コラム

前立腺癌におけるPSMA-PETを用いたオリゴ転移の発見と放射線治療の有用性

中川 恵一 先生東京大学大学院医学研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授

1985年 東京大学医学部医学科卒業、同年、東京大学医学部放射線医学教室入局
2001年 東京大学医学部附属病院放射線科 准教授
2003年 東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部長(兼任)
2021年 総合放射線腫瘍学講座 特任教授

山本 健太郎 医師宇都宮セントラルクリニック 放射線治療部長

転移を有する癌では薬物療法が標準治療ですが、PET-CTなどの高精度の画像診断でオリゴ転移(5個以内の転移)と診断されれば、定位放射線治療等による局所治療により予後改善が期待できます。特に前立腺癌においては、2024年よりPSMA-PETが実施可能になったことで、従来の画像診断では困難であった転移巣も検出できるようになり、より効果的な治療が実施できるようになりました。今回はオリゴ転移に対する放射線治療について、特にPSMA-PETを活用した前立腺癌の治療に焦点をあてて議論しました。

PSMA-PETによる前立腺癌オリゴ転移の診断と治療予後改善への期待

  • 山本

    オリゴ転移(oligometastases)は、1995年にHellmanらが提唱した概念であり、現在では一般的に5個以内の転移を有する状態と定義されています。本日は、前立腺癌患者におけるPSMA-PETを用いたオリゴ転移の診断と放射線治療について議論させていただきます。

  • 中川

    以前は、転移があるというだけで根治には至らないというのが常識だったと思いますが、最近では診断・治療技術の発展による治療成績の向上がみられますね。

  • 山本

    放射線治療においては、2019年に発表されたSABRCOMET試験が1つの転換点になったと思います。この試験では、18歳以上で原発巣がコントロールされた転移巣1~5個の症例を組み入れました。標準治療単独群と、定位放射線治療を上乗せした群(SABR 群)で全生存期間を比較した結果、SABR 群で有意な延長が認められました。この結果を受け、2020年より5個以内のオリゴ転移に対する定位放射線治療が保険診療として認められました。

  • 中川

    転移巣に対する定位放射線治療を行うとなると、治療すべき病変を見落とさないために正確な診断を行うことが求められます。そういった点で、前立腺癌においてはPSMA-PETを用いた病変の診断が鍵を握るわけですね。

  • 山本

    PSMA-PETの有用性としては、以下の3点が挙げられると思います。
    まず1点目は「診断精度の向上」です。CTや骨シンチ、さらにはFDG-PETでも診断困難な微細な再発病変であっても、PSMA-PETなら高確率で検出可能です。これにより、表1に示すように、多くの症例でより適切な治療方針への変更が可能となっています。
    2点目は「治療成績への寄与」です。術後PSA再発に対する救済照射の第II相試験では、PSMA-PETを実施することで52%の患者で新規病変を同定し、治療強化を行うことで無再発生存期間の延長が示されました。さらに、つい今月の報告となりますが、ホルモン感受性癌のオリゴ転移に対し定位放射線治療を行うことで、去勢抵抗性前立腺癌への進行期間を延長できる可能性が示唆されました。これは局所制御のみならず、病勢進行そのものを遅らせるという意味で、極めて重要な知見です。3点目は「安全性と患者負担の軽減」です。従来のCT+骨シンチにおける被曝量が約19.2mSvであるのに対し、CT+PSMA-PET では約8.4mSvと半分以下に低減されます。この点は、患者さんの被曝に対する不安を和らげる上で大きなメリットになると考えます。

     

  • 中川

    見えない病変を可視化できるという意義は大きいと思います。ただ、PSMA-PET の保険適用については、現状177Lu-PSMA標的治療の適格性判定に用いる場合のみが対象となり、オリゴ転移の診断目的では算定できません。患者さんの費用負担を考えると悩ましいです。それでも、PSMA-PETによりオリゴ転移とわかれば、薬物療法のみならず転移巣に対し放射線治療を実施するという選択肢も生まれるため、患者さんにとってのメリットは大きいと考えます。

症例提示 ―PSMA-PET によるオリゴ転移の同定と局所療法―

  • 山本

    当院では、PSMA-PETにより病変を同定して放射線治療へ繋げられた症例を複数経験しています。ここからは、それらの症例について議論したいと思います。最初の症例は、低リスクの前立腺癌でしたが、患者さんの強い希望によりPSMA-PETを施行したケースです。私も驚きましたが、PSMA-PETでは図1に示す通り、FDG-PETでは指摘し得なかった左腸骨転移が明瞭に描出されました。左腸骨にはサイバーナイフ、前立腺にはトモセラピーで照射し、その後治療前に認めた集積は消失しています。

     

  • 中川

    たしかにFDG-PETの画像では判別できないですが、PSMA-PETでは左腸骨の転移巣がはっきりと分かりますね。早期に腸骨転移を見つけられて治療できたのはよかったと思います。

  • 山本

    続いては、PSAのコントロールに難渋した症例です。過去に手術、PSA再発で放射線治療、その後内分泌療法と手を尽くしましたが、休薬と再開を経て、最終的にPSAが 6 ng/mLまで上昇してしまいました。ここでPSMA-PETによる評価を行った結果が図2です。従来の画像では捉えきれなかった胸椎・腰椎・左腸骨という3箇所のオリゴ転移が明らかになりました。サイバーナイフで脊髄を回避し定位照射を行った結果、半年後にはPSA 2ng/mL以下まで低下し、再制御に成功しています。

     

  • 中川

    放射線治療において、正常組織を守りつつ病変に線量を集中させることは極めて重要です。本症例は、PSMA-PETによる正確な病変描出に加え、サイバーナイフにより脊髄を回避した高精度な照射を完遂できた点が非常に素晴らしいと思います。

  • 山本

    次は、全身療法により多発転移をオリゴ転移へ転換(Induced oligometastases)させ、放射線治療を行った症例です。本症例は転移性去勢抵抗性前立腺癌に対し、当時国内未承認であったPSMA標的治療を海外で受けられました。治療後、PSMA-PET で4ヵ所の骨転移残存を確認したため、サイバーナイフで定位放射線治療を施行しました(図3)。その結果、照射前 10 ng/mL 超であったPSA は、3ヵ月後には 0.5 ng/mLへと劇的に低下しました。

     

  • 中川

    いよいよ今月(昨年11月)、本邦でもPSMA 陽性転移性去勢抵抗性前立腺癌に対する治療薬が承認されました。今後は薬物療法抵抗性の残存病変に対し、局所療法としての放射線治療を併用するシークエンスが、重要な選択肢になると期待されます。

  • 山本

    最後の症例は、前立腺癌術後PSA再発で、副作用の懸念から内分泌療法や前立腺床への放射線治療を強く拒否された患者さんです。PSMA-PETを施行したところ、前立腺床に集積はなく、頸椎にのみ単発の集積を認めました(図4)。この部位に対しピンポイントで定位照射を行った結果、PSAは照射前1.0 ng/mL から、4ヵ月後には 0.1 ng/mLへと速やかに低下しました。

     

  • 中川

    これは非常に示唆に富む症例ですね。前立腺全摘後のPSA 再発に対しては、前立腺のあった場所に癌細胞がいるだろうという推定のもと、前立腺床への救済照射を行うのが一般的です。しかし本症例のように、PSMA-PETを実施することで今までは見えなかった病変の正確な局在診断ができれば、前立腺床への照射を回避できる可能性があり、患者さんのQOL 改善につながります。先ほど触れた通り、診断目的のPSMA-PETは保険適用外であり費用の課題は残りますが、それを補って余りある臨床的意義が、全摘後PSA再発の場面にはあると思います。

  • 山本

    同感です。PSMA-PET で病巣を同定し、オリゴ転移に対しては放射線治療で根治を目指す。このアプローチは、今後の前立腺癌治療において非常に有力な選択肢になると確信しています。

 

参考文献
1) Palma DA, et al. Lancet. 2019;393(10185):2051-2058.
2) Palma DA, et al. J Clin Oncol. 2020;38(25):2830-2838.
3) Belliveau C, et al. JAMA Oncol. 2025 Oct 2:e253746.
4) Sherry AD, et al. Eur Urol. 2025 Nov;88(5):496-509.
5) Hofman MS, et al. Lancet. 2020 Apr;395(10231):1208-1216.
6) Perera M, et al. Eur Urol. 2020 Apr;77(4):403-417
7) Ren J, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2017;44(11):1882-1891.

前立腺がんにおけるPSMA-PET導入でより正確な診断が可能に!

医療法人DIC宇都宮セントラルクリニックは、PSMA-PET検査の導入により、前立腺がん患者様の診断と治療に貢献することを目指しています。

PSMA-PET検査とは

PSMA-PET検査とは、前立腺がんの検出において非常に高い感度と特異度を有する画像診断検査です。前立腺がんの細胞に特異的に発現する「前立腺特異的膜抗原」(PSMA)に親和性を有する薬物に放射線性同位元素を結合した薬剤を投与することにより、従来画像診断ではできなかった転移巣を可視化することが可能となりました。すでに海外では、根治治療後のPSA再発が疑われる場合にPSMA-PET検査が推奨されています。

PSMA-PET検査のメリット

前立腺がん再発の早期発見、ステージング、治療効果判定が可能となり、適切な治療方針の策定に寄与します。前立腺がんの患者様にとって治療の選択肢が広がり、個々の患者様にあった治療アプローチの選択が可能となります。PSMA-PETは、高リスク疾患の初期ステージングから転移性去勢抵抗性前立腺がんまで臨床経過のさまざまな時点で有用であり、 従来の画像診断と比較して患者の治療に影響を与えることが示されています。