コラム

すべての医師に知っていただきたい緩和的放射線治療 前編 ~早期の治療開始による症状緩和がQOL向上につながる~

山本健太郎 医師放射線治療 部長

2003年防衛医科大学校卒。2007年より自衛隊中央病院及び東京大学医学部附属病院で放射線治療学の研修及び研究を開始。2015年東京大学医学部医学研究科卒業後、自衛隊中央病院放射線科放射線治療医長。
2018年帝京大学医学部附属病院放射線科講師、2019年国際医療福祉大学三田病院放射線科准教授を経て、2020年より現職。

がんと診断された後は、患者さんのQOL維持・改善のために、早い段階から緩和ケアを始めることが重要です。特に進行がんでは、腫瘍による柊痛や通過障害などに悩まされる患者さんは多く、これらの症状改善に放射線治療が有効であるケースがあります。一般的に、痛みをはじめとする身体症状の改善やQOLの向上を目的として行われる放射線治療のことを「緩和的放射線治療」といいます(図1)。今回は前後編の2回に分け、この緩和的放射線治療について自験例を提示しつつ解説します。前編では、骨転移による疼痛、転移性脊髄圧迫、腫揚による狭窄・閉塞症状に対する放射線治療を取り上げます。

取材内容をもとに作成

緩和的放射線治療の実際

骨転移による疼痛緩和目的の外照射

・痛みが再燃した場合でも再照射が可能な場合があります

まず、骨転移による疼痛の緩和です。麻薬性鎖痛薬(オピオイド)を処方されていても疼痛が改善しない場合は緩和的放射線治療が勧められます。 2022年12月に発刊された『骨転移診療ガイドライン改訂第2版』(以下、骨転移診療GL)1)では、病的骨折や脊髄圧迫を伴わない骨転移の痛みに対する緩和的放射線治療の効果に関するランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスの結果が記載されています。その結果によると、痛みが緩和した症例の割合は61〜62%、痛みが消失した症例の割合は23〜24%でした2)。また、疼痛緩和効果は、おおむね照射2〜3週間後から現れはじめ、持続期間は約3〜6ヵ月といわれています。薬物療法と違い即効性はありませんが、照射による除痛効果は比較的長期間にわたり保たれることがメリットと思います。特に、麻薬性鎮痛薬を増量された患者さんでは便秘などの副作用で悩まれる方が多いですが、照射により痛みが改善することで鎮痛薬の減量が可能となり、QOL改善が期待できることがあります。

なお、照射後に疼痛が再燃した場合、同一 部位に対する再照射はできないと思われがちですが、照射した周囲正常組織の耐容線量に余裕がある場合には再照射ができることがあります。今回改訂された骨転移診療GL1)にも、新たにこの再照射の有用性が記載されました2-4)。特に、近年では薬物療法の進歩により、転移ありと診断されても長期生存される患者さんが増えており、緩和照射後の疼痛再燃例を診る機会が増えているように思います。照射後に疼痛が再燃して、お困りの患者さんがいましたら、お気軽にお問い合わせいただけますと幸いです〔※他院で照射されている患者さんの場合、照射可否の判断のために線量・照射範囲などが記載された資料(照射録)が必要となります〕。

・単回照射で患者さんの通院負担を軽減

緩和照射では1回線量3グレイ×10回のスケジュールで実施されることが多いですが、患者さんのなかには、この10回の治療でも負担に感じるほど全身状態が悪い方もいらっしゃいます。このような患者さんでは、1回に照射する放射線の量を増やして照射回数を減らすことで、通院負担を軽減できます。例えば、骨転移に対する照射では、3グレイ×10回、4グレイ×5回、8グレイ×1回などのスケジュールが検討されますが、いずれも疼痛緩和効果は同等であることが示されています。全身状態が悪い患者さんや予後が短いことが予測される患者さんでは、単回照射により早く治療を終了し、症状の改善を得ることができます。

転移性脊髄圧迫による麻痺発生リスクが懸念される場合は早期の治療介入を

脊椎転移例では、ときに腫瘍が脊柱管内に進展し、脊髄や椎間孔を圧排している所見をみることがあります。このような例では、診察時に麻痺やしびれなどの症状がなくても将来的に麻痺が出現し、両下肢が動かなくなってしまうリスクが高い状態と考えられます。

転移性脊髄圧迫に対しては早期の治療介入が重要で、歩行可能な状態で放射線治療が実施できた例では、約9割が歩行機能を維持できていたのに対し、完全麻痺に陥ってから治療介入した場合には約1割の患者さんしか歩行機能を維持できなかったとする報告があります5) 。全身状態が比較的よく3ヵ月以上の期待予後が見込める場合は除圧術、手術が難しい場合は放射線治療が考慮されますが、治療方針は複数の診療科で議論したうえで決定されることが望ましいです(図2)。

また、麻痺を発症してからの治療介入のGolden Hourは48時間とされています。効果的な治療の時期を逸しないためにも、患者さんには、急に手足がしびれて動かしにくくなった、便意・尿意を感じず排泄困難になったといったような症状が出現した場合にはすぐ受診していただくよう、あらかじめ説明し、理解していただくことも重要だと思います。

腫瘍による狭窄・閉塞症状の改善

・無気肺が改善してストレッチャー 搬送と在宅酸素療法が不要に

腫瘍による気道狭窄や閉塞による呼吸困難が放射線治療により改善した例を提示します。この患者さんは当院来院時、肺門部肺がんのため、主気管支が完全に閉塞し、右肺は完全無気肺の状態でした。このため、在宅酸素療法を余儀なくされ、ADLも自力歩行不能となっていました。無気肺の原因となっている肺門部腫揚に対し放射線治療を行ったところ、1ヵ月後には無気肺が改善し、ストレッチャー搬送や在宅酸素療法が不要となり、独歩で楽に通院できるようになりました(図3)。

1)日本臨床腫瘍学会編. 骨転移診療ガイドライン. 南江堂. 2022年12月.
2)Rich SE, et al. Radiother Oncol. 2018; 126(3): 547-557.
3)Wu JS, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2003; 55(3): 594-605.
4)Chow E, et al. Clin Oncol (R Coll Radiol). 2012; 24(2): 112-24.
5)Loblaw DA, et al. J Clin Oncol. 2005; 23(9): 2028-37.

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