コラム

前立腺がんにおけるPSMA-PET検査の有用性

中川 恵一先生東京大学大学院医学研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授

1985年 東京大学医学部医学科卒業、同年、東京大学医学部放射線医学教室入局
2001年 東京大学医学部附属病院放射線科 准教授
2003年 東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部部長(兼任)
2021年 総合放射線腫瘍講座 特任教授

藤村 哲也 先生自治医科大学 腎泌尿器外科学講座泌尿器科 教授

1995年 山梨大学医学部医学科卒
2016年 東京大学大学院 泌尿器外科学 准教授
2018年 国立国際医療研究センター診療科長
2018年 自治医科大学 腎泌尿器外科学講座 教授

前立腺がんは日本人男性にみられるがんのトップで、男性の9人に1人が罹患するといわれています。前立腺がんは骨やリンパ節に転移しやすく、その診断には骨シンチグラフィーやMRI、FDG-PET検査などが行われますが、遠隔転移の特定が困難であるケースがしばしばあります。前立腺がんの診断や遠隔転移の検出に、従来の方法よりも検出精度が高い画期的なPSMA-PET検査が導入されました。このPSMA-PET検査について、自治医科大学の藤村哲也先生を交えて、意見を交わしました。

PSMA-PET検査について

  • 中川

    宇都宮セントラルクリニックでは、2024年4月1日に前立腺がんの診断にPSMA-PET検査を導入しました。まず、PSMAPET検査がなぜ画期的な診断方法であるといわれていますが、その理由をお話いただけますか?

  • 藤村

    PSMA-PET検査で前立腺がん細胞を検出するのに用いられるPSMAは、「前立腺特異的膜抗原」と呼ばれる、前立腺の表面に存在するタンパク質です。前立腺がんでは、このPSMAが過剰に発現しています。そこで、このタンパク質に結合する分子を放射性物質(68Ga)で標識した薬剤(放射性薬剤)を注射してPET画像を撮ると、小さながんであっても従来の方法よりも高精度に検出できます。欧米ではガイドラインにも記載されている検査方法で、非常に注目されています。

  • 中川

    PSMA-PET検査では、注射する薬剤を変えるだけでFDG-PET検査と同じPET装置を使用できることは面白いですね。

  • 藤村

    FDG-PET検査と同じPET装置を使用できるため、使用感も変わりません。それなのに得られる画像はFDG-PET検査とは比べものにならないくらい精度の高い画像が得られるため、前立腺がん再発の早期発見に寄与し、病期判定や治療効果判定にも役立ちますので、より適切な治療計画を立てることが可能になると考えます。

PSMA-PET検査とFDG-PET検査の違い

  • 中川

    PSMA-PET検査ではFDG-PET検査とは比べものにならないくらい精度の高い画像が得られるということですが、その理由としてPSMA-PET検査とFDG-PET検査の大きな違いを1つ挙げるとするなら、藤村先生はどのような点を挙げますか?

  • 藤村

    一番の大きな違いとして、PSMAが前立腺特異的であるという点を挙げたいと思います。FDGは、グルコースと同様にグルコーストランスポーターを介して細胞内に取り込まれるため、正常細胞よりも多くグルコースを取り込むがん細胞では正常細胞よりも集積が多くなります。しかし、正常細胞での生理的集積や炎症細胞での取り込みがありますので、擬陽性が多いという印象があります。一方で、PSMAは前立腺特異的であるため、前立腺がんに特化した診断の精度が高くなります。

  • 中川

    PSMA-PET検査とFDG-PET検査で得られた以下の画像を比較してみると、PSMA-PET検査では特に転移巣の描出が優れていますね(図1)。

     

PSMA-PETを用いた転移巣の検出

  • 中川

    転移巣の描出が優れているPSMA-PET検査を用いると、前立腺がんの病期判定、特に転移の有無に左右されるM stagingの判定に役立つと考えられますが、この点についてはいかがでしょうか?

  • 藤村

    そうですね、PSMA-PET検査とFDG-PET検査で得られた以下の画像を比較してみると、とくに骨転移巣の描出能の差は一目瞭然です(図2)。また、骨シンチグラフィーの結果が骨転移陰性または判定不能であった患者さんでもPSMA-PET検査により骨転移を検出できたという報告1)もありますし、骨シンチグラフィーでは検出できなかった頸椎病変がPSMA-PET検査により検出できたという報告2)もあります。ですので、骨転移の検出能に優れたPSMA-PET検査は、中川先生がおっしゃるように、前立腺がんの病期判定に有用であると考えます。

     

PSMA-PET検査の臨床応用

CASE.1 放射線治療後の再発部位の特定が可能となったケース

  • 藤村

    実際にPSMA-PETを使用して、有用だったと考えられる患者さんのデータをいくつか紹介いただけますか?

  • 中川

    それでは、最初に放射線治療後の再発部位の特定が可能となった70代の前立腺がんのケースを紹介します。診断時のPSAは13ng/mL、グリーソンスコアは4でした。放射線治療を行う前のMR画像とIMRT線量分布は図3に示すとおりです。3週間かけて、均等分割照射(40Gy/20f)を行いました。その後、PSAは1.4ng/mLにまで低下しました。しかし、その1年後のフォローアップでは、PSAが5.51、さらにその半年後には8.15ng/mLと上昇する傾向がみられました。その時のMRIとFDG-PET 検査では、明らかな再発の所見は確認できませんでした。

  • 藤村

    PSAが上昇している傾向があるということは、再発または遠隔転移が生じている可能性を疑いたいです。

  • 中川

    そうなんです。そこで、PSMA-PET 検査を実施しました。すると、図4に示すように、PSMA-PET画像では明らかな再発部位を特定することができました。

  • 藤村

    FDG-PET画像と比べると、鮮明に描写されていますね。

CASE.2 手術+放射線治療後の再発部位の特定が可能となったケース

  • 中川

    つづいて、手術+放射線治療後の再発部位の特定が可能となった60代の前立腺がんのケースを紹介します。術前MR画像で膀胱頚部浸潤への浸潤を認め(図5)、病期はpT4N0 (両側精嚢浸潤、膀胱浸潤、断端陽性、神経周囲浸潤あり)でした。手術から1年後に、前立腺床部に6週間かけて均等分割照射(66Gy/33f)を行いました。IMRT線量分布は図5に示すとおりです。放射線治療を終えて2年が経過する頃までのPSAは0.1 ng/mL 以下を維持していましたが、3年が経過した頃に0.98ng/mLへと上昇してきました。そこで、ダロルタミドを用いたホルモン療法を開始しました。

  • 藤村

    薬物療法を開始した後、PSAに変化はありましたか?

  • 中川

    反応性は良好で、投与開始から1か月後にはPSAが0.17ng/mLにまで低下しました。しかし、それから半年後には0.33ng/mL、1年後には0.98ng/mLと、上昇する傾向がみられました。その3か月後には1.31ng/mLに上昇したため、FDG-PET検査を実施したのですが、得られた画像からは明らかな再発の所見は確認できませんでした。しかし、PSMA-PET検査を実施すると、得られた画像からは明らかな骨転移(  9)の存在を特定することができました。そこで、骨転移に対して定位放射線治療を行いました。

PSMA-PET検査による診断と治療選択

  • 藤村

    中川先生が紹介くださったケースを見ても、遠隔転移までも含めた明らかな再発・転移を鮮明に描写できるPSMA-PET検査は、治療方針を検討する上で非常に有用かと思います。

  • 中川

    局所に限定されない転移の存在が明らかになると、ホルモン療法に化学療法を併用することを検討しますし、骨転移が認められた場合には骨転移治療も検討する必要があります。治療法を選択するにあたって、PSMA-PET検査を用いた転移の有無の確認は重要と考えます。

  • 藤村

    薬物治療といえば、昨今の医療用医薬品の供給不足の問題がありますね。前立腺がんに対するタキサン系抗癌剤、カバジタキセルの出荷停止により治療機会を失った患者さんがいたことは記憶に新しいです。

  • 中川

    機会損失という意味では、PSMA-PET検査は保険適応とはならず、全額が患者さんの負担になってしまいます。高額な検査方法となってしまうため躊躇する患者さんもいらっしゃいます。1日でも早く、保険適応となることが望まれます。藤村先生、本日は有意義な議論をありがとうございました。

前立腺がんにおけるPSMA-PET導入でより正確な診断が可能に!

医療法人DIC宇都宮セントラルクリニックは、PSMA-PET検査の導入により、前立腺がん患者様の診断と治療に貢献することを目指しています。

PSMA-PET検査とは

PSMA-PET検査とは、前立腺がんの検出において非常に高い感度と特異度を有する画像診断検査です。前立腺がんの細胞に特異的に発現する「前立腺特異的膜抗原」(PSMA)に親和性を有する薬物に放射線性同位元素を結合されたのを投与することにより、従来画像診断ではできなかった転移巣を可視化が可能となりました。すでに海外では、根治治療後のPSA再発が疑われる場合にPSMA-PET検査が推奨されています。

PSMA-PET検査のメリット

前立腺がん再発の早期発見、ステージング、治療効果判定が可能となり、適切な治療方針の策定に寄与します。前立腺がんの患者様にとって治療の選択肢が広がり、個々の患者様にあった治療アプローチの選択が可能となりますPSMA-PETは、高リスク疾患の初期ステージングから転移性去勢抵抗性前立腺がんまで臨床経過のさまざまな時点で有用であり、 従来の画像診断と比較して患者の治療に影響を与えることが示されています。

 
 

お問い合わせ CONTACT

お電話でのお問い合わせ

オンライン診療のご予約

完全予約制

完全予約制