代表的な症状

心筋弁膜症

 

 
私たちの心臓は右心房、右心室、左心房、左心室と4つの部屋に分かれており、全身に血液を送り出すポンプの役割をしています。これら4つの部屋は、正しいリズムで収縮し、正しい方向へ血液を送り出しますが、それぞれの部屋に血液が逆流しないように、「弁」という扉を持っています。これらの弁が何らかの原因で扉の役割ができなくなった状態を「弁膜症」と呼びます。
 
右心房と右心室の間には三尖弁、右心室と肺動脈の間には肺動脈弁、左心房と左心室の間には僧帽弁、左心室と大動脈の間には大動脈弁があり、これらが開きにくい状態(狭窄)と閉じにくい状態(閉鎖不全)になります。例えば僧帽弁だと、僧帽弁閉鎖不全症か僧帽弁狭窄症という状態を呈します。それぞれの弁に同じような障害がおこり、色々な症状を表します。全体としては、以下の8通りになります。
 

  1. 大動脈弁狭窄症
  2. 大動脈弁閉鎖不全症
  3. 僧帽弁狭窄症
  4. 僧帽弁閉鎖不全症
  5. 三尖弁狭窄症
  6. 三尖弁閉鎖不全症
  7. 肺動脈弁狭窄症
  8. 肺動脈弁閉鎖不全症

これにくわえ、複数の弁が同時に障害を受けている際には、連合弁膜症と呼ぶこともあります。
 
心臓弁膜症の推計患者数は現在200~300 万人といわれており、高齢化に伴い年々増加しています。その弁膜症の中でも代表的なものが大動脈弁狭窄症です。65 歳以上の2~4%が罹患しており、日本国内の潜在患者数は100 万人に達すると推定されています。弁膜症の中でも、大動脈弁と僧帽弁に異常をきたす場合が多くみられています。

 
4つあるどの弁の障害が出るかで、最終的に現れる症状は違います。初期の頃はどの弁に障害が出てもほとんど無症状ですが、徐々に労作時の息切れ、疲れやすさ、足のむくみなどが出ます。その影響もあって動くことが億劫になり、運動の回数を減らしたり、エレベーターを多く使う機会が増えることがあります。そのように思ったら注意が必要です。
 
特に僧帽弁が障害された場合では、心房細動という不整脈が起こりやすくなるため、脈が飛んだり、動悸を起こすこともあります。

 
古くは、小児期にかかったリウマチ熱を原因とした弁膜症がほとんどでしたが、最近ではほとんど見られなくなりました。そのかわりに、動脈硬化や加齢性変化、虚血性心疾患に伴う弁膜症が増えてきています。また、血液透析を受けられている方では、弁の異常が特に起こりやすいと言われており、注意が必要です。
 
現代の弁膜症ではその原因が様々であるため、どの弁が障害されているかにより発生原因の特定や治療方針の決定が難しくなっています。

 
弁膜症が進行すると心不全をおこしてしまうため、運動時の息切れがひどくなり、例えば少し歩いただけで息が切れて休み休み出ないと歩けなくなります。心不全の重症度は、以下のようなNYHA分類(New York Heart Association Functional Classification:ニューヨーク心臓協会)というものが医療の現場で使用されています。これはニューヨーク心臓協会が定めた心不全の重症度を分類したものです。
 

  1. NYHAⅠ度
    心疾患はあるが、普通の身体活動では症状が出ない
  2. NYHAⅡ度
    普通の身体活動(階段を上る)で症状が出る
  3. NYHAⅢ度
    普通以下の身体活動(平地を歩く)で症状が出る
  4. NYHAⅣ度
    安静にしていても心不全症状や狭心症を起こす

それ以外にも、それぞれの弁特有の症状が出ることもあります。例えば重症の大動脈弁狭窄症の場合であれば、胸痛や失神を起こすことがあり、これらの症状が出始めると余命が数年と診断されることがあります。僧帽弁閉鎖不全症では併発した心房細動の影響を受け、心臓の中に血栓(けっせん:血の塊)ができやすくなります。その血栓が脳に飛び脳梗塞を起こしてしまうこともあります。

心臓弁膜症の治療は、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行います。
 

  1. 薬物療法
    薬物療法の一番の役割は、心臓への負担を軽減し、心不全の発症を抑えることです。そのため、利尿薬や血管を広げる内服薬を複数使用することがあります。また、不整脈も起こしやすく血栓(血の塊)を心臓の中に作りやすいことから、ある一定の基準を満たす方には血を固まりしにくくする抗凝固療法も同時に行います。
  2. 非薬物療法
    非薬物療法は、すなわち手術です。弁膜症に対する手術では、機能しなくなった心臓の弁を手術で取り換える弁置換術や、形をもとに戻す弁形成術が行われます。多くの場合は開心術といって胸の骨を縦に切り開き、心臓を止めて手術する方法がほとんどです。心臓の手術は年間1万件ほど行われていますが、推定患者数と比べるとわずか1%しか手術を受けられていません。
     最近では体への負担を軽減させる方法として、胸を切る大きさを小さくした低侵襲心臓手術(MICS:ミックスと読みます)や手術支援ロボットを用いた心臓手術を行う施設も増えてきています。また大動脈弁の手術では、カテーテルを用いて心臓の弁を交換する経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI:タビと読みます)が行える場合もあります。
  3. 対症療法
    心不全では呼吸苦が出ますので、在宅酸素療法などの方法を用いて酸素を吸い続けなければなりません。自分自身で酸素を取り込むことができなくなれば人工呼吸器を装着することになったり、重症の心不全であれば補助人工心臓を埋め込む手術などが必要になることもあります。

 
これらの弁膜症は虚血性心疾患と同様に、近年ではよく見かける病気になってきました。初期のうちから適切な治療を受ければその後の生活の質を維持することができるため、知らない間に重症化しないよう、定期的な検査を受けることをお薦めします。