代表的な症状

「脳炎」という病気を聞いたことはありますか?
冬場に大流行するインフルエンザの重大な合併症として、たびたび話題になっています。

 

そこで、なぜ脳炎になってしまうのか、脳炎とはどのような症状が出るのか、そしてどう治療していくか説明します。

 

栃木県宇都宮市で脳炎の治療

 

 

脳や脊髄は、髄膜と呼ばれる膜によって保護されており、髄膜と脳・脊髄の間は髄液という液体で満たされています。
髄膜や髄液の存在する空間は「髄膜腔」と呼ばれ、無菌状態が保たれるように脳脊髄関門という関所で雑菌が入り込まないように防がれています。
脳炎とは、この無菌状態の髄膜および髄液に病原体が入り込み、脳に炎症を生じさせる病気を指します。

 

脳炎を発症する病原体は多くの場合、鼻やのどについているウイルスです。
通常は病原体が何かの拍子に血液中へ入り込んだとしても、自己免疫により大事に至らずに済みます。
しかし、免疫機能が発達していない幼児の場合は、何らかの原因で病原体が脳脊髄腔に侵入すると、中枢神経に到達して脳炎を引き起こします。

 

脳炎の初期症状は髄膜炎とよく似ています。
初期症状は通常のかぜとまったく一緒ですが、その後、急な発熱、頭痛、嘔吐、意識障害などの症状を呈して、初めて脳炎を疑うことになります。

 

髄膜炎に特徴的な頸部硬直(首の後ろがガチガチに硬くなる)や、Kernig(ケルニッヒ)兆候といわれる症状が確認できればよいのですが、乳幼児ではこれらの症状が非常にわかりにくいため、診断は困難です。
なかには、ウイルス性脳症の影響で幻覚を見たり、性格が突然変化する場合もあります。
一度脳炎になってしまうと、約半数の方しか助からないともいわれています。助かったとしても、麻痺や意識障害など、後遺症を残すこともあります。

 

過去には、日本脳炎が日本における脳炎の原因として最も多かった時期もありました。
しかし1970年頃より日本脳炎ワクチンが普及し始めてから、年間10例程度しか発生しなくなりました。
そのうち、脳炎を発症した患者さんのほとんどが、ワクチンの効果が切れてしまっているであろう高齢者の方たちです。

 

最近では、インフルエンザ脳症が日本では最も多く発生しています。毎年100名程度がインフルエンザ脳炎で亡くなっています。

 

世界的に見ると、東南アジアやオセアニア地域で流行していることもあるため、海外へ行かれる際には必ず日本脳炎ワクチンを受けることをお薦めします。
また、ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎など、日本には存在しないウイルスで脳炎を発症する場合があります。
海外旅行の際には、行く先での感染流行情報に注意してください(*1)。

 

脳炎を治療するためには、髄膜炎と同様に脳炎を起こしている原因を調べなければなりません。
そこで、必ず行う検査に、「腰椎穿刺(ようついせんし)」と呼ばれるものがあります。

 

まず背骨の間から脊髄まで針を通し、脊髄液を回収します。
この脊髄液の中にある様々な成分を調べることによって、どのタイプの髄膜炎かを調べることができます。
加えて、年齢や基礎疾患などを加味し、最終的にどのような治療を行うかを決定します。

 

ウイルス性脳炎の場合は、特定のウイルスにしか抗ウイルス薬はありません。
通常は対症療法といって、熱を下げたり、痛みを取ったりしながら、自身の免疫力で回復するのを待つしかありません。
 

 

日本脳炎は日本脳炎ワクチンで予防ができますが、インフルエンザ脳炎はインフルエンザワクチンを接種していても、予防できるわけではありません。
抗インフルエンザ薬や解熱鎮痛薬を使用しながら回復を待つしかないのです。当然のことながら、細菌感染に使用する抗生物質は全く効きません。

また、ウイルス性感染症を起こしているときに服用する解熱鎮痛薬の中に、使ってはいけない種類があることはあまり知られていません。
インフルエンザなどのウイルス感染症に対し、アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が含まれている解熱鎮痛薬を使用すると、Reye(ライ)症候群という脳症を引き起こす可能性があります。

 

熱があるからすぐに市販薬を、という考え方は非常に危険です。必ず病院で処方された薬、特にアセトアミノフェンという成分が含まれた解熱鎮痛薬を飲むようにしてください。

 

脳炎という病気はあまり知られていませんが、一度発症すると重篤化しやすく、現代医学をもってしても、まだまだ致死率の高い病気です。
意識がない、性格が急に変わった、など心配なことがあればすぐに病院を受診しましょう。

 

■参考
*1(参考)厚生労働省 急性脳炎