは無料で受けられるというものです。
各自治体によってクーポンで受けられる検診の項目には、自治体によって主に次のような違いがあります。
- マンモグラフィまたはエコーだけ
- マンモグラフィとエコーの両方を受けられる
- マンモグラフィとエコーのどちらか選べる
- 追加料金を支払うことで両方受けられる
多くの自治体では新年度を迎えた4月からクーポンの送付先の準備が開始され、5月頃から各対象者宛に郵送されます。クーポンについて知っておいていただきたいのは、次の点です。
- クーポンの有効期限は年度末の2月か3月
- 検診が混み合うのは6月~11月、有効期限が近づく2月~3月頃
- クーポンを利用しない個別検診や会社検診のピークは5月~12月頃、比較的空いている期間は3月~5月上旬
(ただし自治体によってはこの限りではありません)
検診は日時に余裕をもって予約するのがベストですが、混雑時であっても曜日によっては
空いていることがあります。
今、手元にクーポンがある人は期限を確認してください。
「行こう、行こうと思っている間に期限が切れてしまった」ということのないよう定期検診を受けましょう。
乳がんは男性もかかる病気です
男性乳がんと女性化乳房
乳房は乳頭を中心に乳腺が放射状に並んでいて、それぞれの乳腺は小葉に分かれ、小葉は乳管という管でつながっています。
乳がんの約90%はこの乳管から発生し(乳管がん)、5~10%は小葉から発生(小葉がん)しますが、これを総称して乳がんと呼んでいます。
乳がんは女性特有の病気と思われていますが、男性もかかる可能性があります。
男性の胸部は女性に比べると小さく膨らみもほとんどありませんが、少量の乳腺があるため、乳がんが発生する可能性はあるのです。
男性乳がんによく似た症状に「女性化乳房症」があります。
症状としては胸が膨らんでくる、痛みを伴うシコリがある、など。
これは思春期(第二次成長期)に男性ホルモンより女性ホルモンが多く分泌される、男性の更年期(60歳~70歳)に男性ホルモンの分泌量が低下して起きるもので、およそ1~2年で自然におさまるものがほとんどです。
年齢以外の夭素としては、女性ホルモンは肝臓で分解されますが、肝機能の低下により女性ホルモンが増え、乳腺が発達して胸が膨らむ場合があります。その他に、内服薬の副作用として起こる場合もあります。
出産・授乳歴がないと乳がん発生率が上がるのはなぜ?
医学的に乳がんリスクが下がるとわかっていることがあります。
それは35歳前に出産、授乳をした人は、そうでない人に比べて発がん率が低いということです。
出産経験がない人は出産経験がある人に比べて、約2倍リスクが高いという報告がされていますが、それはなぜでしょうか?
これは、乳がんの発生には、女性ホルモンである「エストロゲン」が大きく影響しているのが原因です。
エストロゲンと乳がん細胞の中にあるエストロゲン受容体が結びつくことで、がん細胞が増加、肥大化して発症していきますが、妊娠、授乳期にはエストロゲンの分泌が低下するため乳がんにかかるリスクが減ると考えられています。
月経が始まり排卵されるまでの約2週間はエストロゲンの分泌が活発になります。
これによって卵胞の成長が促され、排卵の準備がなされるのですが、排卵後はエストロゲンのほかにプロゲステロンの分泌が活発になります。
1カ月のうち約半分の間エストロゲンの影響を受けるのですが、この要素を軽減するのが
妊娠、出産、授乳期間。
そのため、出産・授乳歴がないと乳がん発生率が上がるといわれています。
現在の日本は女性の社会進出などによって晩婚化し、高齢出産が増加したことに加え、栄養がよくなったことなどから月経期間が長期化したため、エストロゲンにさらされる期間が長くなっている傾向にあります。
厚生労働省が実施している平成28年の人口動態統計の年間推計では、出生数が過去最少の約98万人となったことが報告されています。
年間の出生数が100万人を下回るのは昭和22年の統計開始以来、初めてのこと。
このデータによっても出産・授乳歴と乳がん発症率に深い結びつきがあることが分かります。
ベースライン・マンモグラフィを撮っておこう
マンモグラフィは乳房専用のX線撮影装置のことをいいます。
乳房を挟みながら圧迫して、上下方向から1枚、左右ななめ方向から1枚(合計2枚・両方の乳房を撮影する場合は合計4枚)撮影します。
なぜ圧迫するのかというと、立体的で厚みがある乳房をそのまま撮影すると乳腺や脂肪、血管などの重なりで、実際に腫瘍などがあっても写し出されないことがあるためです。
マンモグラフィによって乳がんの初期症状である微細な石灰化や小さなシコリなどを検出することが可能ですが、ペースメーカーを使用している、豊胸手術を受けている場合は超音波検査(エコー)を受けましょう。
※圧迫が原因でがんが飛び散ることはありません。
X線というと「被ばく」を心配する方がいらっしゃいますが、1回の撮影で受ける放射線の量は東京―ニューヨーク間の飛行機の中で受ける宇宙からの自然の放射線量の約半分です。
ただし、妊娠中、妊娠の可能性がある場合は超音波検査を受けてください。
「ベースライン・マンモグラフィ」は異常がない時点で撮影された「基準」となる1枚で、これがあることによって検診の精度を高めることができます。
たとえば良質の石灰化がベースライン・マンモグラフィにある場合、新たに撮影したものに同じように写っていたなら、わざわざ再精査をする必要はありません。
一方で、ベースライン・マンモグラフィにはない石灰化やシコリが発見された場合は、がんの疑いがあると考えられます。
薬物療法…ホルモン治療と年齢
乳がんに対してホルモン治療が行われるのは、エストロゲンという女性ホルモンの影響を受けるタイプの乳がんを発症した場合です。
女性ホルモンの一種であるエストロゲンは乳がん細胞に含まれるエストロゲンレセプター(ER=エストロゲン受容体)と結びつき、乳がんの増殖を促します。
エストロゲンを取り込んで増えるタイプの乳がんを「ホルモン感受性乳がん」と呼び、閉経前か閉経後によって使用する薬が異なります。
閉経前は卵巣が活発に働いているため、女性ホルモンのほとんどが卵巣でつくられます。
LH-RHアナログは閉経前の人に使われる薬で、ホルモン分泌の中枢である下垂体に働きかけ、卵巣からのエストロゲンが分泌されないよう抑制する薬です。
これに女性ホルモンが乳がんの細胞にくっついてがん細胞が増殖するのを防ぐタモキシフェンを併用するのが一般的です。
閉経後は卵巣機能が低下、卵巣から女性ホルモンが分泌されないかわりに、副腎でつくられた男性ホルモンが、脂肪組織などにある「アロマターゼ」という酵素によって女性ホルモンに転換されています。
このアロマターゼの働きを抑制して女性ホルモンの量を減らす薬がアロマターゼ阻害剤です。
※タモキシフェンは年齢や閉経状況に関わらず使用が可能ですが、アロマターゼを抑制する薬は卵巣が十分機能している場合、単独では効果が得られません。
ホルモン治療というと、更年期障害のホルモン補充療法と混同される場合がありますが、こちらはエストロゲンを追加する治療なので、乳がんのホルモン治療とは対極にあります。
乳がんで社員を失わないために、企業ができること
厚生労働省「平成27年版 働く女性の実情」によると、役職者に占める女性の割合の変化は昭和60年から平成27年で「課長級以上(部長級+課長級)」が1.4%から8.7%に、「係長級以上(部長級+課長級+係長級)」が2.5%から11.9%に上昇。
役職別にみると、「部長級」は1.0%から6.2%に、「課長級」は1.6%から9.8%に、「係長級」は3.9%から17.0%に、いずれの区分も上昇傾向が続いていると報告されています。
女性の社会進出が進み、多くの女性が企業の即戦力となっている現在、社員が乳がんのために退職するのは当人ばかりでなく、会社にとっても大きな損失といえるでしょう。
抗がん剤治療は投与してから一定期間を1クールとして計画的に治療方針を立てて行います。これによって会社側は当人の治療の予定を確認、先々の見通しを持って治療期間のための調整が可能です。
しかし副作用などの影響で予定通りに進まなかったり、予想以上に体調が悪くてお休みしないとならない場合もあります。
さらに現状では、「乳がん治療を受けるなら退職してほしい」と面と向かって言われることはなくても、欠勤するたびに文句を言われる、周囲からのプレッシャーを感じる、などで結局は退職しなければならなくなった、という人がいます。
抗がん剤治療中は通院のために定期的に休む必要があったり、副作用で体調を崩すことがあるかもしれません。
会社側が産休や育休同様、乳がんの治療に理解を示し、業務を分担する、代わりの人材を期間限定で補充するなど協力的であれば、乳がん治療でやむなく退職、という状況を回避できるのではないでしょうか。
もちろん患者さん自身も、自分でできる業務は積極的にこなし、サポートしてくれる人たちに対して感謝の気持ちを持つことが大切です。
社員が健康で業績が順調にあがっていくのが理想的ですが、そのためにも大切なのが定期検診です。
疾病は早期発見、早期治療を行えば、それだけ心身への負担が軽く、治療期間も短くて済みます。
しかし、人間ドッグを導入する企業は増えても、そこに乳がん検診は含まれていない場合もあります。
なかにはマンモグラフィとエコーの両方が受けられる、というところがありますが、マンモグラフィだけ、またはマンモグラフィもしくはエコーのどちらかを選択、という企業もあり、企業によって検診の内容は様々です。
自費でオプションを追加して入っていないほうの検査を追加できる場合もありますが、自費検査となるため高額でもあり、片方しか受けないことがほとんどです。
50歳前の女性はデンスブレストの場合が多く、マンモグラフィとエコーを併用したほうが、より詳しく検査できます。
デンスブレストとは?
高濃度乳腺のこと。マンモグラフィで撮影した画像全体が白く写り、乳がんが見つかりにくい。
乳がんの早期発見、早期治療を推進する『日本乳がんピンクリボン運動』は個人はもちろん、企業や団体でも参加できます。
企業が乳がん検診について考えるきっかけになる、企業の上層部の意識が改革されることで社員に乳がん検診を受けさせる重要性が浸透する、何より乳がんから大切な社員を守ることができます。
乳がんばかりでなく、病気治療は周囲の人たちの協力やあたたかい励ましが大切です。
優しさの輪が家族、友達、そして企業へと広がっていきますように。