検診の必要性~「要精査」とは何か
乳がんの検診を受けると、医療機関にもよりますが3~4週間くらいで結果が郵送されてきます。検診の結果には次のものがあります
- 「異常なし」の場合
- 「要経過観察」の場合
- 「要精密検査」の場合
「異常なし」の場合
定期検診を受ける、セルフチェックを続けましょう。
もし違和感(胸にしこりがある、皮膚のひきつれがある、など)を感じたら、次の定期検診を待たずに乳腺科にかかってください。
「要経過観察」の場合
良性の可能性があるものの、今後の状況により変化するかもしれない場合、要経過観察と診断されます。
一般的には3カ月後、6カ月後、12カ月後または次回定期検診の検査指示が記されていますので、その指示に従って再検査を受けるようにしましょう。
「要精密検査」の場合
要精密検査とは、
「疑わしいところがあるため、もう一度詳しい検査をしてください」
という意味で、100%乳がんというわけではありません。
どのくらいの割合かというと、過去のデータからみると、乳がん検診受診者約203万人のうち、再検査が必要と診断された人は約17万人、割合にすると8.7%の人が要精密検査として引っかかるという計算になります。
この8.7%の要精検者のうち、実際に乳がんが発見されたのは6477人であり、検査に引っかかった人のなかで乳がんが発見されたのは3.8%でした。
こうしたデータから、再検査を受けに来た100人のうち、乳がんが発見されるのはおおよそで3~4人ということがわかります。
疑わしきは要精密検査
なぜ乳がん検診の的中率(要精密検査と言われた人のうち、乳がんだった人の割合)は低いのでしょうか?
検診では、少しでもがんの疑いがあれば「要精密検査」という通知をします。
そのため良性のシコリや、石灰化がマンモグラフィに写る人は、検診のたびに「要精査」と診断される可能性が高くなります。
不安のあまり精密検査を受けに行けない、家事や仕事のことを考えて二の足を踏んでしまっては検診を受けた意味がありません。
シコリやその他の異常があっても良性のケースもあります。
乳がんと診断されても早期治療によって十分完治が可能です。
要精査と通知がきたら、早めに乳腺科を受診してください。
乳がんの検診から手術・治療の開始まで
「要精査」という結果だった場合は、早めに乳腺科を受診しましょう。
このとき最初に行われるのがマンモグラフィやエコーの再検査です。
結果に応じて組織生検または細胞生検が行われます。
生検はしこりの細胞や組織の一部、場合によっては全体を取り出し、顕微鏡検査=病理検査で、がんかどうかの診断を行います。
病理検査には次の3種類があります。
- 細胞診
- 組織診
- 摘出生検
細い注射針を刺してそこにある細胞を採取するのが「細胞診」、組織を糸みみずくらいの細さで採取するのが「組織診」、疑わしい部分を全部または一部ぐるりと取って調べるのが「摘出生検」です。
乳頭からの分泌物があるときは分泌物をその部分をガラスの板などでこすって採取して細胞の検査をすることもあります。
乳がんと診断されてショックを受けない人はいません。
なかには何も手につかなくなったり、
「どうしてがんになってしまったのだろう」
「もっと早く検査を受けていればよかったの?」
「これからどうすればいいのだろう」
とあれこれ考えてばかりで、なかなか治療に取りかかれない人も。
しかし、それでも乳がんは進行していきます。
診断を受けたら医師と相談のうえ、すみやかにしっかりと治療を受けてください。
治療内容に納得・信頼できる環境を
大切なのは医師から受けた治療方針を納得したうえで治療を開始することです。
治療にはどうしても苦痛を伴うことが多く、不安や疑問を抱えたままでは治療を続けていくのが困難になりやすいからです。
本やインターネットで乳がんについて調べる人もいらっしゃいますが、治療方針を決める段階で情報を集めすぎるのは、かえって不安や疑問が増えるだけです。
たとえばその人の乳がんはホルモン治療が有効ではないのに、ホルモンのことを中心に調べても意味がありません。
また、再発すらしていない段階の、これから治療が始まる前に再発の心配ばかりでは取り越し苦労になってしまいます。
乳がんを発症、治療して、その後元気に過ごしている“乳がんサバイバー”の方がたくさんいらっしゃいます。
手術後に結婚や出産をした方もいらっしゃいます。
そのためにも「何でも相談できる」「治療内容に納得、信頼できる」環境で治療をスタートさせてください。
病理検査とは~①細胞診②組織診③摘出生検
次に、病理検査の内容について詳しく見ていきましょう。
- 細胞診
- 組織診
- 摘出生検
細胞診
シコリの部分に細い注射針(0.7ml)を刺して細胞を採取、顕微鏡で調べます。
細胞診ではシコリをつくっている細胞を吸引するので、シコリのサンプルはバラバラに取れる状態です。
がんの種類によっては、細胞が採取しにくいものもあります。細胞が採取できなかった場合や、最初から細胞が採取しにくいタイプのがんが疑われる時は組織診という方法を選択します。
※良性のシコリの場合、この粒々が取れないことも多いため、画像上で良性と判断できるならば、組織診に進まない場合があります。
一般に麻酔をしないで行うため、針を刺したときに少し痛みを伴いますが、採血や注射と同じ程度で、約1週間で検査の結果が出ます。
組織診
細胞診で判断がつかない、または細胞が取りにくい場合、悪性の疑いが高い場合などに行います。
局所麻酔を行いボールペンの芯くらいの針を刺し、組織を採取します。
この組織診は診断がつく確率が9割以上と高いため、最近では組織診で診断をするケースが増えてきています。
また、手術前にがんの性質や性格がある程度把握できるため、今後の治療計画が立てやすいというメリットもあります。
検査の時間は人によりますが、だいたい10分ほどで、結果が出るまでに約10日~2週間かかります。
太い針を刺すため出血や青あざになったり、少し腫れる場合がありますが、数日で落ち着いてきます。
※検査を受けた日は入浴や飲酒、激しい運動はひかえてください。
摘出生検
シコリがある位置が乳房の薄い場所や深い場所の場合、組織診が困難なケースがあります。また、がんの種類によっては、肺生検でとれる組織の量では診断が難しい場合もあります。
このような場合は局所麻酔をして、シコリそのものを採取して検査します。
もし結果が乳がんの場合は追加でシコリの周辺、リンパ節を取る手術が後日必要になります。
摘出というと不安を感じる人もいらっしゃいますが、これは良性のものを不必要に大きく取り除かないというメリットがあります。
組織診でみる「乳がんの性質・性格による分類」
乳がんのシコリそのものの性質・性格はおもに「病理検査」と呼ばれる顕微鏡検査で調べます。
病理検査では乳がんかどうか自体の診断のほか、次のことも調べています。
- 悪性度
- 女性ホルモン反応性
- HER2
- 脈管侵襲
- Ki-67(MIB-1)
悪性度
- どのくらいがん細胞が正常な細胞に比べて悪い顔つきをしているか
- どのくらい分裂して増えるスピードが速いか(分裂速度)
これらを判定してそれぞれ点数を付けて、合計点によって悪性度をグレード1~3に分類します。
グレード1は低悪性度、グレード2は中等度悪性度、グレード3は高悪性度に分類され、数値が大きいほど転移や再発の危険性が高くなります。
女性ホルモン反応性
乳がんにはエストロゲン・プロゲステロンの女性ホルモンの影響を受けて成長するがんと、そうでないものがあります。
ホルモンの影響を受けて増殖するがんのタイプを「女性ホルモン反応性」と呼びます。
「女性ホルモン反応性」のがんは、女性ホルモンを減らす、または女性ホルモンの働きを被害する治療が有効であるため、このタイプのがんであるかどうかを調べます。
ホルモン治療にはいくつか種類がありますが、月経の有無により適切な薬剤が異なるため、必ず月経の状況を確認する必要があります。
HER2
タンパクが乳がんのがん細胞に多く出ているタイプの乳がん(HER2陽性乳がん)では、がん細胞の増殖にこれらHER2が大きく関わっています。
※HER2=Human Epidermal growth factor receptor2ヒト表皮成長因子受容体2型という、がん細胞の表面にあるタンパク質。
乳がん患者の4人に1人の割合で、このタンパク質が存在し、がんの増殖を促していると考えられています。
このタイプの乳がんである場合、HER2の働きを抑制する分子標的治療薬が有効な可能性があります。
HER2が過剰に発現している乳がんにはハーセプチン(トラスツズマブ)という分子標的治療薬が用いられることがあります。
ハーセプチンにはHER2タンパクに結合して、がん細胞の増殖を抑制する効果があります。
脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう)
血液やリンパ液が流れる管のことを総称して脈管といいますが、顕微鏡でしか見えないような細い血管やリンパ管の中にがん細胞が入り込んでいるかどうかを調べます。
乳がんが肺や骨、肝臓などの臓器に転移するとき、がん細胞が脈管を通るため、脈管内部にがん細胞がたくさん見られる場合は、転移・再発の可能性が高いと考えられます。
Ki-67(MIB-1)
細胞が増殖する力がどのくらいかを判定する目安をいいます(増殖能が強いほど再発の可能性が高い)。
Ki-67は乳がんの治療方針を決めるとき参考にする指標のひとつで、免疫染色で調べます。
一般的にKi-67が20~30%以上である場合「高値」と判断します。
Ki-67は「ホルモン反応性あり・HER2陰性乳がん」でホルモン療法に併せて化学療法をするかどうかの方針を決めるための目安のひとつにもなります。
病理検査によって手術・治療方針が決まります
乳がんの治療には、次の3つがあります。
- 手術
- 薬物療法(抗がん剤治療、ホルモン治療、分子標的治療)
- 放射線治療
乳がんの治療では、これらの中からひとつ選択するのではなく、シコリの性質・性格や進行具合によって、それぞれを組み合わせて行う必要があります。
このとき重要になるのが病理検査で、結果を見たうえで再発予防のための今後の治療法が決定します。
たとえば、同じような大きさのシコリで同じような手術を行っても、手術後に行う治療法がホルモン治療だけの人もいれば、抗がん剤も併用するなど、個別に治療法が異なっていきます。
乳がんに関わらず、さまざまな疾病への対策は早期検査、早期発見、早期治療です。
定期検診で要精査の結果が出たときは不安がらず、必ず乳腺科を受診しましょう。