原発性・転移性肝がんに対する定位放射線治療という選択肢
山本健太郎 医師宇都宮セントラルクリニック 放射線治療 部長
増田典弘 先生独立行政法人 国立病院機構(NHO) 宇都宮病院 副院長
1994年群馬大学医学部卒。
群馬大学医学部附属病院第一外科(現在は総合外科学)入局後、群馬大学医学部附属病院や群馬県立がんセンターなどで研鑽を積む。
2004年よりNHO宇都宮病院に統括診療部長として活躍の場を移す。
消化器腹腔鏡下手術に積極的に取り組み、年間数百件の症例をこなす。
肝癌に対する放射線治療は、手術や穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)などが困難な症例に対して有用な選択肢です。
また、近年では照射技術の進歩により、周囲正常肝を温存しつつ病変に対し正確に高線量を照射することが可能になりました。
今回は、多くの消化器癌の治療を経験し、放射線治療にも積極的に取り組まれている増田典弘先生に、肝癌に対する放射線治療の実際について、症例を交えながらお話を伺いました。
NHO宇都宮病院の特徴および宇都宮セントラルクリニックとの連携
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山本
まず始めに、先生のこれまでの御経歴を簡単に教えてください。
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増田
栃木県の足利市で生まれ育ち、群馬大学医学部を卒業後は群馬県立がんセンターや大学病院などで主に食道外科と肝臓移植などの診療に携わってきました。2004年にNHO宇都宮病院に着任し、得意としていた腹腔鏡下手術に積極的に取り組み、現在は年間400件の腹腔鏡下手術を行っています。
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山本
HPを拝見したところ、腹腔鏡下での傷を小さくすることを目指した手術をなさるそうですね。
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増田
細径鉗子を開発し、従来よりも切開創の数やサイズを減らした低侵襲のReduced Port Surgeryを導入しています。
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山本
現在、NHO字都宮病院と当院では、PET検査や放射線治療の依頼をいただくなどの連携診療を行っていますが、放射線治療をめぐる当院との連携についてはいかがでしょうか?
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増田
迅速かつ満足のいく対応をしていただけており、助かっています。当院の入院患者さんも宇都宮セントラルクリニック(UCC)に搬送して放射線治療を実施する体制が整えられたことで、当院で入院管理しながら放射線治療を行うことも可能になり、さらに放射線治療が選択しやすくなったと思います。
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山本
放射線治療については、骨転移に対する緩和照射も有用と思います。緩和照射に関しては、2020年の貴院での勉強会において、情報提供をさせていただいたのをきっかけに、貴院から依頼いただく機会が増えました。全身状態が悪い患者さんでも1回の照射で疼痛軽減効果が期待できるため、引き続き緩和治療目的にも放射線治療を活用していただきたいです。
肝癌の治療と金マーカー留置の実際
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山本
次に、NHO宇都宮病院における肝癌の治療実績や治療方針についてお聞かせください。
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増田
当院では転移性肝癌症例がほとんどです。治療の第一選択は切除術ですが、腫瘍が両葉にまたがっている、転移数が多い、下大静脈(WC)に浸潤しているなど切除が困難な症例は術前化学療法後に切除術を行います。当院の術前化学療法のプロトコルではFOLFOXまたはFOLFIRIを行いますが、いずれも肝臓への副作用が問題になります。肝機能障害や、切除術後の肝機能を考慮し、化学療法の適応が厳しいと判断される症例に対しては放射線治療を検討することも必要と考えています。
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山本
サイバーナイフによる定位放射線治療では、正常肝の照射体積および照射線最を大きく低減することが可能なため、肝予備能低下例にも適応できる可能性があります。Child-Pugh分類のGrade Aはもちろん、Grade Bにも安全性に注意しながらであれば適用可能と考えます。Grade Cについては安全性を担保するエビデンスが乏しく、まだ推奨できないのが現状です。
ほかにも肝癌に対する治療選択肢はあるのでしょうか?
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増田
当院ではマイクロターゼ焼灼法も行います。しかしながら、腫瘍中心部だけでなく腫瘍周囲にもマージンをとり焼灼が必要なため、 WCや右肝静脈、中肝静脈といった脈管近傍に腫瘍が位置する場合は焼灼ができず、出血の懸念もあるため切除も困難となります。また、横隔膜下も穿刺ラインが確保できないため、焼灼が困難となります。
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山本
そのような症例では、サイバーナイフがお役に立てると思います。この原発性肝癌の症例では、腫瘍が横隔膜下にあり穿刺局所療法が困難であったため、サイバーナイフによる定位放射線治療を実施しました(図1)。
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増田
この症例は腫揚部位が中央2区域にまたがり切除も困難ですので、定位放射線治療はよい選択でしたね。
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山本
同様にサイバーナイフによる定位放射線治療を行った例を紹介します。この症例は他院で左肺門部肺癌に対し、術前化学放射線療法(40Gy/20fr)後に左肺全摘が施行され、その7年後に左気管支断端に局所再発および肝転移を認め、放射線治療目的に貴院よりご紹介いただきました。PET-CTではこの他に明らかな転移はなくオリゴ転移と考えられました。左気管支断端再発部に対しては照射後であったためトモセラピーで30Gy/10fr、肝転移に対してはサイバーナイフで54Gy/3frの定位放射線治療を実施しました。幸い照射3ヵ月後のPET-CTでは、左肺門部腫瘍、肝転移とも FDG集積は消失しました(図2)。
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増田
状態が良くない症例であったため、定位照射でここまで効果が出たのは驚きました。これらの症例のように、切除が困難である症例には積極的に放射線治療を選択肢として考えてよいかと思います。
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山本
私も同意見です。しかしながら「日本肝臓学会編肝癌診療 ガイドライン2017年版』の肝細胞癌治療選択アルゴリズム中には放射線治療の記載がないため、肝癌を診られる先生方が放射線治療を選択しない大きな要因になっていると思います。
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増田
今後は肝癌の根治治療の選択肢の1つとして放射線治療を検討してもよいのではないでしょうか。抗がん剤・手術・放射線治療すべてを活用し、集学的治療を行うべきと考えます。
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山本
ありがとうございます。なお、サイバーナイフによる肝臓に対する定位放射線治療では、呼吸で移動する腫瘍を透視画像で認識し追尾照射するため、腫瘍周囲に金マーカーを留置する必要があります。
この金マーカー留置を貴院にお願いしていますが(図3)、その実際をお聞かせください。 -
増田
基本的には1泊2日、高齢患者さんの場合は2泊3日の入院で行っています。翌日のCTまたはエコーで腹腔内出血が認められない場合は、そのまま退院となります。
金マーカー留置の手技は肝生検と類似しており、手技自体の難易度は決して高くはありません。
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肝癌に対する放射線治療の展望
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山本
今後の肝癌の放射線治療に対する展望をお聞かせください。
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増田
紹介した症例のように、切除困難な症例には放射線治療が選択肢となるのではないでしょうか。放射線治療で根治照射が可能となれば、患者さんのQOL向上にもつながると思われます。放射線治療の有用性が認知されることにより、外科医のみならず内科医の選択肢にも放射線治療が加わることを願っています。
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山本
非常に有意義なお話をお伺いできました。本日はありがとうございました。
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増田
ありがとうございました。ぜひ多くの医師に放射線治療を有効に使っていただきたいと思います。