地域ニーズを満たす泌尿器科と放射線科の診療連携を実現する
坂田浩一先生
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中川恵一先生
少子高齢化と人口減少の進展は地方においてより深刻で、医療は提供体制、通院手段ともに多大な影響を受けています。
日光市も例外ではありませんが、今市病院 泌尿器科と宇都宮セントラルクリニック(UCC)の間に診療連携体制が構築されつつあり、前立腺がん診療において状況が改善し始めたようです。
今回は、今市病院泌尿器科部長の坂田浩一先生を訪ね、前立腺がんの患者さんに実践されてる診療連携についてお話を伺いました。インタビュアーは中川恵一先生に務めていただきました。
坂田浩一 先生社団医療法人 明倫会 理事 今市病院 副院長 泌尿器科部長
1992年佐賀医科大学(現佐賀大学)卒。自治医科大学泌尿器科に入局し、テストステロンと前立腺がん・性機能障害の研究をしながら11年の勤務を経て、2003年に今市病院に赴任。長年に渡り日光市のがん診療を支えている。
中川恵一 先生東京大学医学部附属病院 放射線治療部門長
1985年東京大学医学部卒。同年東京大学医学部放射線医学教室入局。1989年スイスPaul Sherrer
Institute客員研究員。2002年東京大学医学部附属病院放射線科准教授。2003年東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。2018年より非常勤医として宇都宮セントラルクリニックで診療を行う。
日光市の人口動態と医療提供体制上の課題
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中川
坂田先生と最初にお会いしたのは2年ほど前のことですが、今市病院に赴任されて17年になるんですね。
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坂田
群馬県出身で大学卒業後、若いうちから様々な経験を積める環境に惹かれ自治医大に入局しました。その後、脊髄損傷、恐らくAVMが原因ですが、下半身が不自由となりました。しかし、第一線で臨床を続けたいと考えていたところ、今市病院に招聘してもらい今に至っています。
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中川
先生が日光医療圏を支えられていることは、紹介いただいた患者さんがみなさん口を揃えておっしゃいます。
さて、日本中で人口高齢化の問題が採り上げられています。日光市の状況はいかがですか。
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坂田
高齢化に加え、若い人を中心とした人口減少も深刻です。高齢者は自力で医療機関まで行くことができず、家族は遠方に住んでいるために通院のサポートが難しいという状況です。いわゆる老々介護が増えていますし、中には認知症患者が認知症患者の面倒をみざるを得ない認々介護の家庭もあります。この地域では、医療提供体制の不備と介護サービスのあり方の双方が課題となっています。
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中川
訪問診療や訪問看護のニーズが高いということですね。
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坂田
そうです。当院では、退院して在宅療養されている患者さんも含めて、訪問診療と訪問看護を行っています。治療を受けてもらいたいけれども、患者さんの方に通院の足がないからこちらから行くしかありません。
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中川
伺ったところによれば、つい先頃まで日光市の常勤泌尿器科専門医は坂田先生お一人だったとか。
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坂田
高齢化が進んで泌尿器科領域の疾患は整形外科と並んで増加しているのですが、ご指摘の通りの状況が最近まで続いていました。検診でPSAが高いことがわかると、遠方であっても今市病院に行きなさいと紹介されてきます。生検をして前立腺がんだと診断されたとして、遠方に居住している患者さんですから、治療をどこで行えばいいのかということが問題になってしまいます。また、医師だけでなく、検査機器も不足しています。日光市にはガンマカメラ装置を備えている施設がないので、骨シンチグラフィを撮ろうとすると宇都宮市内の病院か大学病院まで行ってもらうことになります。
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中川
それは患者さんにとって負担となりますね。UCCは、デジタルフォトンカウンティング技術を搭載した最新鋭のPET/CT装置を2019年の6月に導入しましたので、是非、活用してください。このデジタルPET/CT装置があれば、骨シンチグラフィは不要です。
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坂田
確かにPET/CTではリンパ節の転移有無まで確認できるのも魅力です、是非、活用させてください。
前立腺がん診療の現状と将来展望
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中川
話は変わりますが、PSA検診についてはどのようなお考えをお持ちですか。
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坂田
過剰診断の問題など、いろいろと議論のあることは承知しているのですが、泌尿器科医としてはPSA検診の重要性を主張したいですね。やはり、早期に発見して早期に介入すれば良好なアウトカムを得られる確率が上がりますから。ただ、カットオフ値を一律に設定するのはおかしく、年齢階層別に設けるべき
ですし、実際、前立腺がん検診ガイドライン2018年版1)には具体的な推奨値が提示されています。PSAの値は高齢の方でも理解できるというか興味があるようで、上がると残念がって、下がると嬉しがるのです。 -
中川
患者さんのPSA値に対する反応は容易に想像できますね。ホルモン療法についてのお考えはいかがですか。
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坂田
ホルモン療法は有効なのですが、長期に亘ると骨脆弱化、筋力低下、サルコペニア/フレイル、認知機能低下など、いろいろな問題が出てきます。こればかりに頼っているのはよくないとわかっていますし、ホルモン間欠療法と放射線治療を併用できればと考えています。ただ、ガイドライン上の適応を考えるとなかなか。
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中川
ガイドラインを遵守することも大事だと思いますが、新しいエビデンスが次々に出てきますし、それに基づいて改訂もされていきます。レベルの高いエビデンスがあるのであれば、目の前の患者さんの個別性を判断し、その方に合った治療法を臨機応変に選択することの方が重要だと思います。
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坂田
今、注目されているのは前立腺がんにおけるoligometastaticな病態です。
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中川
がん種に応じた方法を選択するということですね。同じホルモン依存性腫瘍でも、前立腺がんと乳がんでは腫瘍の振る舞いが全く異なりますから。
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坂田
ただ、放射線治療を行うとなると1ヵ月以上、連日通院しなければならないという状況がありました。中川先生からUCCの放射線治療のお話を伺う以前のことですが、通院期間の話をすると放射線治療は無理と言われて、多くの患者さんがホルモン療法単独という選択をされていました。
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中川
確かに、従前は70Gy以上の放射線量が推奨されていて、これを40回程度に分割照射する方法が採られてきました。UCCでは、CHHiP試験2)の結果も踏まえ、限局性前立腺がん患者さんに対し、60Gy/20回照射というプロトコルでのIMRTを基本としており、定位放射線治療装置(サイバーナイフ)を使った5回照射というオプションも用意しています。坂田先生からご紹介いただいた患者さんで、UCCの協力医療機関に入院しながらIMRTを施行した方に、「20回の照射は大変でしたか」と聴いてみたところ、「いいえ、全然、苦じゃありませんでした」とおっしゃっていました。
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坂田
私のところでMRIを撮って生検し、前立腺がんの診断がついた段階で患者さんをUCCに紹介するということでもいいのでしょうか。
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中川
UCCでは、先生から紹介された患者さんにデジタルPET/CT装置を使った検査を行います。その結果とご提供いただいたデータを評価し、考えられるすべての治療法についての情報を伝え、通院などの患者さん側の事情を考慮して選んでいただくことになります。放射線治療を選択された患者さんは、その後のフォローを坂田先生にお願いするということになります。
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坂田
従来に比べ、放射線治療に対するハードルがぐっと下がり、合併症リスクが低くPSAも改善、さらに、長期ホルモン療法による有害事象のリスクが軽減できる可能性が高まるということですね。
地域ニーズに応える泌尿器科と放射線科の診療連携を実現する
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中川
UCCが、サイバーナイフと強度変調放射線治療装置(トモセラピー)を備えた放射線治療センターを開設したのが2018年4月です。サイバーナイフは、主として転移性脳腫瘍、手術不能早期肺がん、そして、前立腺がんに使用しています。トモセラピーは360°の方向から腫瘍に放射線を連続かつ集中照射する装置で、頭頸部がん、進行肺がん、そして、前立腺がんを対象としています。
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坂田
UCCには治療期間を短縮するための選択肢が複数用意されていて、患者さんは皆さん喜ばれます。特に、今は新型コロナウイルス感染症の関係で、通院回数を極力減らしたいというニーズが高まっています。また、冒頭で申し上げた地域事情を反映し、当院が訪問診療を行っている関係で他の病院から終末期患者さんを診てほしいという依頼が多く寄せられます。前立腺がんの終末期には、原発巣が腫大し膀胱に浸潤して血尿が生じます。その際、放射線照射を行うと出血がいったん止まりますので、その間に患者さんを帰して自宅で過ごす機会を提供してあげたいのです。そのようなニーズもあるので、UCCにその際の放射線照射をお願いできればと考えています。
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中川
歓迎します。
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坂田
将来的には、日光市医療圏での前立腺がん診療におけるUCCとの連携がさらに進展していくことを期待していますので、よろしくお願いいたします。
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中川
患者さんのニーズ、地域ニーズに応える泌尿器科と放射線科の診療連携を、坂田先生とUCCによりこの日光市医療圏で実現したいですね。本日はありがとうございました。
【参考】
1) 日本泌尿器科学会編 . 前立腺がん検診ガイドライン 2018年版, p72-74, 大阪, 株式会社メディカルレビュー社
2) Dearnaley D, et al. Lancet Oncol 2016; 17(8): 1047-1060