代表的な症状

膵臓がん

 

 
膵臓は、私たちの体では胃の裏側に位置する、20cmほどの横に長い臓器です。
血糖をコントロールするインスリンや食物の消化を促進する、「膵液」と呼ばれるとても強い消化酵素を分泌し、栄養吸収を管理する大事な臓器となっています。

また、膵臓は「暗黒の臓器」とも呼ばれ、膵臓に発生した病気はよほど重症にならなければ気づかれることはありません。

このような膵臓に発生する膵臓がんは、膵臓から産生される膵液が通る膵管の細胞から発生した悪性腫瘍のことを指します。
膵臓がんは高齢の男性に多く見られる病気で、膵頭部と呼ばれる場所に多く発生します。

膵臓がんは進行した状態で発見されることが多く、5年生存率は約7%、10年生存率は約5%と他のがんと比較してもとても低いです。
年間25,000人から30,000人程度が膵臓がんを発症しますが、同じくらいの方が膵臓がんで亡くなっています。

 
膵臓は横幅20cmほどしかありませんが、周辺の臓器や重要な血管の位置により膵頭部・膵体部・膵尾部の3つに分けられます。
それぞれの部位のどこにでも膵臓がんは発生しますので、現れる症状も色々あります。

早期の膵臓がんでは、特有の症状として現れるものはありません。
しかし、膵頭部に発生した早期の膵臓がんでは、膵液が通る膵管と胆汁が通る胆管の両方を早い段階で閉塞させてしまうため、黄疸として早期の膵臓がんが発見されることがあります。

一方、膵体部や膵尾部に出来た場合は胆管から距離が離れており、黄疸で見つかることはまれです。
背中の痛みを自覚するなど、進行した状態で膵臓がんが見つかる場合が多いです。

早期に膵臓がんを発見するには、健康診断や人間ドックで以下のような検査を受けるしかありません。

膵がんに特有な採血項目はありませんが、AST、ALTやビリルビン値といった項目で黄疸の有無を調べます。
また、膵臓がんの腫瘍マーカーであるCA19-9、CEA、DUPAN-2、Span-1を追加で調べることもあります。

腹部超音波検査は体の表面に近い位置にある臓器に対しては有用な検査です。
しかし膵臓は胃の裏側で背中側にありますので、膵がんの発見に腹部超音波検査はあまり有用ではありません。

レントゲンを用いて体の内部を調べます。CTは体を輪切りにした写真を撮りますので、背中側にある臓器でも確実に検査することができます。

原因がよくわからない状態でお腹の痛みが続く場合、腰や背中の痛み、黄疸、体重減少では膵臓がんを疑い腹部超音波、CT、MRIなどの画像診断を受けることが勧められます。

 
膵臓がんの発生に関する危険因子としては、以下のようなものが考えられています。

 

  • 長期間の喫煙習慣や多量飲酒
  • 膵炎を繰り返して慢性膵炎を発症した
  • 糖尿病
  • 遺伝や家族歴

特に膵臓がんの家族歴がある方は正常な人に比べて危険性は13倍、遺伝性の膵炎を起こす家系の方は53倍の危険性を持っていると言われています。
そのため、膵臓がんの家族歴がある方は、禁煙や禁酒の指導により膵臓がんの発症を予防する必要があります。

 
膵臓がんが進行し症状が悪化した場合、黄疸や背中の痛みの他に、糖尿病の悪化や消化管の閉塞などの症状が出ます

膵管が閉塞してしまうと、血糖をコントロールするインスリンが分泌されなくなります。
そのため、糖尿病をお持ちの方が膵がんを発症してしまうと、突然血糖の管理が悪くなり、高血糖による昏睡を起こすこともあります。

膵頭部の周りには胃や十二指腸などの消化管が巻ついているため、膵頭部に出来た腫瘍が大きくなるとこれらの消化管を閉塞させてしまいます。
すると胃や十二指腸から食事や胃液が排出されなくなるため、悪心、嘔吐、胃が膨らむことによる疼痛などが症状として出ます。
また、進行した膵がんではお腹の中にがん細胞が散らばってしまうため、小腸や大腸などを複数の箇所で閉塞させてしまうことがあります。

 
膵臓がんの治療方針は、診断された時点で遠隔転移がない、重要な血管や臓器が巻き込まれていないか、などを慎重に判断する必要があります。
その結果、切除が可能と判断されれば、がんが発生した部位に応じて手術の方法が決まります。

代表的な手術の方法は以下の通りです。

 

  • 膵頭十二指腸切除術
  • 膵体尾部切除術(脾臓も同時に切除することもあります)
  • 膵全摘術

遠隔転移がある場合や周りの重要な臓器にがんが広がっていた場合には、外科的切除の適応とはなりません。
そのような場合では、全身化学療法と放射線療法を併用した治療が行われます。
しかし、膵臓がんに有効とされる抗がん剤の種類や組み合わせは他のがんと比べてもまだまだ少なく、確実に有効であるとは言い難いです。

 
膵がんは現代医学をもってしても治療成績が悪く、特に進行した状態で発見されると、残念ながら余命はあまり望めません。
一般的に行われる健康診断では膵がんの発見に特化した検査項目は含まれていませんので、腹部CTなどの検査も受けられる人間ドックでの早期発見が望まれます。

また、膵がんの治療には高い専門性が求められますので、日本肝胆膵外科学会の定める肝胆膵外科高度技能医が在籍する医療機関での治療が望まれます。